見えない人の力
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メルエムは、確かに死んだはずだった。
自らの母の腹を破って世に生まれ落ち、人間を支配しようと数々の暴力を振るい、レアモノを使って軍隊を作ろうとしていたキメラアントの王、メルエムは、たった一人が命を代償に放った毒を含む爆弾によって、体を蝕まれていた。
メルエムは最後に、コムギの元へ駆けつけた。自分がもう助からないということはよく分かっていた。……近づいた者が自分を冒している毒で死んでしまうことも。
だからこそ、メルエムは彼女の元へ行った。彼女はメルエムの恐ろしい死への話を、全て受け入れて膝で抱いた。
彼女は……コムギは、盲目でありながら、最初から分かっていたようだった。
当然、コムギは知るはずもない。なぜ、メルエムが毒に冒されていたか、なぜ、コムギのところに舞い戻ったか。
そうして、メルエムは、最後に自分の名前を告げ、コムギの膝の上で、四十日という短い生を終えた、はずだった。
「……コムギ……?」
なぜなのか。目の前に、盲目のあの少女が、死に際と同じ体勢でこちらを見下ろしている。
盲目のコムギは声にびっくりし、あわあわと慌てながら、その名前を、口にした。
「メルエム様……?」
その変わらぬ声と表情にメルエムは安堵したが、何かがおかしい。メルエムは体を起こした。
辺りは見たことのない無数の花畑が広がっていた。四方は森に囲まれていて、あとには何もない。壊された自分の城すらなければ、戦闘の跡もない。
そして、毒で冒されていたはずのコムギが、なんの症状もなく元気である。……メルエムの体自身も毒に侵されている感覚がなく、むしろ生まれたばかりのように力があふれ満ちていた。
「コムギ、怪我はないか?」
「はい! おかげさまで、この通り元気です!」
念の為訊いてみたメルエムに対し、コムギは酷く低姿勢に答えた。……声からしても、不調はなさそうだった。
それにしても、ここはどこなのか。
メルエムはもう一度辺りを見渡し、どこかで知った「あの世」のことを思い出していた。
見たこともないものをあると断言するのは、メルエムの柄ではなかった。あるはずがないとも思っていたが、こうして見る限り、ここは死後の世界のように思えた。
「コムギ」
メルエムはそう呼び掛けて口をつぐんだ。
二人にとって、自分たちは死んだはずだよな、という確認なんていらなかった。ただ、一緒にいられるだけで良かったから。
コムギは本当に謙虚に、はいっと返事をする。メルエムは何も言葉を続けず、コムギの顔をじっとみつめた。コムギは、なぜ名前を呼ばれたのか分からないまま、またその名前を呼んだ。
「メルエム様……?」
首を傾げるコムギに対し、メルエムは今まで感じたことのない感情が湧き出てくることを自覚したが、それがなんなのか形容しがたかった。
メルエムは、コムギの頬に触れた。
温かい。
死後の世界とは、こんなにも優しいものなのか。
コムギからさらに戸惑いの表情が現れ、メルエムはくすりと笑った。
「いやぁ、全く困ったものだねぇ!」
突然の声に、メルエムは立ち上がった。
気が付いたら背後をとられるなんて、とメルエムはコムギをかばうように振り向く。
「おや、そんな怖ーい顔しないで。僕は、マスターハンド」
マスターハンドと名乗ったそれは、白くて大きな手だけの存在だった。人間ではなさそうだが、キメラアントにそんなタイプがあるとは思えなかった。
「余は、メルエムだ」
メルエムは警戒心深く名乗った。名前がどれ程大事なものか、メルエムは知っていた。
「マ、マスターハンド様?!」何も見えないコムギは、マスターハンドの姿に怯える様子もなく、声を頼りにそちらへ頭を下げた。「ワダす、コ、ココココココ、コムギといいますっ」
名乗るということにあまり慣れていなさそうなコムギが、あまりにも挙動不審に自己紹介をした。
マスターハンドはゆらりと大きく揺れた。
「そんなかしこまらないで。僕たちも、気付いたらこの別世界に落ちてきたから!」
「たち……?」
メルエムは目を上げた。
見れば、マスターハンドの奥に、何人もの人やキメラアントのような姿をした者がいて、そんなにたくさんいたのに気配すら分からなかったメルエムは、自分の能力が落ちているのか、と自身を疑った。
「別の世界……ワダすたち、別の世界に来たんでしょうか……?」
未だ状況が飲み込めていないコムギが問い掛けた。
「そうだと思うよ」マスターハンドが答えた。「といっても、僕の経験と感覚的にってだけなんだけど」
つまりマスターハンドも、ここが別の世界かどうかははっきりとは分からないということだった。
「ワダす、別の世界に来るなんて初めてだす……!」
純粋なコムギは、目をキラキラとさせているかのように言った。
「うんうん! 見たこともない花や木があるし、この世界を少し楽しむのもいいかもね!」
とマスターハンドがそんなことを言い始めた時、悲鳴があがった。
