はじまり
ある日、ユリは法正にこっそりと呼び出される。
ユリ「法正様」
法正「来たか。明日の巳の刻、劉備の元へ行く。」
ユリ「りゅ、劉備?」
ユリはその名前が三国史の登場人物であり、仙人の左慈からも聞いていた。
ユリ「劉備殿に会って同盟を持ち掛けるんでしたっけ?」
法正「表向きはな。」
ユリ「?」
法正「俺は劉璋殿を見限る事にした。」
ユリ「!」
法正「お前はどうする?」
ユリ「聞くまでもありません。私は法正様の部下です。どんな事でも付いて行くと決めてます。」
法正は内心ホッとする
法正「ならあんたにも手伝ってもらうとしよう」
ユリ「何なりと」
法正「劉璋は劉備と同盟を結びたがっている。俺はその使者としてこれから劉備に会う。劉備を説得し、劉璋の代わりに劉備に益州を奪い取ってもらう。」
ユリ「益州を救う為‥ですよね?でも、劉備殿と劉璋様は同族じゃなかったでしたっけ?上手く行くでしょうか?」
法正「確かに、劉備にとって同族を討つのは義に反する行為、だが、失敗すればこの益州は終わりだ。何としてでも劉備を説得するぞ」
ユリ「分かりました。私もお手伝い致します。」
劉備「其方が益州の使者だな」
法正は劉備に拱手礼をする。
法正「劉備殿、お待ちしておりました」
そして、後から龐統と諸葛孔明が現れ、会談が始まった。
ユリは遠くからただジッと見守っていた。
しばらくして、話が纏まったようで、法正がこちらに向かって来た。
法正「これより劉備殿を益州の主人にする為、劉璋を打ちに行く」
ユリ「!」
法正「そこでお前達は劉備殿が城へ近づいて来たら中から奇襲をかけ、城門を開けろ」
ユリ「承知しました」
ユリは城へ戻ろうとした時
龐統「あっしはできれば平地を行かせて欲しいんだがね〜。」
ユリ「‥‥‥」
龐統「荊州で馬が潰れちまって、あっしの足で山道を行くのはちょいとしんどいんだよ」
劉備「ならば私のテキを貸してやろう。長年戦場を駆け回った馬だ。そう容易く怯むまい。」
龐統「うーん‥」
劉備「龐統、ここはお前に行って欲しいのだ」
龐統「‥そうかい?ならばお言葉に甘えるとしようかねぇ。お前さんの馬をちょいと借りて行くよ?」
劉備「ああ」
法正「話しは済みましたか?さっさと行きましょう。敵に勘づかれる前に」
ユリ「‥‥」
ユリは急ぎ城へ戻り、兵の宿舎に居る友人の李王(リュオ)と泖紀(リュウキ)をこっそり呼び出した。
ユリ「お前達に内密に頼みがある」
リュオ「なんだよ」
ユリ「これで山道に居る兵たちを眠らせて欲しい」
ユリはお盆に大量の握り飯を用意し、さらに保険としてキョウチクトウを用意していた。
リュオ「それわざわざ内密にする事か?普通に差し入れすりゃあ良いんだろ?」
リュウキ「だよな。任せろ」
2人は大量の握り飯を嬉しそうに手を伸ばす。
ユリ「おっと、お前ら絶対摘み食いするなよ?」
リュオ「分かってるってば、分かったから早く寄越せって!」
ユリは少し心配になりつつも、握り飯の盆を2人に渡した。
しかし、リュオばユリの言葉をしっかり聞いて居なかったのか、握り飯を1つずつ盗み懐に隠して、山道の見張りの兵へ差し入れをしに行った。
そして見つからない場所で内乱に参加する事はなく、呑気に盗んだ握り飯を食べ始めた。
そして山道の兵達も何人かは眠ったものの、さすがに全員を眠らせる事はできなかった。
ユリは法正の指示通り劉璋の兵達を倒しながら、門を開け劉備軍を中に入れる事に成功した。
