｢ルフィさんが、海を泳ぐんですか……？｣
　そんなことは絶対無理だとファレスターは分かってはいたが、そう聞かざるを得ない程、みんなの視線の理由が分からなかった。
｢おれは、泳げねェぞ｣ルフィがさらりと言ってのけた。｢おれはゴムゴムの実の能力者だからな！｣
｢ゴムゴム……？｣
　また新しい単語に、ファレスターは首を傾げる。
｢ルフィくんは、海賊のいる世界から来た人でね。その世界には、悪魔の実という果物があるらしいんだ｣
　と傍らのマスターハンドが説明してくれた。
｢悪魔の実って、魔法みたいな……？｣
　ファレスターはさらに訊いてみた。すると突然、ルフィが叫んだのだ。
｢ファレスター！｣
｢えっ｣
　声のした方へとファレスターが振り向くと、ルフィの腕が人の倍以上に伸びていて……？！
｢わっ、わ……ル、ルフィさん、腕が……！！｣
　あまりにも愕然とする光景にファレスターは言葉を詰まらせながら思わず立ち上がった。
｢手、ちょっと掴まるぞ！｣
　立ち尽くすファレスターになりふり構わず、ルフィはそう言った。マスターハンドはこれから何をするのか分かっているようで、いいよーと気さくに応答する。
　ルフィはその言葉通りに、腕を長く伸ばしてマスターハンドに掴まった。そして次の瞬間、みょーんとルフィの体がマスターハンドの方へ引き寄せられ、そのまま後ろのホワイトボードへと激突した。
｢あ、ルフィ。壁を壊すなんて聞いていないよ〜｣
　ホワイトボードは凹み、蜘蛛の巣のように割れ目が走っていたが、マスターハンドの話口調はびっくりする程とても軽い。
｢俺にも思いつかない壊し方だヨ｣
　クレイジーハンドは呆れたように言葉を吐いた。
｢なーはっはっはっはっ！　だろー？｣
　一方のルフィは、なぜか得意気だ。クレイジーハンドはルフィを褒めた訳ではないはずだ。
｢それで、なんとか炎ってのを見つけてきたらいいんだろ？｣
　とルフィは言いながらこちらに向かって歩いてきた。サンダルのような靴を履いていて、変わった人だな、とファレスターは思った。
｢聖なる炎ね。ルフィくんたちの船で行けないかな？｣
｢行けるぞ！｣マスターハンドの問いにルフィはすぐに答えた。｢ファレスターも一緒に行こう！｣
｢え、私と……？｣
　ルフィの唐突の誘いにファレスターはとても驚いた。
　ルフィはにかりと笑ってさらに言葉を続けた。
｢一緒に炎を探しに行くぞ、ファレスター！｣