｢おーい、ファレスター！｣
　名前を呼ばれて目を上げれば、ツインテールの少女が、こちらに向かって大きく手を振っているのが見えた。
｢フレイ！｣
　この世界に来て初日から、よくしてもらった彼女の姿だった。
　ファレスターが、朝食をこぼさないようにフレイの元に近付くと、近くには、レストと、黒髪のつんつん頭をした男の子が座っていた。そして、目付きの鋭い銀髪の男の子。
　ファレスターは、その銀髪の男の子からの視線を強く感じながらも、フレイのこっちこっち！　という声に促されて席につくと、傍らのレストが話し始めた。
｢おはよう、ファレスターさん。彼が、ゴンだよ｣
　とレストは、黒髪のつんつん頭の男の子を紹介した。
｢おはよう！　昨日はありがとう！｣
　紹介されたゴンは、明るく笑ってファレスターに挨拶をする。昨日、体がどんどん緑の羽根になっていく病気にかかっていたあの男の子だ、とファレスターは思い出していたが、今はその傾向は全くなく、元気そのものだった。
｢それでね！　こっちはキルアだよ！｣
　と次に話し出したのはフレイ。フレイは、銀髪の男の子を紹介してくれた。
｢おはようございます、ファレスターです｣
　ファレスターは出来るだけ明るく挨拶をしたが、キルアは冷ややかそうな目でこちらを見据えて口を開いた。
｢おはよう。ゴンを助けてくれてありがとな｣
　それからふわりと笑うキルア。キルアはそうして笑うと、よくいる男の子と同じだった。ただ目付きが鋭いだけなんだなとファレスターは思い、安心をした。
　ファレスターは、ここに救世主として来たことに、かなりの不安があった。救世主という存在を喜ぶ人と同時に、怪しむ人がいたことを、よく覚えていたからだ。
｢ねぇ、ファレスター！｣ファレスターの心境を知ってか知らずか、フレイが楽しそうに話し掛けてきた。｢今、みんなと話していたんだ！　近くの海に散歩に行こうって！｣
｢散歩……？｣
　ファレスターは首を傾げた。ここは今、人形に襲われる恐ろしい世界だと聞いたばかりだったファレスターにとって、大丈夫かなという気持ちの方が強かった。だが、同時に、周辺を見て回りたいという好奇心も少なからずあった。
｢あのね、ファレスター！　オレ、キルアと海を歩いていたら人形に襲われたんだ｣と話し始めたのはゴン。｢人形はどこかに逃げちゃったんだけど、まだ、近くにいるかもしれないんだ。だから、みんなで見に行こって話してたんだよ｣
｢お誘いありがとうございます。でも私……｣
　外に行こうと誘ってくれたことは、心から嬉しいことだった。けれども、とファレスターは口をつぐんだ。まだ直接見たことのない人形に対して、自分はどう動けるのかどうか……。
｢なら決まりだな｣と言ったのはキルアだった。｢何かあったら、ファレスターのことはオレが守る。それでいいだろ｣
　年のわりには冷静そうなキルアの表情は淡々としていたが、その言葉から、優しさが見えてファレスターはホッとした。
｢またまたー、そーんな孤独ぶっちゃって！｣
　そんなキルアに、フレイがそう言った。隣ではレストが頷き、ファレスターの方を向きながらこう言った。
｢ファレスターさんのことは僕たちが守るよ。ファレスターさんは、何かあったら、昨日みたいに僕たちを助けて欲しいんだ。……ここでは、別世界から来た人同士なんだし、協力しよう｣
　ファレスターは大きく首を縦に振った。