｢あれ、見かけない人……もしかして、新しい住人？｣
　赤髪の男性は、すぐにファレスターの存在に気が付いた。
｢あ、えっと、今日からここで暮らすことになったファレスターです……！｣
　ファレスターは赤髪の男性に丁寧に挨拶をした。
　赤髪の男性は、にこりとはにかんだ。
｢俺は、クロエ。西の国の魔法使いだよ。よろしくね、ファレスターさん｣
｢よろしくお願いします……！｣
　ファレスターはぺこりと頭を下げながら、この屋敷にいる人たちはみんな魔法使いなんだろうか、と考えた。
｢クロエ、新作はとりあえずそこに置いてちょうだい｣
　クロエに、おしゃれコウベが近付きながらレジのあるテーブルを指した。クロエは、分かった、と答えながら抱えていた新作らしい服を置く。
　ファレスターはその新作をちらっと見ただけだったが、その服はキラキラと輝いているかのように美しく、おしゃれなものだった。
｢本当、クロエ様の仕立てるお洋服は素敵ですわ｣
｢うんうん、私もそう思う！｣
　とピーチとフレイがクロエを褒め始めると、クロエは照れたように笑った。
｢エヘヘ、そうかな？　そう思ってくれて、俺、嬉しいよ｣
　と答えるクロエは、どう見ても心地のいい好青年だった。
　ファレスターはそんなクロエを見、それから、周りに並んでいる服を見回した。……これら全て、彼が作ったものなのだろうか。服はどれも細やかで美しく、控えめなものでさえ、一つ一つが誇らしげに並んでいるかのようだった。
　そんなファレスターの様子に、おしゃれコウベは気付いたのだろうか、思いついたわ、と一人呟いてこう切り出した。
｢クロエ、ファレスターの服を仕立ててもらえるかしら｣
｢えっ｣
　思わぬ発言に誰よりも驚いたのはファレスターだった。おしゃれコウベはどうして、本人の許可もなく話を進めてしまうのだろう。
｢そんな……私は、既製品でいいですから……｣
　とファレスターは手を前に振ったが、周りの人たちは違った。
｢それは素敵なアイデアですわ！　クロエ様に仕立てて頂きましょ！｣
｢クロエの服、すっごくおしゃれなんだよー！｣
　とピーチとフレイは言うのだ。
　こんな知り合ったばかりの人の服を仕立てるなんてクロエが迷惑がるんじゃないだろうか、とファレスターが不安げに目を上げると、そこには明るい顔があった。
｢いいね、オシャレコウベさん！　あ、ファレスターさんが良ければだけど……お近付きの印に、俺にファレスターさんの服を仕立ててもいいかな？｣
　低姿勢で嬉しそうに笑うクロエの問い掛けは、それはとても魅惑的な言葉だった。
　ファレスターはためらった。
　だが、彼の仕立てた服は本当に魅力的だった。
｢あの……お金の代わりにいっぱい働きますので……｣
｢そんな、お金なんていいのに！｣クロエは快活に笑った。｢どんな服がいいか教えてくれるかな？　明日までには仕立てるから！｣
　その後、ファレスターはクロエに服のデザインを話し合いながら楽しいひとときを過ごした。