柳
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期末テスト2週間前。私は顧問から恐ろしい宣告を受けていた。
「なるほど。次に赤点を取ると部活参加は叶わないと。」
「そうなの!柳くんも部活で忙しいのは知ってるんだけど、どうかお願い···!」
私が頼み込んでいる相手は同じクラスの柳蓮二くん。彼は私の通う立海大付属中の強豪テニス部のレギュラーでありながら成績優秀という文武両道の男の子である。
黙り込む柳くんをきつく閉じた目を開けてちらりと盗み見る。
「だ、だめかな···。」
「いや、構わない。放課後は無理だがそれ以外なら時間をとろう。」
「ほんと!?良かった、ありがとう···!あ、でもね数学だけなの。だから今週か来週の土日どっちか付き合って欲しい!」
そう言えば柳くんは頷く。
「それなら来週はどうだ。テストにも近い上に俺も部活は休みになる。」
「ありがとう···!土日どっちがいいかな?」
「どちらでも構わないが···。では日曜にしよう。急用が入る可能性が1番低い。」
その言葉に私は大きく頷き、メモに書き込む。
「来週の日曜ね···。あ、図書館でいい?時間どうしよう?」
そう言うと柳くんは一瞬考え込む仕草をするとすぐに答えた。
「そうだな。では午後からでどうだ。」
「大丈夫!13時くらいでいいかな?」
そう言えば柳くんは構わない、と一言答える。そんな柳くんに私は胸を撫で下ろす。
「良かったー···。柳くんありがとう。それじゃあ来週、よろしくね。」
「ああ。」
そう答える柳くんにもう一度お礼を言うと私は授業の用意をするために机へ戻る。赤点が逃れられそうな未来に私は安堵した。
そして1週間後の日曜日。
今日は柳くんに勉強を教わる日である。
集合5分前に図書館へ向かえば彼は近くの木陰で小説を読みながら待っていた。
そこで私は、声をかけるのを一瞬戸惑う。
今日は休日なのだから当然だが、柳くんは私服だった。白いシャツの上に暗緑色の薄手のカーディガン。黒いスキニーは彼の高身長ゆえの長い足を際立たせていた。
つまり、かっこよかったのである。
制服しか見た事がなかったからか何だかめちゃくちゃかっこいい。
というかテニス部レギュラーはイケメンしかいないとか友達が言ってたような···。
あれこれ考えていると柳くんは顔を上げた。私に気づいたようだった。
そんな柳くんに声もかけられていないのにドキリとする。
「あ、えと、お待たせ···。」
「それほど待っていない。というよりまだ時間ではないだろう。」
私が話しかければ柳くんは小説を閉じて肩に掛けていたトートバッグへとしまう。そしてその流れで腕時計を確認する。
「5分前か。俺も来たばかりだ。さて、図書館だが···」
柳くんはちらりと図書館を見るとすぐにこちらに向き直る。
「着いてすぐに学習室を見たがやはり席は空いていなかった。」
「えっ!本当?···ど、どうしよう···。」
「そこで、だ。俺の家でやらないか。」
突然の柳くんからの提案に私は驚く。
「え、柳くんのお家!?」
「ああ。ここから近い。」
「え、いやそうじゃなくて···。」
「不満か。」
「ふ、不満でもなくて···。」
しどろもどろになる私に柳くんはふっと微笑む。
「俺を、意識しているのか。」
そして突然の言葉に私は両手で持っていたバッグを落とした。
「な、何言って···」
「フッ、冗談だ。だが不満がないのなら俺の家で構わないだろうか。」
バッグを拾いながらからかうように笑ってそう言う柳くんからありがとう、と受け取る。そしてそのまま私は拗ねたように続けた。
「からかわないでよ、もう···。でも、柳くんがいいなら柳くんの家に行くよ。」
そう答えると柳くんは短く返事をして歩き出す。
「家族も今日はいない。変に気負う必要はないぞ。」
そんな柳くんの言葉に私は一瞬ドキッとする。
だってこんな会話恋人同士みたいだ。
「どうした□□。顔が赤いが。」
いつの間にか立ち止まっていた柳くんに顔を覗かれ私は驚き肩を跳ねさせる。
「えっ!?だ、大丈夫···。···赤いかな···?」
