｢う、うーん……｣
　気づいたら、ファレスターはどこかのベットで横になっていた。
｢気づいたか？｣
　と聞きながら、ひょこっと顔を覗かせたのは小さな体のチョッパー。
　そこでようやくファレスターは、自分は船の中の医務室にいるのだと気がついた。
｢あの、怪物は……？｣
　ファレスターは気を失っていたらしい。怪物に襲われそうになった直前しか記憶がなかった。
｢クー・ド・バーストで、怪物から逃げたんだ｣とチョッパーは話す。｢痛いところとか、苦しくなったりしてないか？｣
｢私は、大丈夫だけど……｣
　ファレスターは、船の上で戦っていたみんなのことが心配になった。
｢みんな無事だ！　ファレスターのおかげだぞ！｣
｢え、私の……？｣
　聞いたところ、あのタコのようなイカのような怪物は、クリスタルの光を嫌がったらしい。その一瞬出来た隙にルフィたちが反撃をし、そして、船が飛び上がって一キロメートル先の海に着水したのだと。
｢でも、クリスタルはもらったもので……｣
　その時、トントンとノック音がした。いいぞ、とチョッパーが返事をして入って来たのは、ナミだった。
｢そろそろ屋敷に着くけどファレスターちゃんは……ってあ、目が覚めたのね！｣
｢ナミさん……！｣
｢本当、お手柄だったわ〜、あの時はありがと！｣とナミはファレスターの前で手を合わせた。｢色々聞きたいことはあるけれど、それは、屋敷に帰ったらでいいわよね？｣
｢はい……｣
　だけど、あの時自分が何したのか覚えていないんだよなぁ、とファレスターが思い出そうとしてはっとした。
｢え……屋敷って？｣
　状況についてこられないファレスターは、チョッパーに肩で支えながら甲板へと出ると、海を隔てた向こうに、塔のように大きなあの屋敷が見えていた。
｢それで、さっきのあの海の怪物はなんだったんだよ？｣
〈それはオレも分からないんだぞ……〉
　そして、甲板ではウソップがフィーに問い詰めている様子もあった。
｢そんなこと言ってもよ、怪物が出てきた時、お前どこにいたんだよ？｣
〈体が濡れて思うように動かなかったんだぞ……〉
　そういえば、あの船上での戦いに、フィーの姿がなかった。よく見ると、フィーの体はずぶ濡れだった。
｢フィー、大丈夫……？｣
　ファレスターが声を掛けると、フィーだけでなく、その場にいたみんながこちらへ視線を向けた。フィーは表情の変わらない顔を傾けて、オレは大丈夫だぞ、といつもの声音で答えた。
｢その人形、屋敷に連れ帰て大丈夫ね？｣
　気配を消したかのように、ファレスターのそばの壁にいたフェイタンが呟いた。
｢まぁ確かに、フィーがあの怪物を呼び寄せたって考えはあるけど……｣
　とナミも言ってきたので、ファレスターは不安になったが、船首から飛び出して来たルフィが、すかさずこう言った。
｢フィーも一緒に連れてくぞ！｣
　それは、やっぱり太陽のような笑顔だった。