｢下がてるね｣
｢きゃあ？！｣
　フェイタンはファレスターを押し倒した。
　とほぼ同時に、今さっきまで穏やかだった海が荒れ始め、船が大きく傾いた。
｢ファレスター、大丈夫か？！｣
　船首にいたルフィが腕を伸ばしてあっという間に隣に来てファレスターに問い掛けた。
｢わ、私は大丈夫だけど……｣
　船は何度も揺れ、ファレスターは壁にしがみつくので精一杯だった。水飛沫が顔や腕に掛かるのをファレスターはよく感じた。
｢グゥオオオオオオ……！！｣
　そして海から轟いたのは、風のような咆哮。
　気づけば船にいたほぼ全員が船の後ろに大集合しており、ファレスターはなんとかその声の主を探した──。
｢何あれ……｣
　ファレスターは言葉を失った。あんなもの、映画や漫画でしか見たことがない……。
｢あれは巨大なタコね｣
　なんてロビンが落ち着いた様子で言いながら、手元でスケッチをし始めた。
｢いいや、イカだろ｣
　と口を挟んできたのはゾロだ。すでにゾロは、腰の剣を引き抜いて身構えている。
｢タコのカルパッチョでもいいな｣
　隣ではサンジが悠長にタバコを吸いながらそう呟く。いやいや、こんなに揺れて水飛沫がすごいというのに、なんでタバコに火が点くのだ。
｢舵はブルックが操作してくれてるぞ！｣
　とチョッパーは言い、その小さな体をどうやったのか一気に大きくさせて戦闘態勢だ。
｢フランキーは？｣
｢フランキーは、念のためにクー・ド・バーストの準備をしに行ったぞ！｣
　ルフィの問いに、大きなパチンコを構えているウソップが何かを答えた。ファレスターにはよく分からなかったが、戦闘のために必要なことなのだろうと思われた。
｢ルフィ、あいつを早くなんとかして！｣
｢分かってる！｣
　ナミの悲鳴に、ルフィが強い言葉で返した。それは突然の襲来やナミに対して怒っているというよりは、大丈夫と言い聞かせてくれるような、自信のある言い方だった。
｢わ、私は……｣
　ファレスターはすでに床に這いつくばりながら、せめてみんなの邪魔にならないようにとどこかへ移動しようとした。船が揺れる中、上も下も分からなくなるところでみんなが戦った。ファレスターはなんとか目を上げた。
｢あ、危ない！｣
　ファレスターは叫んだ。
　海で大暴れする大きな怪物の触手が、ルフィたちを襲おうとしたのだ。
　その時だった。
　ファレスターのウエストポーチが急に強く光り始めたのである。
｢ファレスター、どうした？！｣
　とルフィが問いかけてくる声がし、ファレスターが慌ててウエストポーチから手を突っ込むと、クリスタルが光り輝いていることが分かった。
｢クリスタルが……！｣
　しかし、驚いている間もなく、怪物の標的はファレスターへと変わった。避けろ、という声は聞こえたのだが、腰を抜かしてしまってファレスターは船にへばりつくことしか出来なかった。
｢へい、嬢ちゃん、こっちにカモン！｣
｢えっ｣
　その瞬間、目にも止まらない早さで何かがファレスターを抱えた。それがソニックだったと気づいた次には、フランキーの声が飛んだ。
｢クー・ド・バーストの準備が出来たぞ！｣
　それがどこから聞こえてくるのか、ファレスターにはもう分からなかった。だが、ルフィがこう叫んでいたのだけは聞こえた……。
｢ゴムゴムのォ……ジェットガトリング！｣