「ああ。まるで誰かを懸想するようだな。」
「け、けそうって···」
「異性を想うという意味だ。」
そう答えた柳くんに私は更に顔を赤くする。
「□□は面白い反応をするな。いいデータが取れた。」
そう言うと柳くんはまた前を向いて歩き出す。またからかわれたことにむっとしながらも、彼の後をついて行く。しかし直ぐに柳くんが歩幅を縮めて私に合わせてくれるので、柳くんとの距離が空くことはない。
そんな柳くんと私は何も言わずただ歩くだけとなり、そんな時にふと思ったことを口に出す。
「柳くんがからかうようなことする人だとあんまり思わなかったなあ。」
「ほう、では□□の想像していた俺はなんとも固い男のようだな。」
「やだな。悪い意味じゃないよ。」
そう言えば柳くんは分かっている、と微笑みながら答える。
「なに、よく言うだろう。気になる子ほどからかいたくなると。」
そしてまた柳くんは私に対して爆弾を落とす。あまりの衝撃に私はまた顔を真っ赤にしてバッグを落とした。
「どうした。このバッグは持ち慣れないのか?こんなにも落とすなど···」
「や、柳くんは···私のこと、好きなの···?」
私からの問いに、柳くんはバッグを拾うと私の手を握って言った。
「やはり□□には言葉にした方が伝わるようだな。」
突然の展開に私は戸惑う。どうしてあまり話したこともない私を?それよりも···。
「あ、あの、ここ街中だし、場所変えませんか···?」
柳くんを直視出来ず視線を逸らしそう答えた私の手を柳くんは引いた。
「構わない。と言うよりも俺たちは今まさに絶好の場へと向かっている途中だ。」
そう言う柳くんはどことなく嬉しそうに歩き出す。
もう私は勉強のことはすっかり抜けて、柳くんのことだけを考えてしまっていた。
それから直ぐに柳くんの家に着いた。
というよりも私の頭が混乱していて本当に直ぐだったかは定かでないけど。
「お、お邪魔します…。」
柳くんは扉を開けて私を先に招き入れる。それに甘えて家に入るとせっけんのような爽やかな香りが鼻腔をくすぐる。
「柳くんのお家、いい香りがするね。」
「ああ。母の趣味だな。」
「そうなんだ。でも柳くんもいつもいい香りするよね。」
靴を脱ぎながらそう言うとふと後ろからの物音が止む。
「柳くん?」
不思議に思って振り向こうとすると、柳くんは私を制止するように口を開く。
「待て。向くな。先に上がってくれ。」
「え?ああ…うん…。」
柳くんの行動を再び不思議に思いながらも言われた通り来客用に用意されたスリッパを履く。
「さっきは悪かった。部屋へ案内しよう。」
柳くんはそう言うと階段を上がり始める。少し足早な柳くんを追うように私も着いて行く。
「ここが俺の部屋だ。好きにかけてくれ。…飲み物を持ってくるが、お茶でいいか?」
「うん、大丈夫。」
部屋の扉を開けると柳くんは私に入るよう促す。そして私の答えを聞くと柳くんはすぐに扉を閉め、下へ降りていった。
それからすぐに私は部屋に用意されていた座椅子に腰かけた。だけど何だか暇で柳くんの部屋を見回す。本当はあまりしない方が良いのだろうと思いながらも興味が出てしまった。
柳くんの部屋は想像通りで、とても整頓されていた。そしてまた、玄関のように爽やかな香りが微かに香る。自分の部屋とは違う香りに何故か緊張してしまう。
そわそわしながら待っていると扉が開く。
「遅くなった。……散らかってはいないと思うが…。」
見回していた私に対して、柳くんは口角をあげながらそう言った。
「ご、ごめん!男の子の部屋って初めて入ったから…興味が出ちゃって…。」
そう言うと柳くんは私の前にコップを置き、向かいの座椅子へ座る。
「そうか。だが俺の部屋は男子の部屋の基準にはならないだろう。物が少ないからな。」
そう言って微笑む柳くんにそんなことはないよ、と答える。
「さて、世間話はここまでにしよう。勉強を始めるか。」
「そうだね。」
柳くんの言葉に私は下ろしたバッグから数学のワークを取り出す。
「課題は62ページまでだったな。」
「うん。でもこの59ページの応用が分からなくて…」
