おついち夢(短編)
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あの一件以来、どういうわけか彼がやたらと近づいてくるようになった。
放課後になると、自転車置き場で待ち伏せされているのがすっかり日常になってしまったくらいだ。
一時期は淡い恋心を抱いていた。年頃の女の子として、ごく普通に「もし彼氏にするなら、きっと彼みたいな人がいい」なんて思ったりもした。
でも、それは私だけじゃなかったらしい。周りの女の子たちも同じように思っていて、彼は誰から見ても手の届かない“高嶺の花”。そんな人がどうして、毎日のように「一緒に帰ろう」なんて誘ってくるのか。不思議でたまらなかった。
困惑しながらもその日々に慣れ始めて、二か月ほど経った頃だった。
唐突に、爆弾みたいな一言を投げかけられる。
「昨日、鹿島先輩に告白されちゃってさ。美人だし、付き合ってみようと思うんだ」
……鹿島先輩?
思わず聞き返した。学内でも有名なミスコン女王の名前。先日、交際していた後輩を振ったって噂も耳にしていた人だ。
なるほど今日はやけに上機嫌だと思ったけれど、まさかそんな展開だったなんて。
胸の奥がスッと冷えていく。
――もしかして私、とんでもなく危険な人を好きになっていたのかも。
そう考え始めると、彼の本性が少しずつ見えてきて、だんだん恋心から遠ざかっていった。
「……彼女いるなら、一緒に帰るのやめない?正直、刺されたら怖いんだけど」
冗談めかしてそう言ってみても、彼は全然動じない。
「えー?俺は莉央のこと友達だと思ってるのに」
「……男友達?」
「そうそう。地味だから気づかなかったけど、結構男勝りだよね。そういうとこ、好きだよ」
――これが二か月間、執着され続けた末にたどり着いた関係。
思い返せば私は男兄弟に囲まれて育ったし、甘やかされるよりも運動に打ち込んできた。今も陸上部で県大会優勝するほど走ってばかりで、“女の子らしさ”とは縁遠い。
だから、憧れの気持ちが置いていかれるのも自然なことなのかもしれない。
それでも――彼はやっぱり面白くて、気が利く人だった。
欲しかったCDをさっと貸してくれたり、探しても見つからなかった本を一緒に探し歩いてくれたり。
たぶん彼は、相手が誰でもそういうことを自然にできる。だからこそ、誰からも好かれるんだろう。
けれど、今回の件だけはどうしても見過ごせなかった。
恋心は薄れてきたとはいえ、友達として、かつて好きだった人として――彼にはこうあってほしい、という気持ちがまだ残っていたのかもしれない。
この関係が壊れてしまうかもしれない。
それでも、どうしても言わずにはいられなかった。
「おついちがどうしたいかは自由だと思う。でも、真面目な話をするなら……彼女がいるのに他の女の子と一緒に帰るのはよくないよ。その先輩に対して失礼だと思う」
「……意外だな。俺のこと好きなら、“あわよくば”って一緒にいる方を選ぶと思ってたのに」
「はぁ?!やっぱりそうやって弄ぶんだ!悪いけどね、こっちだって恋する乙女だったんだよ!彼女がいるのに他の子と帰ったら、そりゃ嫌だし可哀想だわ!……お願いだから、私の理想の王子でいてよ!」
気づけば声を荒げていた。
激情に任せてぶつけた言葉に、はっとしてしまう。完全に言いすぎた――そう思った瞬間から挙動がおかしくなり、彼の目をまともに見ることもできなくなった。
