夜の出来事
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「イア、そんなものを振り回すのはやめなさい」
と言うや否や、エミリーは向けられたカッターに臆することなく、イアと呼ばれた少女に近付いた。
「エミリーさん……」
そんなに近付いては危ない、とファレスターは言おうとしたが、一方のイアは、カッターを向けるばかりで動きがない。
束の間には、エミリーはイアを包み込むように手を取って、そっと、カッターを取り上げた。
「大丈夫よ。怖くないわ」
そう声を掛けたエミリーの前で、イアは崩れるように膝をついた。
ここでようやく、エミリーはこちらを振り返った。
「ボーカロイドのIA(イア)よ。今日はたまたま、驚いただけだから安心して」とエミリーは紹介してくれた。「IA、あの子はファレスター。この世界の救世主よ」
救世主、と紹介されるのはまだ慣れなかったが、ファレスターがどうも、と会釈をすると、IAは何か言おうと口を開いて、しかしそれは声にならないままうつむいた。
「……また切ったのね」
とエミリーがIAの腕を軽く持ち上げた。今さっき暗がりでよく見えなかったが、IAのその腕は浅く切った小さな傷跡がついていて、ファレスターは息を飲んだ。
「誰も困らないでしょ」
とうとうIAが喋った一言。傷だらけの腕を隠すように手でさすった。
「とても、痛々しいですね……」
「やめてっ」
昼間の時のように、あの病気を治せるかもと腕を伸ばしかけたファレスターの手をIAは叩いた。
相手は女性である。いくら女性同士でも、いきなり触れるのは失礼だったな、とファレスターはとっさに謝った。
「ごめんなさい。いきなり触られたら誰だって嫌ですよね……」
IAはファレスターの言葉にふいっと顔を逸らしながら、わずかに首を振った気がした。それから、口を開いて、また声にならないまま、次にはファレスターをじっとみつめた。
「……聴いて」
「え……?」
IAの声は、まるでガラスを金属で小さく叩いたように透き通っている。どういうことか分からないままでいるファレスターの前で、IAはすくりと立ち上がった。
「……歌うから」
突然何を言い出すのか、とファレスターがエミリーへ視線を向けるが、肩をすくめて何も言わない。
もう一度IAを見やった時、IAは、どこから出したのか、一本のマイクを取り出していた。
IAは息を大きく吸い、歌い出したのである。
と言うや否や、エミリーは向けられたカッターに臆することなく、イアと呼ばれた少女に近付いた。
「エミリーさん……」
そんなに近付いては危ない、とファレスターは言おうとしたが、一方のイアは、カッターを向けるばかりで動きがない。
束の間には、エミリーはイアを包み込むように手を取って、そっと、カッターを取り上げた。
「大丈夫よ。怖くないわ」
そう声を掛けたエミリーの前で、イアは崩れるように膝をついた。
ここでようやく、エミリーはこちらを振り返った。
「ボーカロイドのIA(イア)よ。今日はたまたま、驚いただけだから安心して」とエミリーは紹介してくれた。「IA、あの子はファレスター。この世界の救世主よ」
救世主、と紹介されるのはまだ慣れなかったが、ファレスターがどうも、と会釈をすると、IAは何か言おうと口を開いて、しかしそれは声にならないままうつむいた。
「……また切ったのね」
とエミリーがIAの腕を軽く持ち上げた。今さっき暗がりでよく見えなかったが、IAのその腕は浅く切った小さな傷跡がついていて、ファレスターは息を飲んだ。
「誰も困らないでしょ」
とうとうIAが喋った一言。傷だらけの腕を隠すように手でさすった。
「とても、痛々しいですね……」
「やめてっ」
昼間の時のように、あの病気を治せるかもと腕を伸ばしかけたファレスターの手をIAは叩いた。
相手は女性である。いくら女性同士でも、いきなり触れるのは失礼だったな、とファレスターはとっさに謝った。
「ごめんなさい。いきなり触られたら誰だって嫌ですよね……」
IAはファレスターの言葉にふいっと顔を逸らしながら、わずかに首を振った気がした。それから、口を開いて、また声にならないまま、次にはファレスターをじっとみつめた。
「……聴いて」
「え……?」
IAの声は、まるでガラスを金属で小さく叩いたように透き通っている。どういうことか分からないままでいるファレスターの前で、IAはすくりと立ち上がった。
「……歌うから」
突然何を言い出すのか、とファレスターがエミリーへ視線を向けるが、肩をすくめて何も言わない。
もう一度IAを見やった時、IAは、どこから出したのか、一本のマイクを取り出していた。
IAは息を大きく吸い、歌い出したのである。