a spoonful of happiness
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
---------------
ソファーからちょこんとはみ出す小さな頭が、クリスマスソングに合わせて微かに揺れていた。
画面に映るのはサンタクロースの衣装を身に付けた凪紗ちゃん。
それから、二人のトナカイの真ん中で楽しそうにリズムを取る彼女の後ろで歌う、サンタクロースの自分。
まだクリスマスムードもそれほど盛り上がっていない頃に撮影されたバラエティ番組。
ゲストに彼女の名前を見つけて、一緒に歌えると知った時、 隙間なく書き込まれた手帳の、空白部分だけを頼りにしていた彼女との距離が、久しぶりに “仲間” としても縮まるのが嬉しくて。
自然と 打ち合わせにも力が入った。
「アンコールかかったら、まだ歌っちゃいそうだ」
終了後にそう笑い合う出演者の輪の中で、“その時は凪紗ちゃんと二人で歌いたいな” なんて考えてしまった事を思い出しながら傍へ行くと、
「一磨さんとも歌いたかったな」
彼女は小さな声でそう言って、リモコンで時間を戻した。
昨日と同じ事を繰り返すその様子が可笑しくて。
すごく、可愛くて。
「また見てるの?」
訊ねながらマグを差し出して隣に腰を下ろした。
凪紗ちゃがマグを受け取って俺の腕に頭を寄せる。
そんな彼女を今すぐ抱き締めたいと思う急いた衝動と、ふわりと浮き足立つような穏やかな気持ち。
真逆な想いが心の中で葛藤を始める。
でも限られた時間の中、こんな余裕のない所を見せたくなかった。
誤魔化すように空いた手で彼女がマグを持つ手を包んで、子供が悪戯するみたいに指をくすぐって様子をうかがったり……
だけど彼女は気にする様子もないように見えた。
「だって……楽しかったから。それに、やっぱりクリスマスソングはクリスマスに聴かないと」
テレビから視線を外すことなく答えた、その細い肩に手を回して髪を撫でる。
「それ、昨日も言ってた」
「昨日はクリスマスイブで、今日はクリスマスだもん」
子供みたいな口調で、なのにほんのり甘く誘うような香りで拗ねている。
「はは、確かにそうだ」
昨日の凪紗ちゃんは、二夜連続のクリスマスコンサートの初日。
俺は年内最後の収録だった番組で、ずっとスタジオにいた。
スタッフが亮太へのバースデーケーキを用意してくれていた事もあって、そのままスタジオで打ち上げになって。
イブのデートはもちろんお預け。
この仕事をしていたら、驚くような事ではないけど。
それでも離れて過ごしたくなかったから、ほんの数時間、ソファーで少し寛いでから眠る、それっぽっちの時間しかなかったけど家に誘った。
ライブで疲れている彼女を外で待たせたくなかったから、遠慮するのをどうにか言い聞かせて先に部屋で待っていてもらって。
結局それほど待たせることはなくて、彼女が部屋に来て一時間もしないうちに帰宅出来たけど。
「おかえりなさい」
彼女が部屋から顔を出した時の気持ちを、どう表現すればいいのか。
言葉が見つからなくて、靴を履いたままで抱きしめてしまった俺を凪紗ちゃんはどう思っただろう。
そんな事を考えている俺にサンタの凪紗ちゃんは、テレビの中から真っ直ぐ手を差し伸べてウィンクをした。
日付はもう変わろうとしてる。
昨日と反対に、凪紗ちゃんの方がライブの打ち上げだったから、出迎えたのは俺。
明日もお互い朝からスケジュールはびっしり。
それでも一日の終わりにこうして過ごせるだけで十分幸せで。
「ちょっとだけ、ブランデー入れてみたんだけど、どうかな?」
いつものコーヒーにほんの一匙。
君と過ごすようになってからは、こんな些細な特別がたまらなく愛おしい。
ふうっとマグに口をつける彼女の柔らかい髪に、そんな気持ちでずっと触れていた。