そう言った私の言葉に柳くんは向かいから乗り出す。
そんな柳くんにつられて顔を上げる。
だけど思ったよりも柳くんが近くて、驚きから体を引こうとするとワークの上に置いた手に触れられ、体が跳ねる。
そんな私の反応にフッと微笑むと、少し目を開けた。
「□□は忘れたのか?俺はお前に告白紛いのことを言ったんだぞ。」
「え、あ…。」
「顔が真っ赤だな。意識しているのが分かる。」
柳くんはあっけらかんとしてそんなことを言う。対して私は自分の顔が熱くなっているのが分かった。
「□□は無防備だな。こんなにも簡単に自分に好意を寄せている男の家に上がってしまう。」
そう言うと柳くんは私の手を上から握る。柳くんの手はなんだか暖かい。
「俺が仕組んだとはいえ、こんな簡単に流されるとは…。誰にでもそうなのか?」
柳くんはようやく目を伏せた。誰かが言っていた、柳くんは目を開け続けるのは辛いらしいと。
そんな事を考えていると柳くんは私から手を離す。暖かい手が引いたことで空気に触れ、少しひんやりとする。
無言の柳くんに私は決心して口を開く。
「柳くん。……あのさ、柳くんはテニス部の参謀なんでしょ?だから各選手のデータを取ってる。」
私の突然の言葉に柳くんは驚いた顔をした。
「私ね、柳くんほどじゃないけど、柳くんのデータ取ってるんだよ。」
「…待て。それは…」
「ねえ柳くん。私、勉強教わるのにあまり話したことない男子に頼まないよ。家にも上がらない。」
私の言わんとしていることが分かったのか柳くんは少し頬を染めた。
「一か八かだったの、声をかけたのは。まさか柳くんが私を好きだなんて知らなかったから、ここまで翻弄されるなんて思わなかったけど…。」
息を吸い、私が意を決して再び話そうとすれば柳くんは私の口元を手で覆った。
眉を少し下げ、困ったように微笑んだ柳くんは口を開く。
「……□□。まさかお前が俺の計算を狂わせてくるとは思わなかった。だが、これだけは俺から言わせてくれ。」
柳くんは私の口元から手を離す。
「□□が好きだ。…付き合ってくれないか。」
そう言った柳くんに私は大きく頷いた。
「なるほど。次に赤点を取ると部活参加は叶わないと。」
「そうなの!柳くんも部活で忙しいのは知ってるんだけど、どうかお願い···!」
私が頼み込んでいる相手は同じクラスの柳蓮二くん。彼は私の通う立海大付属中の強豪テニス部のレギュラーでありながら成績優秀という文武両道の男の子である。
黙り込む柳くんをきつく閉じた目を開けてちらりと盗み見る。
「だ、だめかな···。」
「いや、構わない。放課後は無理だがそれ以外なら時間をとろう。」
「ほんと!?良かった、ありがとう···!あ、でもね数学だけなの。だから今週か来週の土日どっちか付き合って欲しい!」
そう言えば柳くんは頷く。
「それなら来週はどうだ。テストにも近い上に俺も部活は休みになる。」
「ありがとう···!土日どっちがいいかな?」
「どちらでも構わないが···。では日曜にしよう。急用が入る可能性が1番低い。」
その言葉に私は大きく頷き、メモに書き込む。
「来週の日曜ね···。あ、図書館でいい?時間どうしよう?」
そう言うと柳くんは一瞬考え込む仕草をするとすぐに答えた。
「そうだな。では午後からでどうだ。」
「大丈夫!13時くらいでいいかな?」
そう言えば柳くんは構わない、と一言答える。そんな柳くんに私は胸を撫で下ろす。
「良かったー···。柳くんありがとう。それじゃあ来週、よろしくね。」
「ああ。」
そう答える柳くんにもう一度お礼を言うと私は授業の用意をするために机へ戻る。赤点が逃れられそうな未来に私は安堵した。
そして1週間後の日曜日。
今日は柳くんに勉強を教わる日である。
集合5分前に図書館へ向かえば彼は近くの木陰で小説を読みながら待っていた。
そこで私は、声をかけるのを一瞬戸惑う。
今日は休日なのだから当然だが、柳くんは私服だった。白いシャツの上に暗緑色の薄手のカーディガン。黒いスキニーは彼の高身長ゆえの長い足を際立たせていた。
つまり、かっこよかったのである。
制服しか見た事がなかったからか何だかめちゃくちゃかっこいい。