「わー!」
自らの母の腹を破って世に生まれ落ち、人間を支配しようと数々の暴力を振るい、レアモノを使って軍隊を作ろうとしていたキメラアントの王、メルエムは、たった一人が命を代償に放った毒を含む爆弾によって、体を蝕まれていた。
メルエムは最後に、コムギの元へ駆けつけた。自分がもう助からないということはよく分かっていた。……近づいた者が自分を冒している毒で死んでしまうことも。
だからこそ、メルエムは彼女の元へ行った。彼女はメルエムの恐ろしい死への話を、全て受け入れて膝で抱いた。
彼女は……コムギは、盲目でありながら、最初から分かっていたようだった。
当然、コムギは知るはずもない。なぜ、メルエムが毒に冒されていたか、なぜ、コムギのところに舞い戻ったか。
そうして、メルエムは、最後に自分の名前を告げ、コムギの膝の上で、四十日という短い生を終えた、はずだった。
「……コムギ……?」
なぜなのか。目の前に、盲目のあの少女が、死に際と同じ体勢でこちらを見下ろしている。
盲目のコムギは声にびっくりし、あわあわと慌てながら、その名前を、口にした。
「メルエム様……?」
その変わらぬ声と表情にメルエムは安堵したが、何かがおかしい。メルエムは体を起こした。
辺りは見たことのない無数の花畑が広がっていた。四方は森に囲まれていて、あとには何もない。壊された自分の城すらなければ、戦闘の跡もない。
そして、毒で冒されていたはずのコムギが、なんの症状もなく元気である。……メルエムの体自身も毒に侵されている感覚がなく、むしろ生まれたばかりのように力があふれ満ちていた。
「コムギ、怪我はないか?」
「はい! おかげさまで、この通り元気です!」
念の為訊いてみたメルエムに対し、コムギは酷く低姿勢に答えた。……声からしても、不調はなさそうだった。
それにしても、ここはどこなのか。
メルエムはもう一度辺りを見渡し、どこかで知った「あの世」のことを思い出していた。
見たこともないものをあると断言するのは、メルエムの柄ではなかった。あるはずがないとも思っていたが、こうして見る限り、ここは死後の世界のように思えた。
「コムギ」
メルエムはそう呼び掛けて口をつぐんだ。
二人にとって、自分たちは死んだはずだよな、という確認なんていらなかった。ただ、一緒にいられるだけで良かったから。
コムギは本当に謙虚に、はいっと返事をする。メルエムは何も言葉を続けず、コムギの顔をじっとみつめた。コムギは、なぜ名前を呼ばれたのか分からないまま、またその名前を呼んだ。
「メルエム様……?」
首を傾げるコムギに対し、メルエムは今まで感じたことのない感情が湧き出てくることを自覚したが、それがなんなのか形容しがたかった。
メルエムは、コムギの頬に触れた。
温かい。
死後の世界とは、こんなにも優しいものなのか。
コムギからさらに戸惑いの表情が現れ、メルエムはくすりと笑った。
「いやぁ、全く困ったものだねぇ!」
突然の声に、メルエムは立ち上がった。
気が付いたら背後をとられるなんて、とメルエムはコムギをかばうように振り向く。
「おや、そんな怖ーい顔しないで。僕は、マスターハンド」
マスターハンドと名乗ったそれは、白くて大きな手だけの存在だった。人間ではなさそうだが、キメラアントにそんなタイプがあるとは思えなかった。
「余は、メルエムだ」
メルエムは警戒心深く名乗った。名前がどれ程大事なものか、メルエムは知っていた。
「マ、マスターハンド様?!」何も見えないコムギは、マスターハンドの姿に怯える様子もなく、声を頼りにそちらへ頭を下げた。「ワダす、コ、ココココココ、コムギといいますっ」
名乗るということにあまり慣れていなさそうなコムギが、あまりにも挙動不審に自己紹介をした。
マスターハンドはゆらりと大きく揺れた。
「そんなかしこまらないで。僕たちも、気付いたらこの別世界に落ちてきたから!」
「たち……?」
メルエムは目を上げた。
見れば、マスターハンドの奥に、何人もの人やキメラアントのような姿をした者がいて、そんなにたくさんいたのに気配すら分からなかったメルエムは、自分の能力が落ちているのか、と自身を疑った。
「別の世界……ワダすたち、別の世界に来たんでしょうか……?」
未だ状況が飲み込めていないコムギが問い掛けた。
「そうだと思うよ」マスターハンドが答えた。「といっても、僕の経験と感覚的にってだけなんだけど」
つまりマスターハンドも、ここが別の世界かどうかははっきりとは分からないということだった。
「ワダす、別の世界に来るなんて初めてだす……!」
純粋なコムギは、目をキラキラとさせているかのように言った。
「うんうん! 見たこともない花や木があるし、この世界を少し楽しむのもいいかもね!」
とマスターハンドがそんなことを言い始めた時、悲鳴があがった。
「わー!」
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