暗闇の花
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翌朝。
「メ、メルエム様……!!」
食事に出て行ったコムギが、慌てた様子でメルエムの元に訪れた。
「どうした、コムギ……」
メルエムはここで初めて、言葉を失う。
「あの、クロエ様が、ワダスの仮装衣装を用意してくださって……」
淡い桃色がかかった白く大きなドレス。それは、コムギをより美しく可憐に魅せているかのような衣装だった。
「ど、どうでしょうか、メルエム様……ワダス、目が見えないものですがら……」
どう、とはなんなのか。人の感情を深くまで知ることの出来ないメルエムは、正直に答えた。
「似合っているぞ、コムギ」
するとコムギは、本当に嬉しそうな顔をした。メルエムはそれを見て、人の笑顔という表情筋には、不思議な力があるように思えた。それとも、コムギだからそう思うのか。
「メルエム様にそう言って頂けて大変光栄に思います……!」
そう言いながらコムギが深々と頭を下げるものだから、メルエムはすぐに、頭を上げろと言った。
コムギは素早く頭を上げたが、その手元には何かが握られていた。メルエムは問いかけた。
「その手にあるのはなんだ、コムギ」
「あ、これはですね……」とコムギは手にしていた紙袋から、黒っぽい布のようなものを取り出した。「クロエ様が、メルエム様の仮装衣装にって渡してくれだんです」
「余に……?」
そのようなことを頼んだ覚えは、メルエムにはなかった。コムギはさらに話を続けた。
「クロエ様から聞ぎました……この衣装、メルエム様のご指示で用意して下さったと」
「そうだ。コムギもそのハロウィンとやらを楽しんで欲しくて……」
言いかけて、はっとした。メルエムは今まで、誰かのために幸せであってほしいと願ったことがなかった。それなのに今、自分はなんと言ったのだろう、と。
「……メルエム様?」
コムギはこちらに訊ねる。コムギが開かずなので目と合うことはないのだが、声が途切れたことに不安を抱いているようだ。
「いいや、なんでもない」
と答えながら、メルエムは、コムギが持ってきた布のようなものを広げた。それは、人が着るような黒っぽい衣装だった。
特にこれといった飾りのあるものではなかったが、メルエムは服を着ていない。というより、着る理由もない。なぜクロエは、自分にこんなものを差し出してきたのか疑問が拭えなかった。
「あ、あの、メルエム様……」
コムギが申し訳なさそうに、細々としたような声で話出そうとした。
「なんだ、コムギ」
メルエムはコムギを見やる。
コムギは再び、深く頭を下げた。メルエムはその動きにもうそんな態度は取るなと言おうとしたが、それはさっきの仰々しい作法とかではなく、メルエム自身に向けた、敬意のように見えた。
「ワダスと……ハ、ハロウィンパーティーに、い、一緒に行って下さいませんでしょうか……?」
メルエムはコムギの言葉に不意を突かれた。それから注意深くコムギを見据え、誠心誠意な対応に、メルエムはわずかに体から力を抜いた。
「分かった、コムギ。余と共に行こう」
メルエムはここで初めて悟った。クロエから渡された物は、このために贈られたものだと。
コムギは明るい表情を見せた。それはまるで、人間が愛でるという花に似ていた。
コムギから見えない暗闇に、自分がみつけたものは花だったのだ。メルエムは、そう思った。
「メ、メルエム様……!!」
食事に出て行ったコムギが、慌てた様子でメルエムの元に訪れた。
「どうした、コムギ……」
メルエムはここで初めて、言葉を失う。
「あの、クロエ様が、ワダスの仮装衣装を用意してくださって……」
淡い桃色がかかった白く大きなドレス。それは、コムギをより美しく可憐に魅せているかのような衣装だった。
「ど、どうでしょうか、メルエム様……ワダス、目が見えないものですがら……」
どう、とはなんなのか。人の感情を深くまで知ることの出来ないメルエムは、正直に答えた。
「似合っているぞ、コムギ」
するとコムギは、本当に嬉しそうな顔をした。メルエムはそれを見て、人の笑顔という表情筋には、不思議な力があるように思えた。それとも、コムギだからそう思うのか。
「メルエム様にそう言って頂けて大変光栄に思います……!」
そう言いながらコムギが深々と頭を下げるものだから、メルエムはすぐに、頭を上げろと言った。
コムギは素早く頭を上げたが、その手元には何かが握られていた。メルエムは問いかけた。
「その手にあるのはなんだ、コムギ」
「あ、これはですね……」とコムギは手にしていた紙袋から、黒っぽい布のようなものを取り出した。「クロエ様が、メルエム様の仮装衣装にって渡してくれだんです」
「余に……?」
そのようなことを頼んだ覚えは、メルエムにはなかった。コムギはさらに話を続けた。
「クロエ様から聞ぎました……この衣装、メルエム様のご指示で用意して下さったと」
「そうだ。コムギもそのハロウィンとやらを楽しんで欲しくて……」
言いかけて、はっとした。メルエムは今まで、誰かのために幸せであってほしいと願ったことがなかった。それなのに今、自分はなんと言ったのだろう、と。
「……メルエム様?」
コムギはこちらに訊ねる。コムギが開かずなので目と合うことはないのだが、声が途切れたことに不安を抱いているようだ。
「いいや、なんでもない」
と答えながら、メルエムは、コムギが持ってきた布のようなものを広げた。それは、人が着るような黒っぽい衣装だった。
特にこれといった飾りのあるものではなかったが、メルエムは服を着ていない。というより、着る理由もない。なぜクロエは、自分にこんなものを差し出してきたのか疑問が拭えなかった。
「あ、あの、メルエム様……」
コムギが申し訳なさそうに、細々としたような声で話出そうとした。
「なんだ、コムギ」
メルエムはコムギを見やる。
コムギは再び、深く頭を下げた。メルエムはその動きにもうそんな態度は取るなと言おうとしたが、それはさっきの仰々しい作法とかではなく、メルエム自身に向けた、敬意のように見えた。
「ワダスと……ハ、ハロウィンパーティーに、い、一緒に行って下さいませんでしょうか……?」
メルエムはコムギの言葉に不意を突かれた。それから注意深くコムギを見据え、誠心誠意な対応に、メルエムはわずかに体から力を抜いた。
「分かった、コムギ。余と共に行こう」
メルエムはここで初めて悟った。クロエから渡された物は、このために贈られたものだと。
コムギは明るい表情を見せた。それはまるで、人間が愛でるという花に似ていた。
コムギから見えない暗闇に、自分がみつけたものは花だったのだ。メルエムは、そう思った。
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