夢見る海王星
昼飯を済ませたワシリー達は再び午後の作業に入った。作業も中盤に差し掛かった頃、同じ作業をしていた、テオの宇宙船が、突如地表へ向けて急降下し始めた。降下と言うより、墜落と言った方が良かった。宇宙船はみるみる地表へ近付き、地面へ激突して爆発した。
その日の夕方、現場監督のマイクは皆を集めた。
「皆、知っているかとは思うが、本日事故があった。テオの宇宙船が、墜落したんだ。原因は不明だ。皆も十分気を付けてくれ。宇宙船のチェックは念入りにな」
一同はザワザワと事故について話し合った。
「テオはベテランだぞ。一体、どうしたっていうんだ?」
ロイがワシリーに話しかけた
「分かりません。何かの操作ミスか、宇宙船の故障か……」
ワシリーはあらゆる可能性を想像してみたが、はっきりこれといった原因は思い付かなかった。
ワシリーは部屋へ戻ると、窓から外を覗いた。相変わらず青い海のような海王星。ワシリーは昨日見た映画を思い出していた。まさかこの星も、ソラリスの様に何かの幻影を送り込んだのではあるまいか? ワシリーはそう思い付いて、そして首を振った。あれは映画だ。そんな事がある訳が無い。だが、眼下に広がる幻想的な青い星を見ていると、何があっても不思議では無い様に思えるのだった。
その後も事故は立て続けに起きた。ロイの宇宙船が落ち、次にシルカの宇宙船も落ちた。こう立て続けに起きるとは、余りに不自然である。重役達は会議を開いた。最初にテオの宇宙船が落ちて以来、宇宙船や機器のチェックは念入りにやっているから、故障とは考えにくい。あるとすれば、何か人為的な物であろう。だが、仕事に入る前の三人の様子を見た限り、特におかしな所は無かった。だとするならば、これは惑星に何かの問題があるのではないか? 重力の影響とか、大気圏の嵐とか。会社はそう結論付け、海王星調査機関に依頼する事にした。
海王星調査機関のマチルダ博士は長年海王星の発する周波数の研究をしていた。惑星は二百十一・九四ヘルツの周波数を出していることが既に分かっている。恐らくこの周波数が作業員達に何らかの影響を与えたのだろう、と博士は推察した。だがどんな影響なのか分からなかった。
「よう、マチルダ。メタンガス集積プラントからの依頼だって?」
同僚のハッシュが声をかける。
「ええそうよ。作業員が立て続けに海王星へ落ちたのよ。海王星の周波数と関係しているのじゃないかと思うんだけど、それがどういう影響なのか分からないの」
「周波数か……。例えて言うなら、惑星のメッセージみたいな物だよな? 人の潜在意識に何か訴えかけるのかも知れん。霊能者にでも聞いてみたらどうだ? 一人知ってるぜ」
「そうね……お願いするわ」
「じゃあ、連絡しておくよ」
数日後、ハッシュの言っていた霊能者が研究室へ現れた。
「惑星のメッセージですか?」
ナミと名乗った女性はそう聞いた。
「ええ。惑星の周波数が人間へどういう影響を与えるのか知りたいのよ」
「分かりました。その周波数を聞かせて下さい」
ナミはそう言うと、海王星の周波数を受信している機械のヘッドホンを装着する。静かに呼吸を整え、耳を澄ませると、周波数に乗せて何かの思念体の様なものを掴んだ。意識を集中させて、思念体に精神を乗せる。さざ波の様な音がやがて声に変わった。
『……愛を……愛が欲しい。愛を知りたい……人間の愛が。こっちへ来て……私と一つになって』
呪詛の様な声が聞こえた。
「分かる?」
「ええ。どうやら、愛を求めている様です。人間の愛を知りたくて、人間を引き寄せているようですね。事故にあった人はどんな人達でした?」
「そうね……取り敢えず、みな家族持ちだったわ」
「では、人間同士の愛を知っている人達ですね。恐らく、そういう人達を引き寄せるんでしょう」
「そうなのね……分かったわ。プラントへその旨報告するわ。ありがとう」
マチルダはプラントの重役へ調査結果を送った。現場監督のマイクは作業員を集めた。
「皆、調査機関から報告が届いた。海王星は人間の愛を知りたくて、既に愛を知っている奴を呼び寄せるんだそうだ。映画みたいな話だがどうやらそうらしい。実際、事故った奴等は皆家族持ちだしな。そんな訳だから、今後の活動は家族持ちは外す。以上だ」
皆ざわついた。家族持ちを外すとなると、作業効率は一気に落ちる。
「おい、愛だってよ」
キリーがワシリーの背中を叩いた。
「そうですね。何か切ないですね」
「しかし、惑星が愛を欲しがるとはなあ!」
「惑星にも、意識があるっていう事ですね」
「だよな……まあ、惑星っていうのは孤独だろうし、何か可愛そうな気もするがな。だからと言って、引き寄せられたんじゃ堪らんがな」
