｢え、夢の魔女……？　ハンター……？｣
　ファレスターは、なんのことか分からずにレストの言葉を繰り返す。こんな小さな女の子が、そんなに恐ろしい存在なのだろうか、とさえ思ったが、夢の魔女の従者と呼ばれているその女の子には、刃先が鋭そうな鎌を手にしていた。
｢えっと……｣
　ファレスターは困惑した。鎌を持っている女の子は、虚ろな目でファレスターを見上げている。
｢ふふふふふ……｣
　その時、頭上から笑い声。
　びっくりしてファレスターが顔を上げると、そこには、目隠しをした女性が立っていた……いや、下半身が蛇になっている大きな女性だ！
｢ほう……救世主とやらがどんなのか気になって見に来たが……随分か弱そうな人の子だ｣
　下半身が蛇の女性は、まるでファレスターが見えていないかのようにそう言って周りをぐるりと取り囲む。ファレスターは、長い蛇の尻尾にぎょっとする。
｢ねぇ、レスト……｣
　ファレスターはたまらず傍らのレストを呼ぶが、レストは、従者の方を見るばかりで、蛇の女性には気付いていないようだった。
｢大丈夫！　ファレスターは僕が守るから！｣
｢い、いや、それより、後ろに……｣
　言葉は途切れた。蛇の女性が、ぐっとファレスターに顔を近付けたからだ。
｢ほう……？　このように私と目が合う人物は占い師とわずかだと思っていたが……私が見えるのか｣
　蛇の女性の言葉に、ファレスターはさらに愕然とする。どういうことなのか……？
　ここで嘘をつく訳にもいかないだろうと、ファレスターがおずおずと頷くと、蛇の女性は高らかに笑い出した。
｢そうかそうか……それはなかなか興味深いな｣と蛇の女性は話を続ける。｢私は夢の魔女、イドーラ。従者を通して告げてやろうと思ったがな……お前に直接話してやってもいい｣
｢ファレスター、どうしたの？｣
　ファレスターが、レストとは別の方向を見ていることに気付いたようだった。ファレスターは正直に答える。
｢あの、ここに、イドーラさんがいて……｣
｢え、ファレスターも見える人？！｣
　ファレスターが全てを説明しなくても、レストはどういうことか分かるらしかった。ファレスターはおずおずと頷いた。
　その反応にレストは驚きながらも、すぐには真剣な顔を取り繕い、ファレスターにこう訊ねた。
｢夢の魔女は、何か言ってる……？｣
｢えっと……｣
　ファレスターはイドーラを見上げた。
　イドーラは不敵な笑みを浮かべ、ファレスターにこう告げた。
｢この世界の人形は、雨を力に変えて強くなる……ゆめゆめ雨の日は出掛けないことだ……｣
｢雨の日……？｣
　ファレスターは玄関へ視線を投げた。今もまだ、外は土砂降りである。
｢信じるか信じないかはお前次第……アハハハハハ……オーホッホッホッホッホッホッ！｣
　イドーラは、蛇がとぐろを巻くように大きく体を捻った。と直後、その姿はあっという間に消えてしまった。まるで空気の中に溶けたかのように……。
｢ファレスター……？｣
　不思議な現象に呆然とするファレスターの顔を、レストは心配そうに覗き込んだ。
　ファレスターは息を大きく吸い、イドーラの言葉をそのまま伝えた。
｢この世界の人形は、雨を力に変えて強くなるって……｣