兄者夢(短編)
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付き合いはまだ浅く、互いの距離感を探るような緊張が、日々のやり取りにもまだ微かに残っていた。
お盆休みを目前に控えた職場は、いつも以上に慌ただしい。気づけば三日間、彼と連絡を取っていない。
たった三日。そう自分に言い聞かせながらも、胸の奥には小さなざわめきが広がっていく。YouTubeも、Xの更新も、この間は途絶えたままだ。
──監視しているわけじゃない。ただ、偶然目に入った時に、そこに何もないのが気になっただけ。
けれど、その「だけ」が積み重なって、不安の色を濃くしていく。
金曜の夜、仕事を終えて、意を決して短いメッセージを送った。ほんの挨拶程度。それでも、返事どころか既読すらつかない。
──明日は土曜日。何事もなければ、それでいい。ただ、このままは耐えられなかった。仮にも彼女だし。
迷いながらも、
〔明日、そっちに行く〕
とだけLINEに打ち込んだ。
送信してすぐ、今まで沈黙を守っていたトーク画面に、ようやく既読の文字が灯る。
返ってきたのは、短い一文だけ。
〔今はやめときなさい。来週ドライブデートでもしようぜ〕
胸の奥がきゅっと縮む。──なにを隠しているのだろう。突き放すような言葉の裏に、何かがあると感じた。迷惑だと思う気持ちも確かにあったが、それ以上に、好きな人だからこそわかる。これは、ただの拒否ではない。
翌日、扉の前に立つと、室内から足音が近づいてきた。
出迎えた彼の顔は、いつもの快活な表情ではなく、青白さを帯びていた。
「だから……止めておきなさいって言ったのに」
掠れた声で苦笑する彼
「だって絶対おかしいですもん、なんで体調悪いこと連絡してくれないんですか、しかもまだ熱下がってないとか…病院、行けたんですか?」
大声を出してはいけないと分かっていながら、言葉が熱を帯びる。怒りよりも、頼ってくれなかったことへの寂しさが胸を突いた。
彼は視線を逸らし、小さく息を吐いた。
「……なんかねぇ、玲奈に弱いところ、見せたくなかったのよ」
普段の、堂々としたお兄様の姿からは想像もできないほど、か細い声。
その言葉に、意地や見栄の奥で揺れる心が見えた気がした。
──兄貴という存在は、やはり人に頼ることが難しい生き物なのだろうか。
そんな思いが頭をよぎる。けれど今は、それよりも先に、彼の中に巣食う熱と痛みを追い払うことが先決だった。
それからの行動は、自分でも驚くほど早かった。
最寄りのスーパーで、スポーツドリンクやゼリー、使い捨ての冷却シート、体を温めるスープの材料を手早く買い揃える。台所を借りて、さっとお粥を煮立て、塩を控えめにした優しい味に仕上げる。
「……味、ないな」
口をつけた彼が不満を零す。その声音に、わずかな元気が戻っているのを感じて、胸の奥が緩んだ。
市販薬を飲んでもらい、ものの二時間ほどで、看病に必要なことはほとんど終わった。
枕元の水分補給、熱を下げるための冷却、食べやすい食事の用意。全てを終えると、彼は目を瞬かせ、わずかに口角を上げた。
「……やるじゃん」
その感心の色が、なんだか少し嬉しかった。
「次からは、ちゃんと頼ってくださいね。調子悪かったら言う。私に言いづらかったら……別に弟者さんでも、おついちさんでもいいですし」
そう告げて、そろそろお暇しようと腰を上げた、その瞬間だった。
ガシ、と手首を掴まれる。
驚いて振り返ると、熱のこもった瞳がまっすぐこちらを見ていた。
「……じゃあ、今。心細いし、寂しいから、ここいて。玲奈風邪うつしたら……ごめんな」
その言葉に、不意を突かれたように胸が熱くなる。
強がりの裏側にある、こんな弱い一面を自分だけが知っているという事実が、たまらなく愛おしかった。
そっとベッド脇に腰を下ろし、青みを帯びた美しい髪を指先で撫でる。
