｢やめんかっ｣

目の前で柵が地面から生えるので軽快に避けて目的人物へと近づく。

｢来るんじゃない！｣

ああ、今日もプリプリ怒っちゃって。
私がチョコを渡すのが遅かったのかもしれない。

｢お待たせしましたあああ。｣

武器を振りかざしたのを目視したので、そのままバルクの胸に飛び込んだ事により、バランスを崩しバルクの上に馬乗りになっていた。

｢…………。｣

｢……きゃっ、私とした事がっこんな大胆な事にっっ恥ずかっっっ突き飛ばさないで下さいよおお。｣

バルクは権兵衛を突き飛ばした後に無言で立ち上がり、砂埃を払っていた。
ゲーム前に権兵衛がいた事でこのゲームの引き分け以上は確定していた。
この馬鹿者の権兵衛はワシと分かると利敵を始める。
コンソールを使い位置を特定して、あろうことかサバイバーのチェイスルートを妨害したり暗号機解読妨害をしたりしだす。
そして自分はというと、最後の一人になってこの様にまとわりついて、構ってもらおうとしてくる。

｢……サバイバー共に怒られないのか？毎度毎度。｣

｢へへへ。バルクの時だけだから、大丈夫。他のハンターには5台分のチェイス頑張ってるからね。｣

恐ろしい言葉を聞いた気がするが、聞かなかった事にした。壁生成の場所も申し分ないし、ハンターの素質もあるのかもしれない…。

｢バルクー？今日はねー、バレンタインだからバルクだけにチョコ作ってきたの！遅くなったから怒っているの？｣

｢怒っとらんが……ワシにか？｣

綺麗にラッピングされた袋を受け取ると、権兵衛は顔を赤くしていた。

｢も、も、も、もちろんデス。……その、形は歪だけど…美味しいと思うんだけど、口に合わなかったら…ごめん。｣

先程の自信はどこに行ったのやら、急にモジモジし始めていて、本当に分かりやすい娘だ。
リボンを解き袋に指を突っ込み、少し歪に丸まった一口サイズのチョコを掴みあげ、ポイッと口に運んだ。

｢よく出来ている。美味しいのう。｣

｢う…良かった……。昨日眠れなくて…料理苦手だけど……バルクにもっと食べて欲しいから、もっと頑張る。｣

話が飛躍している気もしたが、気にしてもどうしようも無いことは経験済みで。

｢ありがとう、権兵衛。｣

｢は、反則っっ、ああああああああぁぁぁ死ねるっ、死んじゃううう。｣

喚き散らしながらいつもは中々行かない地下室に権兵衛は飛び込んで行っていた。

｢騒々しい娘じゃな。｣

次は軽食でも持ってくるのかもしれないと、1人予想をたてて笑ってしまい、少しゴツゴツしたチョコをもう1つ口に運んだ。