というかテニス部レギュラーはイケメンしかいないとか友達が言ってたような···。
あれこれ考えていると柳くんは顔を上げた。私に気づいたようだった。
そんな柳くんに声もかけられていないのにドキリとする。
「あ、えと、お待たせ···。」
「それほど待っていない。というよりまだ時間ではないだろう。」
私が話しかければ柳くんは小説を閉じて肩に掛けていたトートバッグへとしまう。そしてその流れで腕時計を確認する。
「5分前か。俺も来たばかりだ。さて、図書館だが···」
柳くんはちらりと図書館を見るとすぐにこちらに向き直る。
「着いてすぐに学習室を見たがやはり席は空いていなかった。」
「えっ!本当?···ど、どうしよう···。」
「そこで、だ。俺の家でやらないか。」
突然の柳くんからの提案に私は驚く。
「え、柳くんのお家!?」
「ああ。ここから近い。」
「え、いやそうじゃなくて···。」
「不満か。」
「ふ、不満でもなくて···。」
しどろもどろになる私に柳くんはふっと微笑む。
「俺を、意識しているのか。」
そして突然の言葉に私は両手で持っていたバッグを落とした。
「な、何言って···」
「フッ、冗談だ。だが不満がないのなら俺の家で構わないだろうか。」
バッグを拾いながらからかうように笑ってそう言う柳くんからありがとう、と受け取る。そしてそのまま私は拗ねたように続けた。
「からかわないでよ、もう···。でも、柳くんがいいなら柳くんの家に行くよ。」
そう答えると柳くんは短く返事をして歩き出す。
「家族も今日はいない。変に気負う必要はないぞ。」
そんな柳くんの言葉に私は一瞬ドキッとする。
だってこんな会話恋人同士みたいだ。
「どうした□□。顔が赤いが。」
いつの間にか立ち止まっていた柳くんに顔を覗かれ私は驚き肩を跳ねさせる。
「えっ!?だ、大丈夫···。···赤いかな···?」
「ああ。まるで誰かを懸想するようだな。」
「け、けそうって···」
「異性を想うという意味だ。」
そう答えた柳くんに私は更に顔を赤くする。
「□□は面白い反応をするな。いいデータが取れた。」
そう言うと柳くんはまた前を向いて歩き出す。またからかわれたことにむっとしながらも、彼の後をついて行く。しかし直ぐに柳くんが歩幅を縮めて私に合わせてくれるので、柳くんとの距離が空くことはない。
そんな柳くんと私は何も言わずただ歩くだけとなり、そんな時にふと思ったことを口に出す。
「柳くんがからかうようなことする人だとあんまり思わなかったなあ。」
「ほう、では□□の想像していた俺はなんとも固い男のようだな。」
「やだな。悪い意味じゃないよ。」
そう言えば柳くんは分かっている、と微笑みながら答える。
「なに、よく言うだろう。気になる子ほどからかいたくなると。」
そしてまた柳くんは私に対して爆弾を落とす。あまりの衝撃に私はまた顔を真っ赤にしてバッグを落とした。
「どうした。このバッグは持ち慣れないのか?こんなにも落とすなど···」
「や、柳くんは···私のこと、好きなの···?」
私からの問いに、柳くんはバッグを拾うと私の手を握って言った。
「やはり□□には言葉にした方が伝わるようだな。」
突然の展開に私は戸惑う。どうしてあまり話したこともない私を?それよりも···。
「あ、あの、ここ街中だし、場所変えませんか···?」
柳くんを直視出来ず視線を逸らしそう答えた私の手を柳くんは引いた。
「構わない。と言うよりも俺たちは今まさに絶好の場へと向かっている途中だ。」
そう言う柳くんはどことなく嬉しそうに歩き出す。
もう私は勉強のことはすっかり抜けて、柳くんのことだけを考えてしまっていた。
それから直ぐに柳くんの家に着いた。
というよりも私の頭が混乱していて本当に直ぐだったかは定かでないけど。
「お、お邪魔します…。」
柳くんは扉を開けて私を先に招き入れる。それに甘えて家に入るとせっけんのような爽やかな香りが鼻腔をくすぐる。
「柳くんのお家、いい香りがするね。」
「ああ。母の趣味だな。」
「そうなんだ。でも柳くんもいつもいい香りするよね。」
