｢おい、こっちだ、晶｣
　慌てたように食堂に駆けつけてきた内の一人は、ファレスターも見覚えのある人物だった。
｢キドさん……？｣
　今朝、部屋まで迎えに来てくれた彼女である。ファレスターは、どうしてそんな顔しているのだろうと、キドの傍らにいる男性を見上げた。
｢良かった。救世主さんが、オーエンに嫌なことを言われているのかと思って｣
　と言った彼は、ファレスターからオーエンへと目を移した。オーエンは、鼻についたクリームに気付くこともなく、ホイップクリームを口にしている。
｢オーエンさんは、ドンキーコングさんとディディーコングさんの通訳をしてくれたんです｣
　彼が何者か分からないままファレスターが説明すると、彼は安心したようにそうなんですね、と頷いた。
｢あ、俺は、真木晶といいます｣と男性は名乗りながら、オーエンを見やった。｢オーエンは、動物の言葉が分かるんです。便利ですよね｣
｢本当に、さっきは助かりました｣
　とファレスターは言いながら、ドンキーコングとディディーコングの言葉が分かったのも、魔法の力なのだろうか、と考えた。
｢しかし、あのオーエンを黙らせるとはさすが救世主だな｣と切り出しのはキドだ。｢まさか、ホイップクリームで大人しくなるとは｣
｢うるさい。今から君をぐちゃぐちゃにしてもいいんだけど？｣
　キドの言葉に苛立ちを見せるオーエンだったが、ホイップクリームを口に運ぶ手は止まらない。
　こうして見ると、オーエンは映画に登場するメインの俳優かのように美しく、それでいてどこか幼い顔をしているな、とファレスターは素直に見取れた。
｢何｣
　オーエンがファレスターの視線に気が付いてこちらを向く。
｢オーエンさんって、きれいな顔をしてますよね｣
　とファレスターが言うと、オーエンは不意を突かれたように目をわずかに見開き、それからにやりと笑った。
｢へぇ……賢者さんと同じこと言うんだ｣
｢賢者……？｣
　なんのことか分からないとファレスターが首を傾げると、晶が割り込んできた。
｢俺が、賢者なんです｣
　ぎこちない名乗り方をした晶は、黒い髪をさすりながら、にへらと笑った。
　そこに、キドがこう付け加えた。
｢晶は、魔法使いの世界から来た日本人らしくてな。この世界に来て二回も異世界に飛んできた人間なんだ｣
｢あ｣その説明を聞いて、ファレスターはあることを思い出していた。｢もしかして、昨日、スノウさんとホワイトさんが言ってた……？｣
｢あ、二人に会ったんですね｣
　晶は優しく笑みを浮かべた。ファレスターは頷く。
｢晶さんは、人を導く賢者の仕事をしていると聞きました。私にも……その、救世主として、何をしたらいいか教えて欲しいんです｣