熱に滲む彼の呼吸が、少しずつ穏やかになっていくのを感じながら──ああ、私って幸せだな、と静かに思った。
お盆休みを目前に控えた職場は、いつも以上に慌ただしい。気づけば三日間、彼と連絡を取っていない。
たった三日。そう自分に言い聞かせながらも、胸の奥には小さなざわめきが広がっていく。YouTubeも、Xの更新も、この間は途絶えたままだ。
──監視しているわけじゃない。ただ、偶然目に入った時に、そこに何もないのが気になっただけ。
けれど、その「だけ」が積み重なって、不安の色を濃くしていく。
金曜の夜、仕事を終えて、意を決して短いメッセージを送った。ほんの挨拶程度。それでも、返事どころか既読すらつかない。
──明日は土曜日。何事もなければ、それでいい。ただ、このままは耐えられなかった。仮にも彼女だし。
迷いながらも、
〔明日、そっちに行く〕
とだけLINEに打ち込んだ。
送信してすぐ、今まで沈黙を守っていたトーク画面に、ようやく既読の文字が灯る。
返ってきたのは、短い一文だけ。
〔今はやめときなさい。来週ドライブデートでもしようぜ〕
胸の奥がきゅっと縮む。──なにを隠しているのだろう。突き放すような言葉の裏に、何かがあると感じた。迷惑だと思う気持ちも確かにあったが、それ以上に、好きな人だからこそわかる。これは、ただの拒否ではない。
翌日、扉の前に立つと、室内から足音が近づいてきた。
出迎えた彼の顔は、いつもの快活な表情ではなく、青白さを帯びていた。
「だから……止めておきなさいって言ったのに」
掠れた声で苦笑する彼
「だって絶対おかしいですもん、なんで体調悪いこと連絡してくれないんですか、しかもまだ熱下がってないとか…病院、行けたんですか?」
大声を出してはいけないと分かっていながら、言葉が熱を帯びる。怒りよりも、頼ってくれなかったことへの寂しさが胸を突いた。
彼は視線を逸らし、小さく息を吐いた。
「……なんかねぇ、玲奈に弱いところ、見せたくなかったのよ」
普段の、堂々としたお兄様の姿からは想像もできないほど、か細い声。
その言葉に、意地や見栄の奥で揺れる心が見えた気がした。
──兄貴という存在は、やはり人に頼ることが難しい生き物なのだろうか。
そんな思いが頭をよぎる。けれど今は、それよりも先に、彼の中に巣食う熱と痛みを追い払うことが先決だった。
それからの行動は、自分でも驚くほど早かった。
最寄りのスーパーで、スポーツドリンクやゼリー、使い捨ての冷却シート、体を温めるスープの材料を手早く買い揃える。台所を借りて、さっとお粥を煮立て、塩を控えめにした優しい味に仕上げる。
「……味、ないな」
口をつけた彼が不満を零す。その声音に、わずかな元気が戻っているのを感じて、胸の奥が緩んだ。
市販薬を飲んでもらい、ものの二時間ほどで、看病に必要なことはほとんど終わった。
枕元の水分補給、熱を下げるための冷却、食べやすい食事の用意。全てを終えると、彼は目を瞬かせ、わずかに口角を上げた。
「……やるじゃん」
その感心の色が、なんだか少し嬉しかった。
「次からは、ちゃんと頼ってくださいね。調子悪かったら言う。私に言いづらかったら……別に弟者さんでも、おついちさんでもいいですし」
そう告げて、そろそろお暇しようと腰を上げた、その瞬間だった。
ガシ、と手首を掴まれる。
驚いて振り返ると、熱のこもった瞳がまっすぐこちらを見ていた。
「……じゃあ、今。心細いし、寂しいから、ここいて。玲奈風邪うつしたら……ごめんな」
その言葉に、不意を突かれたように胸が熱くなる。
強がりの裏側にある、こんな弱い一面を自分だけが知っているという事実が、たまらなく愛おしかった。
そっとベッド脇に腰を下ろし、青みを帯びた美しい髪を指先で撫でる。
熱に滲む彼の呼吸が、少しずつ穏やかになっていくのを感じながら──ああ、私って幸せだな、と静かに思った。
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