見えない人の力
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「ピトーか」
「はい、総帥様」
夜明けの訪問者は、よく見知った人物だった。
「入れ」
と言えば、扉を開け、猫耳と尻尾のある華奢な体をした女のような人間が部屋に入ってきた。そして、メルエムの前に膝まづいた。
「総帥様、申し訳ございません……」
猫耳のあるネフェルピトーが、真っ先に言った言葉だった。メルエムはわずかに目を細めた。
「何を謝っている」
メルエムはそう言いながら、死ぬ前のことを思い出していた。
ネフェルピトーは、自分の命に従い、コムギの治療をしていた。その後ネフェルピトーの姿がなかったので、恐らく、自らを犠牲にしたのだと思われたが。
「お主は信頼の置ける下僕だ」
「ありがたきお言葉です」
主従のお決まりのやり取り。だがメルエムは本当に、ネフェルピトーは信頼があると気付いていた。何より、心変わりしたメルエムを、ネフェルピトーはありのまま受け入れたのだから。
「他の下僕は」
メルエムは問いただした。
ネフェルピトーはいまだ頭を下げたまま、分かりません、と答えた。
「なら、お主はどういった経緯でここに来た」
とメルエムがさらに問えば、ネフェルピトーは、自分は死んだはずだった、と答えた。
同じだ。
だが、ここがもし死後の世界なら、他の配下もいるはずだった。それに、マスターハンドは、必ずしも死後ここに来た者ばかりではない、と言っていた。他者の言っていたことを信じるつもりはないのだが、どうにも、ここは説明のしがたい世界である、ということだけは分かった。
「ピトーはコムギの護衛をしろ」
「はっ」
メルエムの指示になんの疑いもしないネフェルピトーは、さらに頭を下げた。そんなネフェルピトーに、この世界では人形に襲われると説明をすると、少し興味ありげな顔をした。
確か、ネフェルピトーの能力は、他者や自らを操るものである。人形と共通な点があるのかもしれない。
「人形の殺し方はどのような形で構わない」
「かしこまりました、総帥様」
「それと」
「……?」
ネフェルピトーは不思議そうに、そこでようやく顔を上げた。
「余のことは、これから、メルエムと呼べ」
思わぬ指示に驚いたのだろう。ネフェルピトーは一瞬動きを止めた。
「ピトー」
とメルエムが呼び掛けると、ネフェルピトーは急いで頭を下げた。
「かしこまりました、メルエム様」
ネフェルピトーは仰々しく丁寧に頭を下げた。メルエムは、ウム、と相槌を返す。
以降、ネフェルピトーは、メルエムのことを「メルエム様」と呼ぶようになるのだが、この時の彼らにとって名前は、ただのお飾りだった。
「コムギを起こしてこい。向こうの部屋にいる」
この自分たちの置かれた状況がはっきりとするまでは、ここでコムギと軍儀を打ち続けてもいいだろう、とメルエムは考えていた。
「かしこまりました」
ネフェルピトーは貼り付けたような言葉で返事をし、コムギの部屋へと向かって行った。
「はい、総帥様」
夜明けの訪問者は、よく見知った人物だった。
「入れ」
と言えば、扉を開け、猫耳と尻尾のある華奢な体をした女のような人間が部屋に入ってきた。そして、メルエムの前に膝まづいた。
「総帥様、申し訳ございません……」
猫耳のあるネフェルピトーが、真っ先に言った言葉だった。メルエムはわずかに目を細めた。
「何を謝っている」
メルエムはそう言いながら、死ぬ前のことを思い出していた。
ネフェルピトーは、自分の命に従い、コムギの治療をしていた。その後ネフェルピトーの姿がなかったので、恐らく、自らを犠牲にしたのだと思われたが。
「お主は信頼の置ける下僕だ」
「ありがたきお言葉です」
主従のお決まりのやり取り。だがメルエムは本当に、ネフェルピトーは信頼があると気付いていた。何より、心変わりしたメルエムを、ネフェルピトーはありのまま受け入れたのだから。
「他の下僕は」
メルエムは問いただした。
ネフェルピトーはいまだ頭を下げたまま、分かりません、と答えた。
「なら、お主はどういった経緯でここに来た」
とメルエムがさらに問えば、ネフェルピトーは、自分は死んだはずだった、と答えた。
同じだ。
だが、ここがもし死後の世界なら、他の配下もいるはずだった。それに、マスターハンドは、必ずしも死後ここに来た者ばかりではない、と言っていた。他者の言っていたことを信じるつもりはないのだが、どうにも、ここは説明のしがたい世界である、ということだけは分かった。
「ピトーはコムギの護衛をしろ」
「はっ」
メルエムの指示になんの疑いもしないネフェルピトーは、さらに頭を下げた。そんなネフェルピトーに、この世界では人形に襲われると説明をすると、少し興味ありげな顔をした。
確か、ネフェルピトーの能力は、他者や自らを操るものである。人形と共通な点があるのかもしれない。
「人形の殺し方はどのような形で構わない」
「かしこまりました、総帥様」
「それと」
「……?」
ネフェルピトーは不思議そうに、そこでようやく顔を上げた。
「余のことは、これから、メルエムと呼べ」
思わぬ指示に驚いたのだろう。ネフェルピトーは一瞬動きを止めた。
「ピトー」
とメルエムが呼び掛けると、ネフェルピトーは急いで頭を下げた。
「かしこまりました、メルエム様」
ネフェルピトーは仰々しく丁寧に頭を下げた。メルエムは、ウム、と相槌を返す。
以降、ネフェルピトーは、メルエムのことを「メルエム様」と呼ぶようになるのだが、この時の彼らにとって名前は、ただのお飾りだった。
「コムギを起こしてこい。向こうの部屋にいる」
この自分たちの置かれた状況がはっきりとするまでは、ここでコムギと軍儀を打ち続けてもいいだろう、とメルエムは考えていた。
「かしこまりました」
ネフェルピトーは貼り付けたような言葉で返事をし、コムギの部屋へと向かって行った。