鋼の錬金術師×るろうに剣心①
剣心はエドの視線を感じ取ったが、すぐには動かない。ただ、ゆっくりと刀を納めると、彼女を見据えた。
「動けるか?」
低く落ち着いた声だった。敵意は感じられないが、それが逆に底知れぬものを感じさせる。
エドは無意識に拳を握りしめた。
「誰だ、お前」
剣心は目を細め、少しだけ微笑んだ。
「俺の名は緋村剣心。……あなたは?」
聞き慣れない言葉遣い。しかし、それよりも——
(“あなた”……? ずいぶん丁寧な口調だな)
エドの脳裏に警鐘が鳴る。この男は、ただの人斬りではない。殺しをためらわない者なら、わざわざこんなふうに問いかけてくるはずがない。
だが、それでも信用できるわけではない。
「……エドワード」
名を告げながらも、身体には力を込めておく。もし相手が何か仕掛けてきたら、即座に反撃できるように。
剣心はエドの警戒を感じ取ったのか、一歩、ゆっくりと後ろへ下がった。
「無理もないな」
呟くように言ったその声は、どこか遠いものを見るようだった。
「……無理もない? 何の話だ」
エドが問い詰めると、剣心は一瞬だけ目を伏せ、そして再び彼女を見つめた。その目には、どこか深い悲しみが宿っているように見えた。
「あなたは、戦場に落ちた」
「戦……?」
エドの眉がぴくりと動く。
「そうだ。これは新時代を作るための戦。その最中で、あなたは現れた」
「新時代を作るため」。その言葉に、エドの胸がざわつく。
彼女は、何度も聞いた。戦争を正当化する言葉を。国家のため、革命のため、未来のため——そして、そのたびに、犠牲になるのは”誰か”だった。
エドは鋭く剣心を睨んだ。
「それで、こいつらを殺したのか」
雨が地面を叩く音の中で、エドの声は静かに響いた。
剣心は、一瞬だけ目を細める。刃にまとわりついた血を見つめながら、呟くように言った。
「……“殺した”とは、少し違う」
「何が違うってんだよ」
エドの言葉に、剣心は苦しげに目を閉じた。彼の体から滲み出る重さ、苦しみが、エドに伝わる。
「俺の刃は、ただ奪うためにあるわけではない」
剣心はそう言うと、刀の柄を静かに握った。その手のひらから、わずかな震えが伝わる。
「——これは、背負うためのものだ」
その言葉に、エドの胸が締めつけられる。剣心の目には、戦い続けなければならない過去が、そしてその代償として命を奪い続けなければならない現実が映っているようだった。
エドは、言葉を失う。
(……この男も、背負ってるのか)
その悲しみが、自分の胸にも響く。だが、同時に憤りが湧き上がる。自分が今まで見てきたものは、ただの無情な殺し合いではない。それは、この男のように、望んで殺しているわけではない。だが、だからこそ彼が感じている「背負うもの」が、エドには理解できた。
「それで、どうすんだよ。あんたは、こんなことを続けていくのか?」
エドは強く、憤りを込めて問いかけた。心の中で、剣心が背負っているものが重すぎることを分かりながらも、彼がそれを続けることに対して強い怒りを感じていた。剣心は望まなくとも、人を切らなければならない。それが、彼の立場なのだろう。しかし、そのことが許せなかった。
「……俺をどうするつもりだ」
エドは、迷いながらもその怒りを抑えることができなかった。その言葉には、剣心がどれだけ深い傷を背負っているのかを理解したからこそ、見て見ぬふりができなかった。彼が抱えているものがあまりにも重いからこそ、それを許すことができない自分がいる。彼を憎んでも、理解したくても、共感することができなかった。
「どうもしない。あなたがどうするかを決めるだけだ」
剣心の答えは、あまりにも淡々としていた。それが逆にエドの心を掻き乱す。
(……俺だって、どうしたらいいんだ!)
エドは、自分の胸の内で激しく矛盾する感情がぶつかり合っているのを感じていた。剣心の背負うものを理解しつつ、同時に、彼が何のために戦い続けるのかが許せなかった。あまりにも無意味な、無慈悲な戦いに見えた。それが剣心の過去であり、今であり、恐らく未来でもあることを理解しているが、どうしてもそれに共感することができなかった。
(何もできないんだ……!)
