見えない人の力
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
マスターハンドは、ものの数十分で、塔のようにはるかに高くて大きい建物を創り出した。メルエムが住処としていた城より遥かに大きいものである。
それが、レアモノが成せる技なのか理解しがたかったが、メルエムが、広くて頑丈な部屋を、と注文すると、マスターハンドは、まさにその通りの部屋を用意した。
「コムギに必要なものも用意しろ」
「はいはーい」
メルエムの言葉を決して嫌がりもしなかったマスターハンドは、そう答えながら次々と色々な部屋を創り出した。トイレや風呂、コムギの寝室には、ベットとタンスまで置いて行った。
「それが念の能力なのか」
とメルエムが問えば、マスターハンドはさぁね、とこう言葉を続けた。
「ある人は、これを魔法と呼ぶし、ある人は、神の実っていうね」
神なんているのか、とメルエムは怪しんだが、コムギがいる手前、無用な戦闘は避けた。いつ、このマスターハンドが自分たちに反逆するか分からないが。
「メルエム様、軍儀はございますでしょうか?」
コムギは問いかけた。相変わらず独特な口調から、早く軍儀を打ちたい、という気持ちがよく伝わってきた。
メルエムはコムギからマスターハンドへと目を上げた。
「グンギ……? それはどんなものだい?」
とマスターハンドが質問返しをすると、それはですね……! と、コムギはなぜだか嬉しそうに軍儀を説明し始めた。
軍儀の話をしているコムギは、いつだって見たこともないくらい輝いているような表情を見せた。それが、自分以外の誰かに向けられているのは退屈だったが、死後、別の世界に落とされたメルエムたちにとって、全てを創造出来るらしいマスターハンドは、必要不可欠な存在だった。
「うんうん、そういうものか!」
コムギの説明が終わると、頷くようにマスターハンドはふわりと宙に浮いた。
それからすっと床に指をさすと、瞬く間に、軍儀そのものが現れて、メルエムはわずかに目を見開いた。
「こんな感じかな?」
とマスターハンドに言われ、コムギはすぐに膝をつき、軍儀の台やコマを触り始めた。すぐに、コムギは答えた。
「これです……! あ、ありがとうございます、マスターハンド様……!」
コムギは、額を床につけて深々と頭を下げた。
「これくらい、気にしないで〜。僕は、創造の化身だからね」とマスターハンドは言った。「さて、あらかたここの話をして置きたいんだけど……」
改まった口調で、マスターハンドはメルエムへと向き直った。
「なんだ」
とメルエムがマスターハンドから聞いた話によると、この大きな建物……屋敷には、十三の世界から来た色々な者がいるという話だった。総勢三百人以上、とも。
この世界に来る前の記憶は全員まちまちで、ある人は夜寝ていたら、とか、ある人は戦闘中に、とか。
つまり、ここは死後の世界ではなさそうだったが、この世界がどんなところなのか、名前すら知らない場所である、ということだった。
ただ、一つ分かることは、人形という謎の者たちが、襲ってくるということ。つまりメルエムたちには、その人形を倒す一人として仲間になって欲しい、ということだった。
「仲間か」
メルエムは呟き、傍らで軍儀の台や駒を触り続けているコムギを見やった。
コムギが、軍儀以外に対して、非力で弱いということはメルエムが一番よく分かっていた。
この小娘のことなら、多少のプライドくらい、捨ててもいいのかもしれない、とメルエムは思った。
「しばらくはその方がいいようだな」
「分かってくれたならよかった」
メルエムが頷くと、マスターハンドは、それじゃあ、他の人にも話をしてくる、と部屋を後にした。
妙なことに巻き込まれたものだな、とメルエムは軍儀の前に腰を下ろした。
「コムギ、お主と打ちたい」
とメルエムが言えば、コムギは本当に嬉しそうな顔をした。
「はい……!」
全盲で開かずのコムギは、軍儀を打つ時だけその目を開く。それでも見えることはないのだが、軍儀の前にだけ、全てを見抜いているのではないか、とメルエムが錯覚してしまう程、その魅力に惹かれていた。
その日の夜、メルエムは、コムギと軍儀を打ち続けた。どう立ち回っても、やはり、メルエムはコムギに勝つことはなく、何度も何度も打ったのち、睡眠の為にコムギは寝室へと向かって行った。
