鋼の錬金術師×るろうに剣心①
剣心が去った後、エドはしばらくその場に留まり、廃屋の壁にもたれかかって考えていた。
(……変な奴だったな)
"人斬り"として生きているはずなのに、それをどこか拒絶しているような――そんな印象を受けた。
エドは静かに息を吐き、ずぶ濡れになった服を絞る。
「……とにかく、ここでじっとしててもしょうがねぇ」
少しでも情報を集めるため、人のいる場所を探すことにした。
雨が上がり、京の町には活気が戻っていた。道行く人々は思い思いに行動し、露店の店主が威勢よく客を呼び込んでいる。
エドは通りを歩きながら、慎重に周囲を観察していた。
(江戸時代……いや、もう少し進んでるか? 服装や建物の感じからすると、幕末……ってとこか)
周囲の言葉が理解できるのはありがたいが、見慣れない光景に違和感が拭えない。
ふと、路地の奥で騒がしい声がした。
「待て、この抜け荷野郎!」
男たちの怒声と共に、若い男が慌てて駆け出してくる。その後を、二人の役人らしき者が追いかけていた。
(抜け荷……密貿易か?)
エドは思わず足を止め、その様子を見守る。
だが、逃げる男がこちらへ向かってくるのを見て、エドは舌打ちした。
「……ったく、こっちに来んなよ!」
だが、男は焦っていたのか、そのままエドにぶつかりそうになった。
「うおっ!」
エドは咄嗟に体をひねり、男の腕を掴むと、そのまま勢いを利用して地面に投げつけた。
「ぐっ……!」
男が苦しげにうめく。追ってきた役人たちは驚きつつも、すぐに彼を押さえつけた。
「助かったぞ、お嬢ちゃん」
「お、お嬢ちゃん……?」
エドは一瞬むっとしたが、今はそれどころではない。
「こいつ、何をやらかしたんだ?」
役人の一人が警戒しつつも答えた。
「抜け荷の取引に関わっていたらしくてな。もう少しで取り逃がすところだった」
(密貿易か……)
エドは男を見下ろした。
「お前、本当にやってたのか?」
男は悔しそうに唇を噛みしめ、何も言わなかった。
(……これ以上関わっても仕方ねぇか)
エドは軽く肩をすくめると、役人たちに背を向けて歩き出した。
だが、その時。
「そこのお前!」
鋭い声が響き渡る。
エドが振り返ると、一人の男がこちらを睨んでいた。
(……誰だ?)
年の頃は二十代半ばか。黒の羽織をまとい、腰には日本刀を差している。その立ち姿には、どこか只者ではない雰囲気があった。
「お前……見かけねぇ顔だな」
男はじっとエドを見つめていた。
「どこから来た?」
(……面倒なことになったな)
エドは心の中で舌打ちしながらも、男の視線を正面から受け止めた。
「さぁな。旅の途中だ」
「旅……?」
男は目を細める。
「この町に来たばかりってわけか……だが、余所者のくせに妙に立ち回りがいいじゃねぇか」
(……こいつ、鋭いな)
エドは内心警戒しながら、適当に誤魔化そうとした。
「ただの偶然だ。目の前に突っ込んできたから避けただけさ」
男はしばらくエドを見つめていたが、やがてふっと笑った。
「……なるほどな」
「なんだよ」
「いや、気にすんな。余所者なら余計なトラブルには巻き込まれねぇようにしとけよ」
男はそう言うと、踵を返して去っていった。
エドは彼の背中を見送りながら、小さく息をついた。
(……やっぱり、ここは簡単な場所じゃねぇな)
異世界に飛ばされただけでなく、何か大きな流れの中に巻き込まれている――そんな予感がしていた。
その予感は、間違ってはいなかった。
抜け荷騒ぎの後、エドは人気の少ない裏通りを歩いていた。
(……あの男、ただの侍じゃなかったな)
さっきの黒羽織の男――妙に勘が鋭かった。ああいう連中には、あまり関わらない方がいい。
エドは溜息をつき、近くの石段に腰を下ろした。
「……ちくしょう、どうすりゃいいんだよ」
異世界に飛ばされ、帰る方法もわからず、この時代の流れすら掴めていない。
「とりあえず情報を集めねぇと……」
そう呟いた時だった。
「なら、俺が教えてやろうか?」
不意に、すぐ背後から声がした。
「――!」
エドは反射的に立ち上がり、振り向く。
そこにいたのは、一人の男だった。
黒い着流しをまとい、涼しげな顔でこちらを見ている。
年の頃は二十代後半――いや、それ以上にも見える。背は高く、どこか余裕のある佇まい。そして、その口元には、軽い笑みが浮かんでいた。
「驚かせたか?」
「……テメェ、何者だ?」
エドは警戒しながら男を睨む。
「そうだな……俺はただの通りすがりの見物人さ」
男は肩をすくめると、ゆっくりと石段に腰を下ろした。
「さっきの騒ぎ、おもしろかったぜ。お前、ずいぶんと立ち回りがいいな」
エドは目を細めた。
(……コイツ、さっきのやり取りを見てたのか?)
