彼らが言っていた海辺は、屋敷を出てすぐの場所だった。
　森を抜けると、一面の白浜と海に圧倒されたファレスターが立ち尽くしていると、フットワークの軽いフレイが、ゴンと一緒に先へと走ってこちらに大きく手を振った。
｢早く早く、ファレスター！｣
　フレイのその明るさは、この世界に突然来て孤独を感じていたファレスターの心を、照らしているかのようだった。
｢ほら、キルアも早く！｣
　とフレイと並んで手を振るゴンに、キルアはため息をついた。
｢……ったく｣
　どうやら、フレイやゴンと違ってハメを外すタイプではなさそうなキルアが、ファレスターの横で困った顔をしつつ、わずかに笑ってから駆け出した。
｢あの崖のところまで競走しようぜ！｣
｢うん！｣
　後から走ったキルアからしたら、その競走は不利なのでは、とファレスターは思ったが、あっという間にゴンに追いついては追い抜かされ、二人はどこにでもいる子どもなんだな、とファレスターは思った。
｢賑やかで、楽しい人が多いよね｣
　と声を掛けてきたのはレストだった。
｢レストさん……｣
｢ううん。僕のことは、レストと呼んでいいよ。……多分、年が近いから｣
　そう微笑むレストはどこかフレイに似ていて、彼らは双子か何かなのだろうか、とファレスターは思った。
｢じゃあ、レスト｣
｢うん♪｣
　レストは嬉しそうににっこりと目を細めた。
｢レストは、フレイと兄妹か何かなんですか？｣
　ファレスターが早速質問をすると、レストは一旦目を伏せ、海へと視線を向けてから答えた。
｢分からないんだ。一緒に高いところから落ちた、ということ以外｣とレストは言った。｢どうして高いところにいたかも覚えていなくて。落ちた時に記憶喪失になったみたいで……とても大事なことをしようとしていたはずなんだけどね｣
｢そうなんですね……｣
　記憶がないということがどれ程つらいことなのだろう、とファレスターは想像してみたがさっぱり分からず、先を走るフレイたちを見やった。フレイはゴンとキルアの後を追いかけ、間もなく、奥の崖へと辿り着こうとしていた。
｢でも、悲しいと思うことはないよ。フレイと一緒だと落ち着くし、たくさん友達も出来たし｣
　とこちらを振り向くレストの笑顔は本当に優しくて、ファレスターもつられて笑顔になった。
｢とても素敵なことだと思います……！｣
　ファレスターは頷きながら、自分も彼らの友達になれたら、と密かに思った。記憶喪失のレストと、異世界に一人放り込まれた自分と、どこか境遇が似ている気がして。
　その時、前方が騒がしくなってファレスターたちは目を上げた。先程、崖下辺りにいたフレイたちがこちらへ引き返してくる。
　真っ先に叫んだのはフレイだった。
｢人形だよ！　ファレスター、逃げて！｣