ブランコ
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*
「なかなか来ないと思ったら、寄り道してるんだもんなー」
通話を切断してこっちに歩いて来るまーくんは、遠目で見ても分かるくらい、また背が伸びていて、そんなに長く会っていなかったわけじゃないのに、とても懐かしい気持ちがした。
「ただいま、まーくん」
「おかえり……って、挨拶は後」
「だって、迎えに来てくれたんでしょ? ありがとう」
「呑気だなあ」
すぐ近くで立ち止まった呆れ顔に見下ろされた。
見たことのない角度から降ってくる声は、私が知っているより低く掠れていて──会うたびにどんどん大人になっているのが、寂しいような……ううん、違う。この気持ちは、なんて言えばいいんだろう。わからないけど──
「まーくん、ただいま」
「もう聞いたよ」
「いいの、言いたくなっちゃったから」
「変なの──まあ、いいけどね。おかえりなさい。一磨もね」
「うん。真くん、久しぶり」
「なかなか来ないから外出てみたら、隣のおばさんに言われたよ。『凪紗ちゃん帰ってたわよー』って」
「あのね、人通り少なくはなってるけど、まだ仕事帰りの人とか歩いてるんだよ?」
「この辺の人はもうみんな気にしてないけどさ、そういう人ばっかりとは限らないんだから──気を付けなよね」
「うん、ごめんね」
「いいよ別に、謝んなくて。でも、何でブランコなんて乗ってたのさ。てっきり家の前まで送ってもらうのかと思ってたのに、歩いて来てるし」
鎖にちょんと触って不思議そうにしたまーくんに質問されて、二人顔を見合わせた。
「……何となく?」
「そうだね、何となく」
「何それ」
まーくんはまた呆れ顔をしたけど、すぐに、にーっと子供っぽく歯を見せて、ひょいとブランコに立ち乗りになって漕ぎ始めた。
「ブランコなんて、いつぶりだろ」
あっという間に強く揺れて、風がヒュンと音をたてるほどになったブランコは、私の頭より高くなって、まーくんの体はほとんど水平になってるように見えた。
「まーくん、危ないよ」
「平気だって」
「だって、もう暗いし……」
「大丈夫ちゃんと見えてるよ──ちょっと前避けててー」
そう言うと同時に手を離して、ブランコが地面に近づいて、また離れようとする一瞬のタイミングで、勢いよく飛び下りた。
着地した時に踏んだ砂利が、ザザッと擦れて、その音に混ざるように、「よっ」と掛け声をかけたまーくん。
「……っと、成功!」
「もう、怪我したらどうするの」
「お姉ちゃんは心配し過ぎ。ほら、お母さんたち待ってるし、行くよ」
鎖を押さえて揺れを小さくしてから、くるっと背を向けて歩き始めて、まーくんはすぐにピタリと足を止めた。
「……あ、思い出した。小さいとき、ここでお母さん待ってたことなかった?」
「まーくんも覚えてるの?」
「覚えてたんじゃなくて、今思い出した。そーだよ、一磨聞いてよ。お姉ちゃんてばさ、おかしいんだ」
ニヤニヤ笑いながら話し始めたまーくんの思い出話は、私の記憶とは少し違っていて──。
「 “ お姉ちゃんが一緒だから怖くないよ、まーくん ” なんて言いながらさ、お姉ちゃんの方が泣きそうになってんの。まだ全然暗くないのに、“ 暗くたって平気だからね ” なんて」
「そんなに明るい時間だった?」
「そりゃそうだよ、そんな遅い時間に僕たちだけでいられないじゃん、せいぜい5時とか6時じゃないの? それだって遅いけどね」
「そうだったかな……」
「お姉ちゃんは昔っから怖がりなんだよ。ね、一磨?」
「うん、そうだな」
「一磨さんまで! もー」
一磨さんは、おかしくてたまらないという様子で、顔の近くでこそっと「ほらね」なんて、コツンと腕をぶつけてきた。
「ほら、イチャイチャはもう充分でしょ」
「まーくんてば!」
「行こ。早くしないと、お母さんも痺れきらして出てきちゃうよ」
今度こそ立ち止まらずにスタスタ歩き出したまーくん。
「行こうか凪紗ちゃん」
「はい」
速歩きのまーくんの背中を追う、私と
一磨さん。
さっき通った、鳩の石。
小さなときは跳び箱みたいに跨いでいた石を、軽々と避ける私たち。
その後ろでは、ブランコの音が夜空に透けるように優しく、静かに響いていた。
Fin.
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