繋いでいく明り
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気を使いながら鍵を閉める音は、暗闇では意に反して一際重く、そして鈍く響いた。
“シッ…” と、殆ど音にはならない小声で自分を注意して靴を脱ぎ、明かりをつけないままリビングのドアを開けると、誰も居ないと思っていた部屋の片隅がぼんやりと光っていた。
その光の中に映し出されている、音の出ていない映画。
画面の中の俺の視線の先のソファーには、もうとっくに眠っていると思っていた、大切な人。
「凪紗ちゃん?」
彼女はブランケットをかけた膝の上で手を組んで、ヘッドフォンを着け真剣な顔で、食い入るように映画の世界に浸り、こちらに全く気がつかない。
予定より1日早く帰ることが出来た数週間ぶりの家。
俺が把握しているスケジュールでは、彼女は朝から撮影がある筈だ。
だからこそ夜中に起こしたくなくて連絡せずにいた。
「こら、ちゃんと寝ないと明日に響くだろ?」
聞こえないのは分かっていた。
でも久しぶりに会えた嬉しさと気恥ずかしさを誤魔化すように、先輩ぶった口調で近寄った。
それから彼女の隣に浅く腰かけると同時に、映画はエンディングまでもう少しというところに差し掛かり……
凪紗ちゃんは、少し身を竦めて、俺の腕を反射的に掴んだ。
手探りで手を繋ぐ、いつもの無意識の行動。
空を切る筈の手が触れた腕に、凪紗は目を丸くする。
「え? 一磨さん?」
自分で掴んだくせに「どうして?」「いつ?」と慌てている、その間にも映画はどんどん先へ進む。
何度も一緒に観た映画だから、この先の展開も彼女の反応も分かってる。
凪紗ちゃんはいつもこうして片方の手で俺の手を探し、そうして繋いだ手とは反対の手で、目にうっすら浮かんだ涙を拭う。
でも今の凪紗ちゃんの顔を覗いてみると、それどころではないようだった。
信じられないという様子でヘッドフォンをずらし、まだ目を見張ったまま。
「ただいま。凪紗ちゃん」
「お、おかえりなさい……。 えっと……あれ?」
映画の中で正面を見据える役者の俺と、今ここに居る筈のない彼女のパートナーの俺を見比べて、自分の手に視線を移した。
事態が飲み込めずにキョロキョロしてるのに、いつまでも手は掴んだまま。
確かめる様に指先で何度かギュッと袖を握り、また離すことを繰り返す。
そんな些細な仕草も、たった数週間離れただけで、もう懐かしく思えて。
帰ってきた、そんな安心感で胸が一杯になった。
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