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「すべての罪は、無知から生まれる」(ヴォルテールより)
1923年、ハーバード大学にて…
「あ、そういえばメイ。ウワサの留学生、どんな感じなの?」
「…エルリックさんのこと?」
ハイスクールの頃からの友人のアリサとランチを終え、その足でゼミ棟へと向かう最中のことである。エドアルド・エルリック。半年ほど前にドイツから留学してきた女性だ。向こうではロケットについての研究をしていたというのに何故、自分の所属している考古学のゼミに来たのか。本人に聞いたところ「新しい分野だから今までにないたくさんのことを学べると思ったから」らしい。
「エルリックさん…ほんとすごいよ」
「すっごいって…どうすごいの?」
「前にアイダホにフィールドワークに行った時にね、熊にでくわしたんだけど」
「大丈夫だったの?!」
「エルリックさんが倒してくれたのよ!」
「………は?」
「なんかポーンとぶん投げちゃってね、みんなで拍手しちゃった」
「すごいけどそういうすごいが聞きたいんじゃなくてさぁ」
「そうだよ。それだと私が格闘家みたいに思われるじゃない?」
すごいの方向性の違うエドの武勇伝をキラキラとした瞳で語るメイ。アリサが聞きたかったのはそうではない。エドはどの分野でも幅広い知識を持ち、応用力もある天才。そのウワサが本当なのか、そんな人間がいるものか。ちょっとしたミーハー心で聞いたのだ。呆れながらも話を聞き出そうとしたら、後ろからタバコとコーヒーの香りとともに朗らかな声が降ってきた。
「へ…あれ?エルリックさん?あの…」
ちょうどウワサをしていた人物、エドが自分たちの後ろにいるなんてどんな偶然か。何となく後ろめたくて弁解をしようとするメイを流して自分の左手にぶら下がる購買部の袋を見せる。エドも購買部の帰りのようだ。
「うん。リンさんも購買帰り?」
「はい。ちょっと寮に帰るまでの食料調達に」
「私も。エバンズ教授、この間出て来たサンプル早く調べたいみたいだし」
「それは分かるんですけど一日じゃ終わりませんよ~…あ!エルリックさん、紹介しますね。この子私の友だちでアリス・キャンベルって言うんです!」
「あはは…気持ちは嬉しいんだけど、今は考古学の活動が忙しくて…でもそうだね。また手が空いたらになっちゃうけど、お話するだけなら喜んで」
「やった!」
「…言っとくけどエルリックさんは忙しいからそんな暇ないからね。うちのゼミ生なんだから」
「はいはい。じゃ、私はこっちなんで」
「気をつけてね」
上機嫌に去っていったアリサにひょっとしたらエドワルドとの橋渡しのためにランチに誘われたのだろうかと思うメイだった。そんなことは露知らず、エドはスイスイと考古学ゼミ室に足を運ぶ。
「っていうかエルリックさん、またタバコ吸ってきたでしょ」
「あ、そんなに臭う?1本しか吸ってないんだけど」
エドは見かけによらず愛煙家であり、キャンパスの喫煙スペースや裏庭でよく一服している。全くタバコを吸わないメイにはただ煙を吸う行為の何が楽しいのか分からなかったが、価値観なんて個々で違うものだからとやかくは言わない。ただ吸いすぎも良くないと思うからたまに指摘はするようにしている。
…実際エドはタバコを美味いと感じている訳では無い。では何故吸うのか。なんのことは無い、ただ吸っていると何となく落ち着くのだ…前に居た世界で知り合った喫煙家の軍人を思い出すから…
「…本当に天才だったら間違えなんておかさねぇよな…」
エドは、誰にも聞こえないように呟いた。
1923年、ハーバード大学にて…
「あ、そういえばメイ。ウワサの留学生、どんな感じなの?」
「…エルリックさんのこと?」
ハイスクールの頃からの友人のアリサとランチを終え、その足でゼミ棟へと向かう最中のことである。エドアルド・エルリック。半年ほど前にドイツから留学してきた女性だ。向こうではロケットについての研究をしていたというのに何故、自分の所属している考古学のゼミに来たのか。本人に聞いたところ「新しい分野だから今までにないたくさんのことを学べると思ったから」らしい。
「エルリックさん…ほんとすごいよ」
「すっごいって…どうすごいの?」
「前にアイダホにフィールドワークに行った時にね、熊にでくわしたんだけど」
「大丈夫だったの?!」
「エルリックさんが倒してくれたのよ!」
「………は?」
「なんかポーンとぶん投げちゃってね、みんなで拍手しちゃった」
「すごいけどそういうすごいが聞きたいんじゃなくてさぁ」
「そうだよ。それだと私が格闘家みたいに思われるじゃない?」
すごいの方向性の違うエドの武勇伝をキラキラとした瞳で語るメイ。アリサが聞きたかったのはそうではない。エドはどの分野でも幅広い知識を持ち、応用力もある天才。そのウワサが本当なのか、そんな人間がいるものか。ちょっとしたミーハー心で聞いたのだ。呆れながらも話を聞き出そうとしたら、後ろからタバコとコーヒーの香りとともに朗らかな声が降ってきた。
「へ…あれ?エルリックさん?あの…」
ちょうどウワサをしていた人物、エドが自分たちの後ろにいるなんてどんな偶然か。何となく後ろめたくて弁解をしようとするメイを流して自分の左手にぶら下がる購買部の袋を見せる。エドも購買部の帰りのようだ。
「うん。リンさんも購買帰り?」
「はい。ちょっと寮に帰るまでの食料調達に」
「私も。エバンズ教授、この間出て来たサンプル早く調べたいみたいだし」
「それは分かるんですけど一日じゃ終わりませんよ~…あ!エルリックさん、紹介しますね。この子私の友だちでアリス・キャンベルって言うんです!」
「あはは…気持ちは嬉しいんだけど、今は考古学の活動が忙しくて…でもそうだね。また手が空いたらになっちゃうけど、お話するだけなら喜んで」
「やった!」
「…言っとくけどエルリックさんは忙しいからそんな暇ないからね。うちのゼミ生なんだから」
「はいはい。じゃ、私はこっちなんで」
「気をつけてね」
上機嫌に去っていったアリサにひょっとしたらエドワルドとの橋渡しのためにランチに誘われたのだろうかと思うメイだった。そんなことは露知らず、エドはスイスイと考古学ゼミ室に足を運ぶ。
「っていうかエルリックさん、またタバコ吸ってきたでしょ」
「あ、そんなに臭う?1本しか吸ってないんだけど」
エドは見かけによらず愛煙家であり、キャンパスの喫煙スペースや裏庭でよく一服している。全くタバコを吸わないメイにはただ煙を吸う行為の何が楽しいのか分からなかったが、価値観なんて個々で違うものだからとやかくは言わない。ただ吸いすぎも良くないと思うからたまに指摘はするようにしている。
…実際エドはタバコを美味いと感じている訳では無い。では何故吸うのか。なんのことは無い、ただ吸っていると何となく落ち着くのだ…前に居た世界で知り合った喫煙家の軍人を思い出すから…
「…本当に天才だったら間違えなんておかさねぇよな…」
エドは、誰にも聞こえないように呟いた。