出発は、それから一時間経った後だった。
　ファレスターは荷物の最終確認をしていた。異世界に来たばかりだから持っているものなんてそんなにないのだが、それでも、入念に確認して悪いことはないはずだ。小さなウエストポーチに詰まった自分の着替え、身だしなみを整える道具も、マスターハンドが用意してくれていてしっかり入っていた。
　そして、図書室から借りた本。
　これは、持っていくかどうしようか悩んだものだった。船旅に本なんて必要ないかもしれないが、この本の中には、麦わら海賊団の人たちのことだけではなく、晶からの勧めで借りた賢者の書や、エマが勧めてくれた本もある。それは、知識だけでなく、ここに来たばかりの自分に親切にしてくれた、みんなの優しさのものでもあった。
｢ファレスター、行くわよ！｣
　ナミが自室にいたファレスターを呼びに来てくれた。ファレスターは顔を上げた。
｢今行きます！｣

｢これが、ルフィさんたちの船……？｣
　漫画の中でも描かれていた、ルフィたちの船は、ファレスターの想像を遥か上をゆく程大きなものだった。
｢あう！　スーパァァァァな船だろう？｣
　と張り上げた声と共に船から顔を出したのは、水色髪を前方に固めている男性。確かこの人は……。
｢フランキーさん……？｣
　漫画で見た通りのその姿に、ファレスターは自分の目を疑った。フランキーはひょいっと船から降りてきたが、やはり海パンは履いているらしい！
｢みんなとはもう会っていたのかしら？｣
　と後ろから声を掛けられ、振り向けば黒髪の女性。
｢あなたは……ロビン、さん？｣
　とファレスターが言うと、女性はくすりと微笑んだ。
｢ええ、そうよ。……もしかして、私たちのことは予習でもしていたのかしら｣
　とロビンに言われ、ファレスターは不思議なウエストポーチから、一冊の漫画を取り出した。
｢昨日これを読んだんです！　本当にもう面白くて夢中になって……｣
｢おーい、ファレスター！｣
　声を掛けられ、ファレスターが見上げた先は船の上。
　相変わらず軽装なルフィが、にかりと無邪気そうに笑っていた。
｢乗れよ、ファレスター！　おれの船に！｣
　これが、ルフィという麦わら海賊団の船長としての威厳なのか。
　ファレスターは深く頷いた。
｢うん！　今行く！｣