「それに……」
男はふと目を細め、エドの顔をじっと覗き込む。
「お前、随分と面白い"匂い"がするな」
「……は?」
エドは思わず眉をひそめた。
「この世界のものじゃない"匂い"だよ」
その瞬間、エドの背筋に冷たいものが走った。
(こいつ……!)
「何の話だ?」
エドは平静を装いながら問い返す。
「とぼけなくていいさ。俺は知ってるんだよ――お前が"ここ"の住人じゃないってことをな」
男は楽しそうに笑う。
「……一体、何者だ」
「だから、ただの"見届け人"だって言ったろ?」
男は立ち上がると、ゆっくりと歩き出した。
「まあ、そう怖がるな。俺はお前に危害を加える気はない……少なくとも、今のところはな」
エドは無言で男の背中を見つめる。
「それに、俺はお前に興味があるんだ」
男は振り返り、じっとエドを見つめた。
「この世界に飛ばされて、お前は何をする?」
その問いに、エドは答えられなかった。
男は少し満足そうに笑うと、ふっと手を振った。
「また会おうぜ、"鋼の錬金術師"」
そう言い残し、男は夜の闇に溶けるように消えていった。
エドはしばらくその場に立ち尽くしていた。
「……くそっ」
拳を握りしめる。
(アイツ……何者なんだ?)
"見届け人"と名乗る謎の男。
彼の言葉が、エドの胸の奥に奇妙な不安を残していた――。雨が止み、夜の静けさが森を包んでいた。
(……変な奴だったな)
"人斬り"として生きているはずなのに、それをどこか拒絶しているような――そんな印象を受けた。
エドは静かに息を吐き、ずぶ濡れになった服を絞る。
「……とにかく、ここでじっとしててもしょうがねぇ」
少しでも情報を集めるため、人のいる場所を探すことにした。
雨が上がり、京の町には活気が戻っていた。道行く人々は思い思いに行動し、露店の店主が威勢よく客を呼び込んでいる。
エドは通りを歩きながら、慎重に周囲を観察していた。
(江戸時代……いや、もう少し進んでるか? 服装や建物の感じからすると、幕末……ってとこか)
周囲の言葉が理解できるのはありがたいが、見慣れない光景に違和感が拭えない。
ふと、路地の奥で騒がしい声がした。
「待て、この抜け荷野郎!」
男たちの怒声と共に、若い男が慌てて駆け出してくる。その後を、二人の役人らしき者が追いかけていた。
(抜け荷……密貿易か?)
エドは思わず足を止め、その様子を見守る。
だが、逃げる男がこちらへ向かってくるのを見て、エドは舌打ちした。
「……ったく、こっちに来んなよ!」
だが、男は焦っていたのか、そのままエドにぶつかりそうになった。
「うおっ!」
エドは咄嗟に体をひねり、男の腕を掴むと、そのまま勢いを利用して地面に投げつけた。
「ぐっ……!」
男が苦しげにうめく。追ってきた役人たちは驚きつつも、すぐに彼を押さえつけた。
「助かったぞ、お嬢ちゃん」
「お、お嬢ちゃん……?」
エドは一瞬むっとしたが、今はそれどころではない。
「こいつ、何をやらかしたんだ?」
役人の一人が警戒しつつも答えた。
「抜け荷の取引に関わっていたらしくてな。もう少しで取り逃がすところだった」
(密貿易か……)
エドは男を見下ろした。
「お前、本当にやってたのか?」
男は悔しそうに唇を噛みしめ、何も言わなかった。
(……これ以上関わっても仕方ねぇか)
エドは軽く肩をすくめると、役人たちに背を向けて歩き出した。
だが、その時。
「そこのお前!」
鋭い声が響き渡る。
エドが振り返ると、一人の男がこちらを睨んでいた。
(……誰だ?)
