何がなんだか分からないまま、ファレスターは大きく転んだ。
｢ファレスター！｣
　みんなの呼ぶ声を傍目で聞きながら、ファレスターはなんとか体を起こして息を飲んだ。
　こちらを見下ろす人形が、無言で刀を向けてきたのである。
　その距離、数センチ。
　声すら出せなくなったファレスターは、地面を握り締めながら、無情な人形の瞳を見上げた。人形には、当然ながら表情は見えないが、逆光で見据えてくるそれは、恐怖そのものだった。
　そして、人形は刀を振り下ろしてきた……！
｢走れ、光よ！｣
　横から飛ぶ声。
　これは誰の声だったか、とファレスターがゆっくりと考えている余裕もないまま、視界の端から強い風が大きな音を立ててこちらに向かってきた。
　そして、目の前に突如広がる眩い光。
　こちらに迫ってきていたのが風ではなく光だったのだとファレスターが気付く前には、目の前の人形は武器を落として倒れていた。ファレスターは顔を上げた。
　一番近くにいるキルアは目を大きく見開き、ゴンもフレイもレストも、開いた口が塞がらないといった顔をしていた。
　そこに、ガサリという足音が近付いて来た。
｢間に合ったようだな｣凛とした声が上から降り掛かる。｢事態は予知者たちから聞いた。屋敷へ急ごう｣
｢ライト！｣
　ファレスターを不思議な光の力で守ってくれた人物の名前を呼んだのは、フレイだった。
　ライト……ウォーリアさんだ、と思いながらファレスターは、青い鎧に身を包んだ銀髪の男性がそこに立っていることを目視した。
｢無事か｣
　ウォルは短く問い掛ける。その言葉の中からウォルの優しい気持ちが伝わってきて、ファレスターはどこか勇気を感じた。
｢は、はい……｣
｢手を｣
　ファレスターは促されるまま手を差し伸ばした。ウォルはその手を取り、ぐいっと引っ張ってくれる。ファレスターは立ち上がった。
　まるで、異国の騎士に会ったプリンセスのようだ、とファレスターがのんきに思っているところに、あの人形はわらわらと姿を現した。
｢行こう｣
　ウォルはクールながらも、不思議と人を導く力があるような気がした。みんながウォルのその一声に頷くばかりではなく、士気も上がるような。そんな心強さを、少なくともファレスターは感じ取っていた。
　切り開かれた道をファレスターたちは全速力で駆け、たった一分程の森を抜けると屋敷が見えてきた。
｢さぁ、早く早く！｣
｢あとは俺たちが片付けてやるヨ！｣
　屋敷の前庭には、マスターハンドとクレイジーハンドが待ち構えていた。ファレスターたちの後ろから迫る人形にはすでに気付いているようだ。
｢もう少しだ！｣
　というゴンの声と共に、ファレスターたちはなんとか、敷地内へと飛び込んだ……。