エドは、自分の無力さを痛感していた。剣心のような男が新時代のために剣を振るっている——その事実が、エドにとってどれほど耐え難いものなのか。自分が何もできないこと、理解しようとしても理解できないこと、全てに対する憤りが胸を締め付けた。
「……だが、俺はお前を信じていない」
その言葉を、エドは静かに、だが力強く吐き出した。
剣心は、それを否定しなかった。ただ、静かに頷いた。
「無理もないな」
その言葉には、どこか諦めの色が滲んでいた。エドは、剣心の目をじっと見つめる。そこにあるのは哀れみでもなく、憤りでもなく——ただ静かに燃え続ける覚悟。
「……お前、自分のしてることが正しいとでも思ってんのか」
「正しいかどうかではない」
剣心はゆっくりと答えた。
「俺は、これしかできない」
その言葉に、エドの胸が軋んだ。
(これしかできない? そんなの、クソみたいな言い訳じゃねぇか)
言いたかった。だが、その言葉は喉の奥で引っかかる。
この男は、きっと何かを知っている。戦いを、殺しを、何よりも憎んでいるはずなのに、なおも剣を振るわなければならない理由を——
「……ったく、やってらんねぇな」
エドは苛立ちを吐き出すように、バサリとコートの裾を翻した。
「もういい。俺は俺で、この世界がどうなってんのか調べる」
「あなたは、この戦のことを知りたいのか?」
「そりゃそうだろ。いきなりわけのわからねぇ場所に飛ばされて、気づいたら血生臭ぇ戦場の真ん中なんだ。事情ぐらい知っとかねぇと、いつの間にか殺されてましたってオチはごめんだからな」
その言葉に、剣心はふっと微笑んだ。
「……なるほど」
その目はどこか、遠くを見ているようだった。
「ならば、ここを離れた方がいい。夜が明ければ、追っ手が動き出す」
「ちっ……めんどくせぇな」
エドは舌打ちをしつつ、まだじんじんと痛む腕を振った。
(まぁ、今はこの男について行くしかねぇか……)
それが最善とは思えなかった。だが、少なくともこの男は、この世界の事情を知っている。そして、自分に敵意はなさそうだった。
「……わかったよ。行くぜ」
「……ああ」
二人は、闇に溶けるようにその場を後にした。
冷たい雨はまだ降り続けている。
「動けるか?」
低く落ち着いた声だった。敵意は感じられないが、それが逆に底知れぬものを感じさせる。
エドは無意識に拳を握りしめた。
「誰だ、お前」
剣心は目を細め、少しだけ微笑んだ。
「俺の名は緋村剣心。……あなたは?」
聞き慣れない言葉遣い。しかし、それよりも——
(“あなた”……? ずいぶん丁寧な口調だな)
エドの脳裏に警鐘が鳴る。この男は、ただの人斬りではない。殺しをためらわない者なら、わざわざこんなふうに問いかけてくるはずがない。
だが、それでも信用できるわけではない。
「……エドワード」
名を告げながらも、身体には力を込めておく。もし相手が何か仕掛けてきたら、即座に反撃できるように。
剣心はエドの警戒を感じ取ったのか、一歩、ゆっくりと後ろへ下がった。
「無理もないな」
呟くように言ったその声は、どこか遠いものを見るようだった。
「……無理もない? 何の話だ」
エドが問い詰めると、剣心は一瞬だけ目を伏せ、そして再び彼女を見つめた。その目には、どこか深い悲しみが宿っているように見えた。
「あなたは、戦場に落ちた」
「戦……?」
エドの眉がぴくりと動く。
「そうだ。これは新時代を作るための戦。その最中で、あなたは現れた」
「新時代を作るため」。その言葉に、エドの胸がざわつく。
彼女は、何度も聞いた。戦争を正当化する言葉を。国家のため、革命のため、未来のため——そして、そのたびに、犠牲になるのは”誰か”だった。
エドは鋭く剣心を睨んだ。
「それで、こいつらを殺したのか」
雨が地面を叩く音の中で、エドの声は静かに響いた。
剣心は、一瞬だけ目を細める。刃にまとわりついた血を見つめながら、呟くように言った。
「……“殺した”とは、少し違う」
「何が違うってんだよ」
エドの言葉に、剣心は苦しげに目を閉じた。彼の体から滲み出る重さ、苦しみが、エドに伝わる。
「俺の刃は、ただ奪うためにあるわけではない」
剣心はそう言うと、刀の柄を静かに握った。その手のひらから、わずかな震えが伝わる。