法正「よくやった。このまま劉璋をたたくぞ」
しかし、ユリは他の兵と会話していた。
法正「?」
法正はユリの返事が無く振り向く
ユリ「リュオのやつ食うなって言ったのに食ったのか!?」
兵「はい。」
ユリ「山道の兵達の様子は?」
兵「半分ぐらいは起きてる様子です」
ユリ「ちょっとまずいかな‥」
法正「何を喋ってる?」
ユリ「法正様、山道の龐統さんが弓兵の餌食になってないか心配で‥」
劉備「何⁉︎ならば急いで助けてやらねば!」
法正「今は劉璋を叩く事が最優先ですよ」
ユリ「法正様の言う通りです。私はあちら側から攻めながら兵を引き付けます。そのついでに山道を守る兵達の方へ向かいます。法正様、良いでしょうか?」
法正はうなずく
ユリ「では行きますね」
ユリは兵を引き付け、劉備軍の負担を削りながら進む。
劉璋軍の中では法正以外にユリに敵う相手はいない為、余裕で突破していく。
そして山道の守備に徹している兵は、龐統を劉備と勘違い攻撃を仕掛けようとしていた。
放たれた弓が龐統へと向かう。
龐統は必死に交わす。
龐統が弓兵にやられるのは時間の問題だった。
ユリは急いで弓兵達に攻撃を開始した。
弓兵「うわー!な、何をする⁉︎」
龐統「?」
ユリ「劉璋の兵達、これ以上攻撃するば命はないぞ」
弓兵「お、お前まさか劉璋様を裏切ったのか⁉︎」
ユリ「劉璋に従っていてもこの益州は守れない。益州の民も劉備様を望んでいる。」
弓兵「‥‥」
ユリ「裏切りを悪と捉えるのは結構。お前達は私に負けここで死ぬか、それとも生き延びたいなら劉備軍へ寝返るか2つに1つだ。どうする?」
龐統「‥‥ふーんあの法正の部下の子、中々やるもんだねぇ」
ユリ「!」
龐統「この子の言う通りだよ。今頃、劉璋は劉備軍に捕らえられたはずだ。お前さん達だって益州の為を思うなら、劉備軍に加わる事を薦めるねぇ」
弓兵「わ、分かった。俺は劉備軍に下る。確かに劉璋に従ったって徳はねぇからな」
弓兵は次々と寝返った。
そして劉備と法正は見事、劉璋を降伏させる事に成功していた。
劉備「おおっ!龐統!無事であったか!」
龐統「まさかあんたに間違われて攻撃を受けるなんてね。でもあの子のお陰で命拾いしたよ」
ユリは後ろから弓兵達を連れて、劉備と法正の前に現れた。
法正と劉備の前で拱手礼をすると
ユリ「劉備様、山道の弓部隊を説得しました。彼らも劉備軍の一員として加えて頂けないでしょうか?戦の経験は少ないですが、腕は確かです。」
法正「なかなかやりますねぇ」
法正は少し嬉しそうに微笑む
劉備「勿論だ。皆、これからもよろしく頼む!」
弓兵は全員、劉備に拱手礼で応えた。
一方のリュオ達
リュオ•リュウキ「zzz‥」
ユリ「法正様、こいつらどうしましょう?」
法正「放っとけ」
ユリと法正は呆れて立ち去るのだった。
ユリと法正が共に歩く
法正「あなたの行動にはいつも驚かされるな。いつの間に策を?」
ユリ「偶々、聞いてたんです。龐統様が劉備様の馬を借りて山道を行くって。咄嗟に用意した握り飯50個が限界でしたけど」
法正「あの草はキョウチクトウだな」
ユリ「はい、使わずに済んで良かったです」
法正「俺なら握り飯なんかよりキョウチクトウを使うがな」
ユリ「あはは、法正様らしいですね」
法正「ま、使える駒が増える事は良い事だ。大義だったな。」
ユリ「ありがとうございます」