暗闇の花
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一件が落ち着いてきた頃、何やら屋敷が騒がしくなっていた。
「ピトー、これはどういうことだ」
側近のネフェルピトーにメルエムは問いただした。言葉が少なくとも、ネフェルピトーはすぐに勘づいた。
「どうやら、もうすぐ、ハロウィンという日が来るようです」
「ハロウィン……?」
「はい。ハロウィンというのは、人間たちが食料に感謝を捧げる日でして……」
「それは知っている」
昔の自分なら、ネフェルピトーを殴っていただろう。だが、メルエムはそれをする必要ではないということを知っていた。
ネフェルピトーは、失礼しましたと後ずさる。
「……だからコムギがいないのか」
メルエムは一人呟いた。
ただ広いだけのメルエムの部屋には、赤いカーペットの上に、軍儀の台座だけがあった。
「にゃ……?」
その時、後ろ気味にいるネフェルピトーが何かの気配を察知した。遅れてメルエムも視線を上げると、大きな部屋の扉に、小さなノック音が聞こえた。
「入れ」
メルエムが応えると、そっと扉が開き、一人の少女が入って来た。
「あの、コムギさんはいらっしゃいますか……?」
ヘレナだった。
お互い見えない同士なのか、会って早々、コムギと仲良くなったどこかの異世界の住民だ。メルエムは正直に答えた。
「今はいない」
「そうですか……」
コムギはどこか人を惹き付ける力がある。それに魅入られたヘレナもその一人のようで、少し残念そうに視線を逸らした。
「待て」踵を返そうとしたヘレナを、メルエムは引き止めた。「その格好はなんだ?」
ヘレナはいつも、装飾最低限の服と帽子を被っていた。しかし今は、派手な飾りと色のものを身につけており、見えない彼女に果たしてそのようなものが必要なのだろうかと気になったのだ。
「あ、これは、黄金ケーキです」ヘレナはにこやかに答えた。「ハロウィンでは仮装パーティーというものをするので、服装を変えてみたんですよ」
「黄金ケーキ……?」
いや、ケーキというものはメルエムも知ってはいた。だが、人間にとってケーキは食べ物であり、黄金にしては食べにくいだろう、と思ったのだ。
「仮装パーティーでは、色々な何かの仮装をするので着てみたのですが、どうですか?」
どうとはどういうことなのか。メルエムは、少し考えた。
「……悪くない」
「まぁ、よかった! 私、見えないからどう見えているのか不安で」とヘレナは言った。「コムギさんも仮装の試着をしているんじゃないかしら? どんな格好になるか楽しみね!」
くすくすと笑いながら、ヘレナは一礼をして部屋を出て行った。
「仮装……」
人間のやることにはしばし考えがたいことがある。しかし、メルエムは少し、気にはなっていた。
コムギがどんな格好をするのか、と。
「ピトー、これはどういうことだ」
側近のネフェルピトーにメルエムは問いただした。言葉が少なくとも、ネフェルピトーはすぐに勘づいた。
「どうやら、もうすぐ、ハロウィンという日が来るようです」
「ハロウィン……?」
「はい。ハロウィンというのは、人間たちが食料に感謝を捧げる日でして……」
「それは知っている」
昔の自分なら、ネフェルピトーを殴っていただろう。だが、メルエムはそれをする必要ではないということを知っていた。
ネフェルピトーは、失礼しましたと後ずさる。
「……だからコムギがいないのか」
メルエムは一人呟いた。
ただ広いだけのメルエムの部屋には、赤いカーペットの上に、軍儀の台座だけがあった。
「にゃ……?」
その時、後ろ気味にいるネフェルピトーが何かの気配を察知した。遅れてメルエムも視線を上げると、大きな部屋の扉に、小さなノック音が聞こえた。
「入れ」
メルエムが応えると、そっと扉が開き、一人の少女が入って来た。
「あの、コムギさんはいらっしゃいますか……?」
ヘレナだった。
お互い見えない同士なのか、会って早々、コムギと仲良くなったどこかの異世界の住民だ。メルエムは正直に答えた。
「今はいない」
「そうですか……」
コムギはどこか人を惹き付ける力がある。それに魅入られたヘレナもその一人のようで、少し残念そうに視線を逸らした。
「待て」踵を返そうとしたヘレナを、メルエムは引き止めた。「その格好はなんだ?」
ヘレナはいつも、装飾最低限の服と帽子を被っていた。しかし今は、派手な飾りと色のものを身につけており、見えない彼女に果たしてそのようなものが必要なのだろうかと気になったのだ。
「あ、これは、黄金ケーキです」ヘレナはにこやかに答えた。「ハロウィンでは仮装パーティーというものをするので、服装を変えてみたんですよ」
「黄金ケーキ……?」
いや、ケーキというものはメルエムも知ってはいた。だが、人間にとってケーキは食べ物であり、黄金にしては食べにくいだろう、と思ったのだ。
「仮装パーティーでは、色々な何かの仮装をするので着てみたのですが、どうですか?」
どうとはどういうことなのか。メルエムは、少し考えた。
「……悪くない」
「まぁ、よかった! 私、見えないからどう見えているのか不安で」とヘレナは言った。「コムギさんも仮装の試着をしているんじゃないかしら? どんな格好になるか楽しみね!」
くすくすと笑いながら、ヘレナは一礼をして部屋を出て行った。
「仮装……」
人間のやることにはしばし考えがたいことがある。しかし、メルエムは少し、気にはなっていた。
コムギがどんな格好をするのか、と。
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