「——これは、背負うためのものだ」
その言葉に、エドの胸が締めつけられる。剣心の目には、戦い続けなければならない過去が、そしてその代償として命を奪い続けなければならない現実が映っているようだった。
エドは、言葉を失う。
(……この男も、背負ってるのか)
その悲しみが、自分の胸にも響く。だが、同時に憤りが湧き上がる。自分が今まで見てきたものは、ただの無情な殺し合いではない。それは、この男のように、望んで殺しているわけではない。だが、だからこそ彼が感じている「背負うもの」が、エドには理解できた。
「それで、どうすんだよ。あんたは、こんなことを続けていくのか?」
エドは強く、憤りを込めて問いかけた。心の中で、剣心が背負っているものが重すぎることを分かりながらも、彼がそれを続けることに対して強い怒りを感じていた。剣心は望まなくとも、人を切らなければならない。それが、彼の立場なのだろう。しかし、そのことが許せなかった。
「……俺をどうするつもりだ」
エドは、迷いながらもその怒りを抑えることができなかった。その言葉には、剣心がどれだけ深い傷を背負っているのかを理解したからこそ、見て見ぬふりができなかった。彼が抱えているものがあまりにも重いからこそ、それを許すことができない自分がいる。彼を憎んでも、理解したくても、共感することができなかった。
「どうもしない。あなたがどうするかを決めるだけだ」
剣心の答えは、あまりにも淡々としていた。それが逆にエドの心を掻き乱す。
(……俺だって、どうしたらいいんだ!)
エドは、自分の胸の内で激しく矛盾する感情がぶつかり合っているのを感じていた。剣心の背負うものを理解しつつ、同時に、彼が何のために戦い続けるのかが許せなかった。あまりにも無意味な、無慈悲な戦いに見えた。それが剣心の過去であり、今であり、恐らく未来でもあることを理解しているが、どうしてもそれに共感することができなかった。
(何もできないんだ……!)
エドは、自分の無力さを痛感していた。剣心のような男が新時代のために剣を振るっている——その事実が、エドにとってどれほど耐え難いものなのか。自分が何もできないこと、理解しようとしても理解できないこと、全てに対する憤りが胸を締め付けた。
「……だが、俺はお前を信じていない」
その言葉を、エドは静かに、だが力強く吐き出した。
剣心は、それを否定しなかった。ただ、静かに頷いた。
「無理もないな」
その言葉には、どこか諦めの色が滲んでいた。エドは、剣心の目をじっと見つめる。そこにあるのは哀れみでもなく、憤りでもなく——ただ静かに燃え続ける覚悟。
「……お前、自分のしてることが正しいとでも思ってんのか」
「正しいかどうかではない」
剣心はゆっくりと答えた。
「俺は、これしかできない」
その言葉に、エドの胸が軋んだ。
(これしかできない? そんなの、クソみたいな言い訳じゃねぇか)
言いたかった。だが、その言葉は喉の奥で引っかかる。
この男は、きっと何かを知っている。戦いを、殺しを、何よりも憎んでいるはずなのに、なおも剣を振るわなければならない理由を——
「……ったく、やってらんねぇな」
エドは苛立ちを吐き出すように、バサリとコートの裾を翻した。
「もういい。俺は俺で、この世界がどうなってんのか調べる」
「あなたは、この戦のことを知りたいのか?」
「そりゃそうだろ。いきなりわけのわからねぇ場所に飛ばされて、気づいたら血生臭ぇ戦場の真ん中なんだ。事情ぐらい知っとかねぇと、いつの間にか殺されてましたってオチはごめんだからな」
その言葉に、剣心はふっと微笑んだ。
「……なるほど」
その目はどこか、遠くを見ているようだった。
「ならば、ここを離れた方がいい。夜が明ければ、追っ手が動き出す」
「ちっ……めんどくせぇな」
エドは舌打ちをしつつ、まだじんじんと痛む腕を振った。
(まぁ、今はこの男について行くしかねぇか……)
それが最善とは思えなかった。だが、少なくともこの男は、この世界の事情を知っている。そして、自分に敵意はなさそうだった。
「……わかったよ。行くぜ」
「……ああ」
二人は、闇に溶けるようにその場を後にした。
冷たい雨はまだ降り続けている。
