｢でも私……｣
　人形と戦える訳でもなく、特段頭がいい訳でもない。ファレスターの中では、足を引っ張るだけではないかと不安になっていた。
｢大丈夫だ！　おれがファレスターを守る！｣
　どこから湧いてくる根拠なのか、ルフィは相変わらず明るく笑う。
｢そんな、守られてばかりも……｣
　ここに来てから、自分は何もしていない。ファレスターはますます不安になった。
｢その方がいいかもね｣と言ったのは、マスターハンドだった。｢この世界では、何が起きるか分からない。また、ゴンくんみたいに不思議な病気にかかった時、ファレスターさんの力が必要になるのかも｣
｢私の力……｣
　ファレスターは自分の手の平を見、ゴンの方へと振り向いた。
　確かに、あの不思議な病気を触れただけで治したのは自分だった。それがどんな力なのか、まだ自分でさえもはっきり分かっていないが、ここに住まわせてもらっている以上、多少危険な道でも行かなくてはいけないのかもしれない。
　ファレスターはルフィへと向き直った。
｢私、何を準備したらいいですか？　少しでも、力になりたいです……！｣
｢おう！　今すぐ出航するぞ！｣
｢えっ、今？！｣
　決意したものの、ルフィの決断の早さに戸惑うファレスター。
｢はーい、出発は少し待ってね〜｣割り込むようにマスターハンドが言った。｢これからルフィくんの海賊船に乗るんだから、色々準備をしないと……ね、ファレスターさん｣
｢あ、はい……｣
　とは言われても、海賊の船に乗るには何を準備したらいいのか。というか、なぜわざわざ海賊船なのか……。
｢出発は明日にしたらどうだい？　ファレスターさんに渡したい物があるからね｣
｢渡したい物……？｣
　ファレスターは首を傾げてマスターハンドを見やるが、顔すらない彼に、表情を読み取ることは困難だ。
｢おう、いいぞ！｣
　ルフィは快く承諾してくれた。
｢それじゃあ、今回のリーダー会議はここまで！　みんなに、人形のことや聖なる炎のことを伝えて置いてね〜｣
　そうして、リーダー会議は終わり、集まった人たちは次々と会議室を後にする。
｢気をつけてなの、ファレスターちゃん！｣
　立ち去り際に、そう声を掛けてきたのはエマ。エマは本当に心配そうにファレスターの両手を取ってこちらをみつめた。
｢うん、気を付けます。ありがとうございます、エマさん｣
　何にどう気を付けたらいいのかファレスターは分からないことも多かったが、エマの笑顔はそんな不安を和らげてくれるような、不思議な力がある気がした。
｢あ、そうなの！｣エマが何かを思い出す。｢ファレスターちゃんに勧めた本は、ルフィさんたちのお話なの！　面白いからよかったら読んでなの♪｣
｢ああ……はい。ありがとうございます｣
　ファレスターは部屋にロゼッタが届けてくれた三冊の本を思い出していた。