年の頃は二十代半ばか。黒の羽織をまとい、腰には日本刀を差している。その立ち姿には、どこか只者ではない雰囲気があった。
「お前……見かけねぇ顔だな」
男はじっとエドを見つめていた。
「どこから来た?」
(……面倒なことになったな)
エドは心の中で舌打ちしながらも、男の視線を正面から受け止めた。
「さぁな。旅の途中だ」
「旅……?」
男は目を細める。
「この町に来たばかりってわけか……だが、余所者のくせに妙に立ち回りがいいじゃねぇか」
(……こいつ、鋭いな)
エドは内心警戒しながら、適当に誤魔化そうとした。
「ただの偶然だ。目の前に突っ込んできたから避けただけさ」
男はしばらくエドを見つめていたが、やがてふっと笑った。
「……なるほどな」
「なんだよ」
「いや、気にすんな。余所者なら余計なトラブルには巻き込まれねぇようにしとけよ」
男はそう言うと、踵を返して去っていった。
エドは彼の背中を見送りながら、小さく息をついた。
(……やっぱり、ここは簡単な場所じゃねぇな)
異世界に飛ばされただけでなく、何か大きな流れの中に巻き込まれている――そんな予感がしていた。
その予感は、間違ってはいなかった。
抜け荷騒ぎの後、エドは人気の少ない裏通りを歩いていた。
(……あの男、ただの侍じゃなかったな)
さっきの黒羽織の男――妙に勘が鋭かった。ああいう連中には、あまり関わらない方がいい。
エドは溜息をつき、近くの石段に腰を下ろした。
「……ちくしょう、どうすりゃいいんだよ」
異世界に飛ばされ、帰る方法もわからず、この時代の流れすら掴めていない。
「とりあえず情報を集めねぇと……」
そう呟いた時だった。
「なら、俺が教えてやろうか?」
不意に、すぐ背後から声がした。
「――!」
エドは反射的に立ち上がり、振り向く。
そこにいたのは、一人の男だった。
黒い着流しをまとい、涼しげな顔でこちらを見ている。
年の頃は二十代後半――いや、それ以上にも見える。背は高く、どこか余裕のある佇まい。そして、その口元には、軽い笑みが浮かんでいた。
「驚かせたか?」
「……テメェ、何者だ?」
エドは警戒しながら男を睨む。
「そうだな……俺はただの通りすがりの見物人さ」
男は肩をすくめると、ゆっくりと石段に腰を下ろした。
「さっきの騒ぎ、おもしろかったぜ。お前、ずいぶんと立ち回りがいいな」
エドは目を細めた。
(……コイツ、さっきのやり取りを見てたのか?)
「それに……」
男はふと目を細め、エドの顔をじっと覗き込む。
「お前、随分と面白い"匂い"がするな」
「……は?」
エドは思わず眉をひそめた。
「この世界のものじゃない"匂い"だよ」
その瞬間、エドの背筋に冷たいものが走った。
(こいつ……!)
「何の話だ?」
エドは平静を装いながら問い返す。
「とぼけなくていいさ。俺は知ってるんだよ――お前が"ここ"の住人じゃないってことをな」
男は楽しそうに笑う。
「……一体、何者だ」
「だから、ただの"見届け人"だって言ったろ?」
男は立ち上がると、ゆっくりと歩き出した。
「まあ、そう怖がるな。俺はお前に危害を加える気はない……少なくとも、今のところはな」
エドは無言で男の背中を見つめる。
「それに、俺はお前に興味があるんだ」
男は振り返り、じっとエドを見つめた。
「この世界に飛ばされて、お前は何をする?」
その問いに、エドは答えられなかった。
男は少し満足そうに笑うと、ふっと手を振った。
「また会おうぜ、"鋼の錬金術師"」
そう言い残し、男は夜の闇に溶けるように消えていった。
エドはしばらくその場に立ち尽くしていた。
「……くそっ」
拳を握りしめる。
(アイツ……何者なんだ?)
"見届け人"と名乗る謎の男。
彼の言葉が、エドの胸の奥に奇妙な不安を残していた――。雨が止み、夜の静けさが森を包んでいた。