メルエムは寝る必要がなかったが、その日、ずっと考え事をしていた。この世界のこと、コムギのこと、あの人形という者のこと……。
そして夜明け頃に、メルエムの部屋の扉をノックする者が現れた。
それが、レアモノが成せる技なのか理解しがたかったが、メルエムが、広くて頑丈な部屋を、と注文すると、マスターハンドは、まさにその通りの部屋を用意した。
「コムギに必要なものも用意しろ」
「はいはーい」
メルエムの言葉を決して嫌がりもしなかったマスターハンドは、そう答えながら次々と色々な部屋を創り出した。トイレや風呂、コムギの寝室には、ベットとタンスまで置いて行った。
「それが念の能力なのか」
とメルエムが問えば、マスターハンドはさぁね、とこう言葉を続けた。
「ある人は、これを魔法と呼ぶし、ある人は、神の実っていうね」
神なんているのか、とメルエムは怪しんだが、コムギがいる手前、無用な戦闘は避けた。いつ、このマスターハンドが自分たちに反逆するか分からないが。
「メルエム様、軍儀はございますでしょうか?」
コムギは問いかけた。相変わらず独特な口調から、早く軍儀を打ちたい、という気持ちがよく伝わってきた。
メルエムはコムギからマスターハンドへと目を上げた。
「グンギ……? それはどんなものだい?」
とマスターハンドが質問返しをすると、それはですね……! と、コムギはなぜだか嬉しそうに軍儀を説明し始めた。
軍儀の話をしているコムギは、いつだって見たこともないくらい輝いているような表情を見せた。それが、自分以外の誰かに向けられているのは退屈だったが、死後、別の世界に落とされたメルエムたちにとって、全てを創造出来るらしいマスターハンドは、必要不可欠な存在だった。
「うんうん、そういうものか!」
コムギの説明が終わると、頷くようにマスターハンドはふわりと宙に浮いた。
それからすっと床に指をさすと、瞬く間に、軍儀そのものが現れて、メルエムはわずかに目を見開いた。
「こんな感じかな?」
とマスターハンドに言われ、コムギはすぐに膝をつき、軍儀の台やコマを触り始めた。すぐに、コムギは答えた。
「これです……! あ、ありがとうございます、マスターハンド様……!」
コムギは、額を床につけて深々と頭を下げた。
「これくらい、気にしないで〜。僕は、創造の化身だからね」とマスターハンドは言った。「さて、あらかたここの話をして置きたいんだけど……」
改まった口調で、マスターハンドはメルエムへと向き直った。
「なんだ」
とメルエムがマスターハンドから聞いた話によると、この大きな建物……屋敷には、十三の世界から来た色々な者がいるという話だった。総勢三百人以上、とも。
この世界に来る前の記憶は全員まちまちで、ある人は夜寝ていたら、とか、ある人は戦闘中に、とか。
つまり、ここは死後の世界ではなさそうだったが、この世界がどんなところなのか、名前すら知らない場所である、ということだった。
ただ、一つ分かることは、人形という謎の者たちが、襲ってくるということ。つまりメルエムたちには、その人形を倒す一人として仲間になって欲しい、ということだった。
「仲間か」
メルエムは呟き、傍らで軍儀の台や駒を触り続けているコムギを見やった。
コムギが、軍儀以外に対して、非力で弱いということはメルエムが一番よく分かっていた。
この小娘のことなら、多少のプライドくらい、捨ててもいいのかもしれない、とメルエムは思った。
「しばらくはその方がいいようだな」
「分かってくれたならよかった」
メルエムが頷くと、マスターハンドは、それじゃあ、他の人にも話をしてくる、と部屋を後にした。
妙なことに巻き込まれたものだな、とメルエムは軍儀の前に腰を下ろした。
「コムギ、お主と打ちたい」
とメルエムが言えば、コムギは本当に嬉しそうな顔をした。
「はい……!」
全盲で開かずのコムギは、軍儀を打つ時だけその目を開く。それでも見えることはないのだが、軍儀の前にだけ、全てを見抜いているのではないか、とメルエムが錯覚してしまう程、その魅力に惹かれていた。
その日の夜、メルエムは、コムギと軍儀を打ち続けた。どう立ち回っても、やはり、メルエムはコムギに勝つことはなく、何度も何度も打ったのち、睡眠の為にコムギは寝室へと向かって行った。
メルエムは寝る必要がなかったが、その日、ずっと考え事をしていた。この世界のこと、コムギのこと、あの人形という者のこと……。
そして夜明け頃に、メルエムの部屋の扉をノックする者が現れた。