あの日のこと
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『俺はさ、まずはWaveのリーダーとしてどうするべきかって考える癖がついてたんだ。自分がどうしたいのかってことは、あまり考えてこなかった』
あのとき、あんな場所で、どうして君にそんな話をしたのか──今でも分からない。
始めは、閉じ込められたエレベーターの中で少しでも気が紛れるように、不安にさせないように、暗闇を怖がらずにいられるように…とにかく何かを話していようと考えていたと思う。
でも喋り続けているうちに、メンバーにも話していなかった本音を、何故か君には話せる気がして……。
『でもそれってずるいよな。リーダーとしての俺でいれば……本当の本多一磨は傷付かなくてすむだろ?』
君にそう言いながら──
それだって本当はずるいと思った。
許しを乞うように誰かに話して、その癖言い訳するように、作り笑いで誤魔化して。
だけど聞いてほしかった。
心のどこかで、凪紗ちゃんは受け止めてくれるんじゃないかと期待して……俺を見て欲しいと。
──弱い俺も知って欲しいと、願っていたのかもしれない。
かっこ悪くて、情けない。
でも──
「ありがとう」
「え?」
「受け止めてくれて」
「一磨さん、まだ酔いがさめてないですか?」
クスクス、クスクス……凪紗ちゃんが笑うと、俺の頭が小刻みに揺れた。
いつの間に、彼女の肩に凭れていたんだろう。慌てて退こうとした。
でも、少し頭を浮かせたところで、凪紗ちゃんの手が──凭れ掛かっているのと反対の手が回り込み、そっと頭をひと撫でしたと思うとすぐに肩に戻された。
ふわっと……優しい音が鳴ったような気がした。そんな音実際には存在しないけど、凪紗ちゃんの纏う雰囲気や、ふとした仕草──俺には全部が優しく響くから。
それに惹かれて、凪紗ちゃんに寄りかかってしまった。
「ごめん、重いよね」
ぼうっとする頭で言ったけど、動くことが出来ない。動けないからこうしてるのか、このままでいたいから素直に言うことを聞いたのかも分からずに、また目を閉じる。
「ううん、気にしないで。重くないですから」
「そんな筈──」
「本当です。だから落ち着くまで少し眠っていいですよ」
──かっこ悪いな、やっぱり。
「そんなことないですよ。嬉しいです」
──あれ、俺、今……
「ふふ……はい。たまーにですけど、口に出てますよ」
クスクス……また小刻みに揺れた二人。
「まいったな……」
「本当に嬉しいんですよ、私。それに……」
「うん」
「──やっぱり。何でもないです」
話している間凪紗ちゃんはずっと前を向いてるようで、声はソファに落ちることなく、少し遠くに聞こえた。
「『……やっぱり、最初から無理だったんだ』」
君を妹として見るなんて──
「凪紗ちゃん、好きだよ」
「はい。私も好きです。一磨さんのこと。大好き」
「──良かった」
「ね、やっぱり」
トントン──と、指が膝を叩く気配を感じた。
促されるように頭を乗せた凪紗ちゃんの膝は折れてしまいそうに細くて申し訳ないような気持ちもしたのに、肩に凭れていたときと同じで離れがたかった。
それがわかっているからなのか、凪紗ちゃんは静かに頭を撫で続けてくれて。
「一磨さん、もう少しこのままでいてもいいですか?」
それは、俺の方が言いたいことなのに。
君はこんなときでも、俺を甘やかすのが上手いから、どっちが年上なのか分からなくなったりもする。
「──分からなかったんです。どうしてあのとき、私は一磨さんの背中に腕を回してしまったのか。……それに私だって」
「うん」
「──やっぱり、内緒」
「凪紗ちゃんそればっかりだ」
「ふふ……」
頭を撫でる手は止まらない。
「お休みなさい。むかしの話…またたくさんしてくださいね。それでね」
「……うん」
「目が覚めたら……あしたの話を、たくさんしましょう?」
その言葉が魔法の呪文のように胸を打って、かくんと意識が遠退いた。
水の中で耳を澄ませているような気持ちで凪紗ちゃんの声に包まれて、夢に意識を飲み込まれる瞬間……
「「愛してる」」
二人の声が、重なった気がした。
『ホントはね…… “一磨さんのこと、好きになっちゃった?” って──』
『すごーく、焦ってたんです。だから──』
『一磨さんが、“自分で選んで” くれたこと、本当に嬉しかった』
凪紗ちゃんの “内緒話” が聴こえてきた。
返事をしたかったけど、もう動けそうにないから──だから、むかしの話は、夢の中で。
その代わり、あと少しだけここで眠ったら、そのあとはちゃんとベッドに行くよ。
これからのことは、そのときに話そう。
朝ごはんのメニュー、そのあとのデートのスケジュール、その次のオフにやりたいこと。
たくさん、話そう。
もっとずっと──遠い遠い未来の夢も。
Fin.
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