ブランコ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
*
一磨さんが私の背中を静かに押すと、送り出されたブランコから伸びる足は地面を離れて風を切った。
反対に揺れて背中に風が当たると今度は一磨さんの気配が近付いてくる。
包み込むような優しい視線を感じていると、すぐにまた温かい手が私を送り出してくれる。
それを何度も繰り返し、私は少しずつ空に近くなる。
見上げた先にはうっすら光る星。
目を凝らしてみれば、本当はたくさん並んでいる、見えにくいけれど確かにある光。
足をブンと振ってブランコを揺らして、また空を仰ぐ。
子供みたいに遊んでいると、時間が戻ったような気分。
まだ私がこの仕事に出会っていなくて、一磨さんはテレビの向こう側の人……そんな頃に。
だけど一磨さんの元に戻る今に、胸がいっぱいになって……背中に当たる温もりが──とても、幸せで。
「一磨さん」
「うん?」
「風が気持ちいいです」
「そう、よかった。でも凪紗ちゃん、寒くない?」
「大丈夫ですよ」
一磨さんは背中を押すのを止めて、私の斜め前の柵の角に浅く座った。
ゆったりと足を伸ばした姿に、また胸がきゅんと鳴った。
小さく手を振ると、ひらひらと振り返してくれて──それから少しの間黙って、ブランコを揺らし続けた。
こんな時間の住宅街には似合わない音だけど、軋む音はさっきまで感じていた印象と違って、肌に当たる風に穏やかに交ざり合って、いつの間にか寂しいとは感じなくなっていた。
漕ぐのをやめて惰性で揺れるのに任せると、触れ幅が小さくなてきたタイミングで、「ねえ」と呼び掛けてきた一磨さんは、唐突に話を元に戻した。
「一人じゃなかったかもしれないよ」
「え?」
「このブランコに乗ってた子」
その言葉は、ブランコがちょうど前で止まったタイミング。私はすぐに後ろに小さく引き戻されてしまう。
それを足で止め、音が消えたブランコの上で、正面をじっと見た。
「──こんな風に、誰かと一緒にいたのかもしれない」
そのまま柵に浅く座る一磨さんの表情は、街灯のぼんやりしたオレンジ色の中で、ふわりと、まるでそこだけ時間が違うみたいに明るくて──。
「なら……寂しくないですね」
「そうだね、きっと」
私たちの小さな笑い声は、まるで隣にいるみたいに心地よく耳を掠めた。
私の中にあった寂しい光景は、すっかり消えてなくなって──代わりに浮かんだのは、懐かしい思い出。
これもあまり意味のないことで、今話さなくちゃいけないような話じゃないけど……でも。
一磨さんと、もう少しだけここにいたいから……そんな理由で話していても、いいかな。
「まーくんとこんな風に、お母さんの帰りを待っていたことがあります」
「子供の頃の話?」
「はい。私は小学生だったけど、まーくんはまだブランコに足がつかないくらい小さくて──」
「うん」
「本当は、暗くなってきて怖かったんだけど。でも、 “ 早くお母さんに会いたい ” って、まーくんが頑張ってて」
「平気な顔してた?」
「“ もうすぐお母さん来るよ、そしたら皆で手を繋いで帰ろうね ” なんて言いながら」
「凪紗ちゃんは昔から変わらないね」
「どういう意味ですか?」
「優しくて、相手の気持ちをすごく考えてて、少し強がりなところ──それと」
立ち上がって隣に来た一磨さんの手が、ポンと私の頭を撫でた。
「怖がりなとこ、とか」
「今はもう怖くないですよ」
「そう?」
「そうですよ」
「ほんとかなあ」
一磨さんは悪戯っぽく笑って、私はわざとらしく拗ねた顔をして見せて、やっぱり二人の息は、うっすら白くて──
「そろそろ、行こうか」
「はい」
差し伸べられた手に掴まると軽く上に引かれて、私は力を入れることもなく立ち上がることが出来た。
「──あ」
「凪紗ちゃん?」
「電話、まーくんから」
バッグの中の振動に慌てて携帯を取り出して、そのとき手を離したのが、少し寂しくて。
「──離れがたいね」
「……はい」
照れ笑いをしながら、携帯に耳を当てた。
「──もしもし、まーくん?」
「『──目立ちすぎ』」
「「え?」」
耳元と、少し離れたどこかからと、二つ聞こえてきたまーくんの声。驚いて振り返ると──鳩の石に片足を乗せて、まるで仁王立ちみたいにしているまーくんがいた。
「『──ここ、ふっつーの住宅街なんだからね』」