「こちらから惑星にメッセージを送る事は出来ないんですかね?」
「例の研究機関へ聞いてみたらどうだ?」
「そうですね」
その日の夕方、現場監督のマイクは皆を集めた。
「皆、知っているかとは思うが、本日事故があった。テオの宇宙船が、墜落したんだ。原因は不明だ。皆も十分気を付けてくれ。宇宙船のチェックは念入りにな」
一同はザワザワと事故について話し合った。
「テオはベテランだぞ。一体、どうしたっていうんだ?」
ロイがワシリーに話しかけた
「分かりません。何かの操作ミスか、宇宙船の故障か……」
ワシリーはあらゆる可能性を想像してみたが、はっきりこれといった原因は思い付かなかった。
ワシリーは部屋へ戻ると、窓から外を覗いた。相変わらず青い海のような海王星。ワシリーは昨日見た映画を思い出していた。まさかこの星も、ソラリスの様に何かの幻影を送り込んだのではあるまいか? ワシリーはそう思い付いて、そして首を振った。あれは映画だ。そんな事がある訳が無い。だが、眼下に広がる幻想的な青い星を見ていると、何があっても不思議では無い様に思えるのだった。
その後も事故は立て続けに起きた。ロイの宇宙船が落ち、次にシルカの宇宙船も落ちた。こう立て続けに起きるとは、余りに不自然である。重役達は会議を開いた。最初にテオの宇宙船が落ちて以来、宇宙船や機器のチェックは念入りにやっているから、故障とは考えにくい。あるとすれば、何か人為的な物であろう。だが、仕事に入る前の三人の様子を見た限り、特におかしな所は無かった。だとするならば、これは惑星に何かの問題があるのではないか? 重力の影響とか、大気圏の嵐とか。会社はそう結論付け、海王星調査機関に依頼する事にした。
海王星調査機関のマチルダ博士は長年海王星の発する周波数の研究をしていた。惑星は二百十一・九四ヘルツの周波数を出していることが既に分かっている。恐らくこの周波数が作業員達に何らかの影響を与えたのだろう、と博士は推察した。だがどんな影響なのか分からなかった。
「よう、マチルダ。メタンガス集積プラントからの依頼だって?」
同僚のハッシュが声をかける。
「ええそうよ。作業員が立て続けに海王星へ落ちたのよ。海王星の周波数と関係しているのじゃないかと思うんだけど、それがどういう影響なのか分からないの」
「周波数か……。例えて言うなら、惑星のメッセージみたいな物だよな? 人の潜在意識に何か訴えかけるのかも知れん。霊能者にでも聞いてみたらどうだ? 一人知ってるぜ」
「そうね……お願いするわ」
「じゃあ、連絡しておくよ」
数日後、ハッシュの言っていた霊能者が研究室へ現れた。
「惑星のメッセージですか?」
ナミと名乗った女性はそう聞いた。
「ええ。惑星の周波数が人間へどういう影響を与えるのか知りたいのよ」
「分かりました。その周波数を聞かせて下さい」
ナミはそう言うと、海王星の周波数を受信している機械のヘッドホンを装着する。静かに呼吸を整え、耳を澄ませると、周波数に乗せて何かの思念体の様なものを掴んだ。意識を集中させて、思念体に精神を乗せる。さざ波の様な音がやがて声に変わった。
『……愛を……愛が欲しい。愛を知りたい……人間の愛が。こっちへ来て……私と一つになって』
呪詛の様な声が聞こえた。
「分かる?」
「ええ。どうやら、愛を求めている様です。人間の愛を知りたくて、人間を引き寄せているようですね。事故にあった人はどんな人達でした?」
「そうね……取り敢えず、みな家族持ちだったわ」
「では、人間同士の愛を知っている人達ですね。恐らく、そういう人達を引き寄せるんでしょう」
「そうなのね……分かったわ。プラントへその旨報告するわ。ありがとう」
マチルダはプラントの重役へ調査結果を送った。現場監督のマイクは作業員を集めた。
「皆、調査機関から報告が届いた。海王星は人間の愛を知りたくて、既に愛を知っている奴を呼び寄せるんだそうだ。映画みたいな話だがどうやらそうらしい。実際、事故った奴等は皆家族持ちだしな。そんな訳だから、今後の活動は家族持ちは外す。以上だ」
皆ざわついた。家族持ちを外すとなると、作業効率は一気に落ちる。
「おい、愛だってよ」
キリーがワシリーの背中を叩いた。
「そうですね。何か切ないですね」
「しかし、惑星が愛を欲しがるとはなあ!」
「惑星にも、意識があるっていう事ですね」
「だよな……まあ、惑星っていうのは孤独だろうし、何か可愛そうな気もするがな。だからと言って、引き寄せられたんじゃ堪らんがな」
「こちらから惑星にメッセージを送る事は出来ないんですかね?」
「例の研究機関へ聞いてみたらどうだ?」
「そうですね」