｢ううーん……｣
　喉が乾いて目を開けるファレスター。
　あれ、ここはどこだったかと一瞬考えてから、ファレスターは、ゴンの病気を治した後、いつの間にか眠ってしまったことを思い出した。
　辺りを見渡す。どうやら、今は夜らしい。うっすらと見える白いカーテンをめくると、スタンドランプが視界に入った。
｢あら、おはよう。……今は夜中だけどね｣
　スタンドランプの下で何か作業をしていたらしい看護師の女性が、こちらを見て言った。
｢あの、私……｣
　言いかけて、ファレスターははっとした。あの後、ゴンはどうなったのだろう、と見回すが、彼が横たわっていたベットはそこにはなく、まさか……という不安がファレスターの中をよぎった。
｢大丈夫よ。あの後すっかり元気になって、ご飯おかわり三杯したのよ｣
　それから自室に戻ったらしく、この医務室には、ファレスターと私しかいないわ、と看護師は言った。
｢よかった……｣とホッと胸を撫で下ろし、ファレスターは看護師におじぎをした。｢ありがとうございます、看護師さん｣
　すると、彼女はなぜかくすりと笑いながら、いいのよ、と言葉を続けた。
｢こんな格好してるけど、私も医師よ｣と彼女は言った。｢エミリー·ダイアー。みんなには、エミリー先生と呼ばれてるわ｣
｢エミリー先生……あ、私はファレスターです！｣
｢よく知ってる｣
　とエミリーは答え、机へと体を向き直す。……何か書き物をしているようだ。
｢あの……｣
　とファレスターはエミリーの手元を覗き見たが、よく分からない表に読めない文字が走っていて、手伝うことはなさそうだということが分かった。
｢緑の翼が生えた時の病状を細かく書いているのよ。……同じことがまた起きた時、冷静に対処出来るようにね｣とエミリーは説明してくれた。｢一人で部屋に戻れる？｣
　と聞かれて、ファレスターははっとした。この屋敷は迷路のようになっている。自室に戻れるかどうか、ファレスターは自信がなかった。
　そんなファレスターの心理に気付いたのか、エミリーはつとペンを置き、席を立った。
｢女子寮までなら案内するわ｣
｢でも……｣
　ファレスターはちらりと机の上の書類を見やった。まだ、書いている途中のように見える。
｢大丈夫よ。書類はいつでも書けるから｣とエミリーは言った。｢それより、救世主に何かあったら私の責任だわ。さ、行きましょ｣