沈黙が落ちる。
おついちが口を開こうとする気配を感じた瞬間、私は反射的にその場から逃げ出していた。
「?! は、ちょ、なんで逃げるんだよ!」
背後から声と足音が迫ってくる。けれど残念、私は陸上部。足の速さだけは絶対に負けない自信がある。
全力で走り抜け、角を曲がり、ついに振り切ったと確信したとき、胸の奥にわきあがったのは勝ち誇った気持ち――勝った、いや、多分喜ぶところではない。
翌日。
警戒すべきは放課後の帰宅時間だけ――そう思っていた私は甘かったのかもしれない。
なにせ彼がクラスでわざわざ話しかけてきたことなんて一度もなかった。
どうしてよりによって、着席して早々、前の席の鈴木くんの椅子に腰かけてくるのか。思わず恨めしげに睨みつけてしまう。
「こわ〜い。莉央ちゃんってば、せっかくの可愛い顔が台無し」
「その席、鈴木くんの」
「さっき借りるって言ったから大丈夫」
「……そう。じゃあ私、音楽聴くから」
イヤホンを取り出そうとした手を、不意に掴まれる。驚いて彼の方を向くと、握らされた手のひらに小さな飴玉が転がっていた。
「朝買ったやつ。あげる」
それだけでなく、彼は続ける。
「それとさ、昨日“告られた”って話したでしょ。あのあと色々考えたけど……付き合うのやめた」
「……やめた?」
「悪かったよ。だから――また一緒に帰ろ?」
そう言って、上目遣いでこちらを覗き込んでくる。
駄目?とでも言うように。
……悔しい。ロクでもないやつかもしれないのに、また惹かれてしまう自分がいる。
そして帰り際、彼は少し真面目な声で話してくれた。
「俺のこと好きになる人ってさ、だいたい俺自身より“肩書き”に興味ある人ばっかなんだ。だから自信家な人しか告白してこないし、今回の先輩もきっと話題性がほしかっただけなんだと思う」
彼はそこで一度息をつき、私を見て笑った。
「でも莉央は、“彼女が可哀想だ”って真剣に言ってくれただろ。あの言葉で、自分も結局利用しようとしてたんだって気づいたんだ。だから、振った」
その言葉に、胸の奥が少し熱くなる。
「……モテるって、大変だね」
「ねぇ、聞きたいんだけど。莉央は俺のどこが好きなの?」
彼はきっと私が照れるだろうと思って聞いてきたのだろう、でももうそんなに甘くはない。
その問いかけに、少しだけ考えてから口を開いた。
「……そうやって、本当は愛されたいって思ってるくせに、上手く隠して確認してくるところ」
わざと意地悪く笑ってやると、彼は一瞬、言葉を失ったように目を見開いた。
放課後になると、自転車置き場で待ち伏せされているのがすっかり日常になってしまったくらいだ。
一時期は淡い恋心を抱いていた。年頃の女の子として、ごく普通に「もし彼氏にするなら、きっと彼みたいな人がいい」なんて思ったりもした。
でも、それは私だけじゃなかったらしい。周りの女の子たちも同じように思っていて、彼は誰から見ても手の届かない“高嶺の花”。そんな人がどうして、毎日のように「一緒に帰ろう」なんて誘ってくるのか。不思議でたまらなかった。
困惑しながらもその日々に慣れ始めて、二か月ほど経った頃だった。
唐突に、爆弾みたいな一言を投げかけられる。
「昨日、鹿島先輩に告白されちゃってさ。美人だし、付き合ってみようと思うんだ」
……鹿島先輩?