靴を脱ぎながらそう言うとふと後ろからの物音が止む。
「柳くん?」
不思議に思って振り向こうとすると、柳くんは私を制止するように口を開く。
「待て。向くな。先に上がってくれ。」
「え?ああ…うん…。」
柳くんの行動を再び不思議に思いながらも言われた通り来客用に用意されたスリッパを履く。
「さっきは悪かった。部屋へ案内しよう。」
柳くんはそう言うと階段を上がり始める。少し足早な柳くんを追うように私も着いて行く。
「ここが俺の部屋だ。好きにかけてくれ。…飲み物を持ってくるが、お茶でいいか?」
「うん、大丈夫。」
部屋の扉を開けると柳くんは私に入るよう促す。そして私の答えを聞くと柳くんはすぐに扉を閉め、下へ降りていった。
それからすぐに私は部屋に用意されていた座椅子に腰かけた。だけど何だか暇で柳くんの部屋を見回す。本当はあまりしない方が良いのだろうと思いながらも興味が出てしまった。
柳くんの部屋は想像通りで、とても整頓されていた。そしてまた、玄関のように爽やかな香りが微かに香る。自分の部屋とは違う香りに何故か緊張してしまう。
そわそわしながら待っていると扉が開く。
「遅くなった。……散らかってはいないと思うが…。」
見回していた私に対して、柳くんは口角をあげながらそう言った。
「ご、ごめん!男の子の部屋って初めて入ったから…興味が出ちゃって…。」
そう言うと柳くんは私の前にコップを置き、向かいの座椅子へ座る。
「そうか。だが俺の部屋は男子の部屋の基準にはならないだろう。物が少ないからな。」
そう言って微笑む柳くんにそんなことはないよ、と答える。
「さて、世間話はここまでにしよう。勉強を始めるか。」
「そうだね。」
柳くんの言葉に私は下ろしたバッグから数学のワークを取り出す。
「課題は62ページまでだったな。」
「うん。でもこの59ページの応用が分からなくて…」
そう言った私の言葉に柳くんは向かいから乗り出す。
そんな柳くんにつられて顔を上げる。
だけど思ったよりも柳くんが近くて、驚きから体を引こうとするとワークの上に置いた手に触れられ、体が跳ねる。
そんな私の反応にフッと微笑むと、少し目を開けた。
「□□は忘れたのか?俺はお前に告白紛いのことを言ったんだぞ。」
「え、あ…。」
「顔が真っ赤だな。意識しているのが分かる。」
柳くんはあっけらかんとしてそんなことを言う。対して私は自分の顔が熱くなっているのが分かった。
「□□は無防備だな。こんなにも簡単に自分に好意を寄せている男の家に上がってしまう。」
そう言うと柳くんは私の手を上から握る。柳くんの手はなんだか暖かい。
「俺が仕組んだとはいえ、こんな簡単に流されるとは…。誰にでもそうなのか?」
柳くんはようやく目を伏せた。誰かが言っていた、柳くんは目を開け続けるのは辛いらしいと。
そんな事を考えていると柳くんは私から手を離す。暖かい手が引いたことで空気に触れ、少しひんやりとする。
無言の柳くんに私は決心して口を開く。
「柳くん。……あのさ、柳くんはテニス部の参謀なんでしょ?だから各選手のデータを取ってる。」
私の突然の言葉に柳くんは驚いた顔をした。
「私ね、柳くんほどじゃないけど、柳くんのデータ取ってるんだよ。」
「…待て。それは…」
「ねえ柳くん。私、勉強教わるのにあまり話したことない男子に頼まないよ。家にも上がらない。」
私の言わんとしていることが分かったのか柳くんは少し頬を染めた。
「一か八かだったの、声をかけたのは。まさか柳くんが私を好きだなんて知らなかったから、ここまで翻弄されるなんて思わなかったけど…。」
息を吸い、私が意を決して再び話そうとすれば柳くんは私の口元を手で覆った。
眉を少し下げ、困ったように微笑んだ柳くんは口を開く。
「……□□。まさかお前が俺の計算を狂わせてくるとは思わなかった。だが、これだけは俺から言わせてくれ。」
柳くんは私の口元から手を離す。
「□□が好きだ。…付き合ってくれないか。」
そう言った柳くんに私は大きく頷いた。
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