新しい扉
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劇場の重い扉を開くと、薄暗い客席の中央の通路に一筋の光が差し込んだ。
その光の先に立ってステージ上を見つめている凪紗ちゃんにそっと近づいて、背中から包み込むように抱き締める。
「……緊張、してる?」
体をわざと前のめりに傾けて、彼女の頭に顎を乗せる格好でいると、「もー、重たいですよ」と、クスクス笑った。
だから俺も一瞬だけ笑ってから寄り掛かるのをやめると、今度は凪紗ちゃんが俺の胸に背中を預ける形になった。
「……はい、緊張、してます」
「……俺も」
「一磨さん、明日は観客席じゃないですか」
凪紗ちゃんは俺に凭れたまま、また笑う。
しばらくそうしていると、腰の前に回していた俺の手をそっとほどいた凪紗ちゃんは、半歩下がって隣に並んだ。
今度は一緒に大きく深呼吸をして手を繋ぐ。
シンと静まり返ったホールで感じるのは、 穏やかな安心感と、その反対に僅かな緊張感を纏った空気。
「思い出してました。ここで一磨さんに教えてもらった事……」
俺はもう一度深呼吸をして「うん」とだけ返事をする。
初めてのミュージカル出演に緊張して、練習で力を出しきれずにいた凪紗ちゃんに、客席からの景色を見せた日。
あの時はまだ、こんな風に惹かれ合うなんて思っていなかった。
あれからいくつもの事を乗り越えて、2人で歩いて行くことになって。
そして努力家の彼女が自ら掴み取った、新しいチャンスは、咲野監督のミュージカルの主演という大役。
明日の初日は、監督の計らいであの時の出演者が招待されている。
「観客で満たされたホール……明日は私、1人であの舞台から見るんですね」
かみ締めるように話す彼女の手に力が入る。
「……不安?」
横を向いて凪紗ちゃんに問いかけると、少し俯いた彼女は、静かに首を横に振った。
それからしっかりと前を向いて言葉を紡ぐ。
「私、まだまだ皆さんに教えてもらってばかりだけど……」
繋がれた手から伝わるのは、凪紗ちゃんの迷いのない意思。
「……見ていてくださいね」
「 一磨さんが夢中で話す、そんなミュージカルのひとつになるように、頑張りますから」
「“あー、芝居っていいね” って、一磨さんに言ってもらえるように……精一杯」
決してこちらを向くことなく、ステージから視線を外さずに力強く話す彼女は、もうあの頃とは違う。
「うん、楽しみにしてる」
「はい」
「でもさ……」
繋いでいる手を引いて、反対の手で肩を抱き寄せる。
不意をつかれた凪紗ちゃんは倒れ込むように俺の胸に収まった。
「……無理は、しないで」