新しい扉
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「……一磨さん?」
顔をあげようとした凪紗ちゃんの頭を、手でポンポンと撫でて胸に押し付けた。
「大丈夫、ちゃんと出来るよ」
「……何で……」
「ちょっとだけ、震えてたから」
背中に当てていた手をぐっと自分の方へ寄せて強く抱き直すと、強張っていた彼女の肩の力がフッと抜ける気配がした。
「何でも分かっちゃうんですね、一磨さんって」
凪紗ちゃんが俺の背中に腕を回して、ぎゅっとしがみ付く。
「もうちょっとだけ……」
「いいよ、好きなだけ」
凪紗ちゃんは俺の鼓動を確かめながら、
俺は凪紗ちゃんの髪に頬を寄せて、
お互いを感じながら抱き締め合った。
どれ位そうしていたか分からない。やがて彼女は俺の背中から手を離した。
「ありがとう」
「どう致しまして」
それから笑顔で視線を絡ませて、黙っていると……
「そろそろ、いいか?」
「え?」
「……咲野さん?」
不意に聞こえてきた声に弾かれたように離れて振り返ると、監督がいつの間にか最後列の客席に寄りかかって、ホールの鍵をくるくると指で回していた。
「驚くことないだろう。本多に頼まれて人払いしたのは、俺だからな」
「えっ? そうなんですか?」
「咲野さん、人払いって……」
「似たようなものだろう?」
悪戯な笑みを浮かべてこちらに歩み寄った監督は、一転して真剣な表情になった。
「……明日だな」
凪紗ちゃんを見て、質問というよりは監督自身が確認するように。
「はい」
「うん……いい顔だ」
満足そうに笑った咲野さんは「そろそろ鍵、閉めよう」そう言って、歩き出す。
でも数歩進んで立ち止まり、振り向いた。
「そうだ」
「監督?」
「前にも言ったが、彼女は大事な主演女優だからな……本多には大事に扱ってもらわないと困るぞ」
ニヤリと笑う監督にも、もうあの時のように狼狽えはしない。
「もちろん。彼女は俺にとっても大切な人ですから」
指を絡ませるように凪紗ちゃんと手を繋ぎながら、きっぱりと答えた。
「本多も、益々いい顔になったな」
2人を交互に見て頷いた監督は、鍵をこちらへ放って、今度こそ振り返らずに扉を開けて出て行った。
「……見られちゃいましたね」
少しだけ頬を染めた凪紗ちゃんが、上目遣いで苦笑いをした。
「そうだね、危なかった」
「え?」
凪紗ちゃんの方に屈んで、唇を重ねる。
少し顔を離して彼女を見ると、突然のことで目をパッチリ開いたままで。
その慌てた様子があんまり可愛くてすぐにまた顔を寄せると、彼女も今度はゆっくりと瞼を閉じた。
「……行こうか」
「……はい」
手を取り合って扉を開く。
差し込んだ光がステージへ向けて2人の影を作り出すのを、振り返って眺めた。
「では、凪紗さん。ご自宅まで送らせていただけますか?」
ロビーで彼女に向き合うように立って、恭しくお辞儀をすると、
「一磨さんって、たまにそういう事しますよね。……それ、結構ドキドキするんですよ?」
恥ずかしそうに頬を緩めた凪紗ちゃん。
「はい、よろしくお願いします」
差し出された彼女の、その手をとって口づけた。
Fin.
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