大切な時間
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彼が夢中になって話している姿が好き。
「何回見ても、新しい発見があるんだ」
「独特の存在感があってさ、本当にすごいんだ」
そんな風に言われて観始めた、30年ほど前の映画。
作品の世界に入り込んだ彼の表情は、そこにいる少年たちと、まるで一緒に冒険をしているみたいに生き生きとしている。
いつも私のことを 「くるくる表情が変わってかわいい」 なんて彼は言ってくれるけど。
こんなとき、私も彼のことを同じ風に思ってる。
「男がかわいいって言われても……」ってきっと困ってしまうから、絶対に言わないけど。
やがてエンドロールが終わりトップ画面に映像が戻ると、彼は大きく息を吐いて「やっぱり、いいな……」と呟いて、いつものように話し始めた。
出演していた俳優が若くして亡くなったこと。
亡くなる前に決まっていた映画と、その代役のこと。
舞台となった場所や時代設定。
原作について義人君と語り合ったこと。
彼の口から次々に出てくる話題が尽きることはなくて。
私は、時折相槌を挟んだりしながら、その言葉のひとつひとつに、耳を傾ける。
本当に大切な、大好きな、時間。
いつも周りに気を配って、自分の事は二の次で。
誰に対しても聞き役の回ることのほうが圧倒的に多い彼が、息継ぎを忘れてるんじゃないかと思うほどに、夢中で話す。
私にはそんな風に気を許してくれているんだということが、たまらなく嬉しい。
『ごめん、退屈だったよね?』
なんて、出会った頃は途中で申し訳なさそうにする事も多かった。
だけど今は、私が本当にこの時間が大好きなことを彼は知っているから。
だからテレビの画面を見据えたまま、ずっとずっと、話し続ける。
昔はただ聞くことしか出来なくて。
彼から教わることばかりで。
でも今は、私も色々な経験をして、時には感想を言い合ったりすることも出来るようになった。
私の世界は、一磨さんと出会ってからどんどん広がっていく。
知らないことに出会う幸せも、彼から教えてもらった。
満たされた時間に、幸せなため息をついて目を閉じると、体中に彼の言葉が、ゆっくりと染み込んでいく気がした。
やがて会話が途切れ、DVDを取り出そうと立ち上がった彼の背中を、ぼんやりと眺めていたら、なぜかふと、母と映画を観た時の事を思い出した。
「そういえば、お母さんと一緒に映画を観たときに言われたんです。これを大人になってから改めて見ると、まったく違う印象や感想を持つと思うわよ、って」
「お母さん、子供が生まれてからは、視点も変わってたって」
「この映画も、そうなのかな?」
そう言うと。
「なら、その時になったらまた一緒に観てみようか?」
ケースにしまったDVDを持って、私の横に座りなおした彼が、当たり前のように答えた。
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