【桃色のチューリップ(恋の始まり)】キャラはLoveDuet設定
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「……ありがとうございます。でも、もうすぐ帰国しちゃうのに」
ぎゅっと花を抱えた彼女の表情はよく見えなくて、急に不安になった。
余計な事だったかもしれない。
よく考えたら、恋人でも何でもないやつからいきなり花束を渡されても、困るだろうか。
浮き足だった行為に、急に恥ずかしさが込み上げた。
だけど、もう遅い。
それなら、彼女が負担にならないように、あくまでも軽い様子で──そう、考えた。
「少しの間でも、凪紗ちゃんに楽しんでもらえたらいいかなってさ。帰国の頃にも、確かに枯れてないとは思うけど……」
「……そう、ですよね」
「ごめん、考えなしだった。やっぱり勿体なかったかな」
「……いえ……! そうじゃなくて、そういうことでは、なくて……」
慌てた様子で顔を上げた凪紗ちゃんは──何故だか、少しだけ、頬が色づいていた。そう、ちょうど、その花束みたいに。
「……置いて帰りたくないな……って」
「──え?」
「だって……せっかく、一磨さんから……」
胸の真ん中で、両手で握りしめた花束に顔を寄せる彼女の顔がまた見えなくなった。
「あ、いえ。いえいえ…っ。何でもないです、嬉しいです! 本当に、本当にすっごく」
慌てて捲し立てる、下を向いたままの凪紗ちゃんは、どんな表情をしているか見えないけど、少し……髪からちらっと覗いた耳が、さっきよりもっと赤いような気がした。
「……どうしよう、嬉しい」
そんな小さな呟きが聞こえてきて、また胸が苦しくなるような、軽く締め付けられるような気持ちになった。
仕舞おう、いつもの様に。
拳を軽く握って、息を整える。
気持ちを切り替える、いつもの俺に、 “一磨さん” に。
そう思うのに── 凪紗ちゃんが歩き始めても、追うことが出来ない。
後ろ姿から目が離せなくて、そこから覗く淡い桃色が日の光で透けているのが、まるで自分の気持ちのようで。
今彼女と並んで歩いたら。
凪紗ちゃんの顔を見てしまったら。
急に石畳の音が聞こえなくなって、代わりにうるさく騒ぐ鼓動が頭に響く。
まるで映画のモノローグのように、凪紗ちゃんの歩く姿は、鼓動に合わせて遠くなっていく。
ただ今度は……これまでとは違って ──
これまで意識して遠ざけていたその先を、考えたくなった。
隠せなくてもいい。
そう、思った。
「……一磨さん?」
「凪紗ちゃん」
距離が開いてしまっていたことに気づいた彼女が振り返ってこちらへ戻ってくる、その方向へ踏み出した足音は、俺への合図のように感じた。
向かい合って、立ち止まる。
ああ、やっぱり。
“ お兄ちゃん ” に、戻りたくない。
「あの──さ」
「帰ったら、また」
「プレゼントさせてくれる?」
「……一磨さん?」
「今度は、行き当たりばったりじゃなく、きちんと贈りたい。──いいかな?」
「え? あ、はい。もちろん。嬉しいです、けど」
そう答えて、ポカンと首をかしげる様子は可愛いけど、俺の意図は伝わらなかったようだ。
仕方ない。今の俺は彼女にとって “ お兄ちゃんの一磨さん ” なんだから。
「あぁ、そりゃそうだよな……うん」
「一磨さん?」
改めて、気付いてもらえるように、しっかり凪紗ちゃんの目を見て言葉を続けることにする。
「凪紗ちゃんに、特別な意味を込めてプレゼントしたい……ってことなんだけど」
「え?」
瞬間。 桃色の頬は、今度は真っ赤になった。
ぶんぶんぶん! そんな音がしそうな勢いで頷いた彼女は、すぐにパッと空を見た。
「あ、あの…それって──」
「うん」
「私……勘違いしちゃいそうです、よ?」
「それって──」
言いかけて。
でもこれは、ちゃんと顔を見て言いたくて。
チューリップをそっと手でよけて、身を屈めて凪紗ちゃんを正面から見た。
「勘違いじゃない──本当の俺の気持ち」
今度は、目を反らず真っ直ぐに。
「妹としてじゃなく、好きだって意味」
「……」
「それでも受け取ってもらえる?」
「──はい」
「良かった」
花束に邪魔をされながら、額と額をコツンとぶつけると、ヒューっと、青年が陽気な口笛を吹く音が聴こえてきた。
こちらへ向かって手を振りながら笑う姿に、彼女は目を丸くして、それから── 同じように手を振りながら、フラワーワゴンに向かって「へへっ」と笑った。
「行こうか」
「はい」
差しのべた手に、凪紗ちゃんが遠慮がちに指先を添える。
「あの、一磨さん。一緒に、撮りませんか?」
スマホを空にかざして、体を寄せて、画面いっぱいに映る二人。
桃色の花を中心に、笑顔の二人。
チューリップみたいな彼女は、真っ赤な薔薇みたいになったり、満開の向日葵のようだったり。
帰ってから最初に贈る花は、どんなものにしようか。 石畳に響く足音でも消すことができない程の鼓動は、さっきまでとは違っていて、誤魔化すよりむしろ、凪紗ちゃんにも届いたらいいとさえ思えた。
fin.
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