思わず聞き返した。学内でも有名なミスコン女王の名前。先日、交際していた後輩を振ったって噂も耳にしていた人だ。
なるほど今日はやけに上機嫌だと思ったけれど、まさかそんな展開だったなんて。
胸の奥がスッと冷えていく。
――もしかして私、とんでもなく危険な人を好きになっていたのかも。
そう考え始めると、彼の本性が少しずつ見えてきて、だんだん恋心から遠ざかっていった。
「……彼女いるなら、一緒に帰るのやめない?正直、刺されたら怖いんだけど」
冗談めかしてそう言ってみても、彼は全然動じない。
「えー?俺は莉央のこと友達だと思ってるのに」
「……男友達?」
「そうそう。地味だから気づかなかったけど、結構男勝りだよね。そういうとこ、好きだよ」
――これが二か月間、執着され続けた末にたどり着いた関係。
思い返せば私は男兄弟に囲まれて育ったし、甘やかされるよりも運動に打ち込んできた。今も陸上部で県大会優勝するほど走ってばかりで、“女の子らしさ”とは縁遠い。
だから、憧れの気持ちが置いていかれるのも自然なことなのかもしれない。
それでも――彼はやっぱり面白くて、気が利く人だった。
欲しかったCDをさっと貸してくれたり、探しても見つからなかった本を一緒に探し歩いてくれたり。
たぶん彼は、相手が誰でもそういうことを自然にできる。だからこそ、誰からも好かれるんだろう。
けれど、今回の件だけはどうしても見過ごせなかった。
恋心は薄れてきたとはいえ、友達として、かつて好きだった人として――彼にはこうあってほしい、という気持ちがまだ残っていたのかもしれない。
この関係が壊れてしまうかもしれない。
それでも、どうしても言わずにはいられなかった。
「おついちがどうしたいかは自由だと思う。でも、真面目な話をするなら……彼女がいるのに他の女の子と一緒に帰るのはよくないよ。その先輩に対して失礼だと思う」
「……意外だな。俺のこと好きなら、“あわよくば”って一緒にいる方を選ぶと思ってたのに」
「はぁ?!やっぱりそうやって弄ぶんだ!悪いけどね、こっちだって恋する乙女だったんだよ!彼女がいるのに他の子と帰ったら、そりゃ嫌だし可哀想だわ!……お願いだから、私の理想の王子でいてよ!」
気づけば声を荒げていた。
激情に任せてぶつけた言葉に、はっとしてしまう。完全に言いすぎた――そう思った瞬間から挙動がおかしくなり、彼の目をまともに見ることもできなくなった。
沈黙が落ちる。
おついちが口を開こうとする気配を感じた瞬間、私は反射的にその場から逃げ出していた。
「?! は、ちょ、なんで逃げるんだよ!」
背後から声と足音が迫ってくる。けれど残念、私は陸上部。足の速さだけは絶対に負けない自信がある。
全力で走り抜け、角を曲がり、ついに振り切ったと確信したとき、胸の奥にわきあがったのは勝ち誇った気持ち――勝った、いや、多分喜ぶところではない。
翌日。
警戒すべきは放課後の帰宅時間だけ――そう思っていた私は甘かったのかもしれない。
なにせ彼がクラスでわざわざ話しかけてきたことなんて一度もなかった。
どうしてよりによって、着席して早々、前の席の鈴木くんの椅子に腰かけてくるのか。思わず恨めしげに睨みつけてしまう。
「こわ〜い。莉央ちゃんってば、せっかくの可愛い顔が台無し」
「その席、鈴木くんの」
「さっき借りるって言ったから大丈夫」
「……そう。じゃあ私、音楽聴くから」
イヤホンを取り出そうとした手を、不意に掴まれる。驚いて彼の方を向くと、握らされた手のひらに小さな飴玉が転がっていた。
「朝買ったやつ。あげる」
それだけでなく、彼は続ける。
「それとさ、昨日“告られた”って話したでしょ。あのあと色々考えたけど……付き合うのやめた」
「……やめた?」
「悪かったよ。だから――また一緒に帰ろ?」
そう言って、上目遣いでこちらを覗き込んでくる。
駄目?とでも言うように。
……悔しい。ロクでもないやつかもしれないのに、また惹かれてしまう自分がいる。
そして帰り際、彼は少し真面目な声で話してくれた。
「俺のこと好きになる人ってさ、だいたい俺自身より“肩書き”に興味ある人ばっかなんだ。だから自信家な人しか告白してこないし、今回の先輩もきっと話題性がほしかっただけなんだと思う」
彼はそこで一度息をつき、私を見て笑った。
「でも莉央は、“彼女が可哀想だ”って真剣に言ってくれただろ。あの言葉で、自分も結局利用しようとしてたんだって気づいたんだ。だから、振った」
その言葉に、胸の奥が少し熱くなる。
「……モテるって、大変だね」
「ねぇ、聞きたいんだけど。莉央は俺のどこが好きなの?」
彼はきっと私が照れるだろうと思って聞いてきたのだろう、でももうそんなに甘くはない。
その問いかけに、少しだけ考えてから口を開いた。
「……そうやって、本当は愛されたいって思ってるくせに、上手く隠して確認してくるところ」
わざと意地悪く笑ってやると、彼は一瞬、言葉を失ったように目を見開いた。
