テニスボールを追いかける彼と
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しゅるり、しゅるり。
所々赤黒くなった包帯を無心で解く。
学校の裏庭は意外と人が少ない。私にとっては数少ない憩いのスポットだ。
制服のスカートにこっそりしのばせているカッターを取り出そうとしたら、ふと視線を感じて咄嗟にポケットから手を出した。物騒なものは見られていないはず。
目の前に立っていたのは学ランの下に豹柄のタンクトップを着た見知らぬ男子生徒だった。
「な、なぁ……ねーちゃんの包帯の下も毒手なん?」
「は? 毒手……?」
「それは毒手じゃなかとよ、金ちゃん」
「あっ、千歳!」
ふらりと現れたのは私のクラスメイト、千歳千里。
なるほど、この子はテニス部の後輩か。それよりもこの場所は滅多に人が来ないのに、なんで今日に限って次から次にやってくるのだろう。これじゃ腕を切りたくても切れないじゃない。
私は千歳に視線を投げて合図する。早くその一年を連れていってよ、と。千歳はふっと笑みを零す。
「金ちゃん、白石が金ちゃんのこと探しとったばい」
「そうなん? 急いで白石んとこ行ってくるわ! おおきに、千歳!」
びゅんっと風が通り抜けたように彼は走り去っていった。
「……なんで千歳はここに来たん?」
「別に理由はなかよ。ふらっと歩いてたら二人を見つけただけたい」
「そう、なら悪いんやけど場所変えてくれへん?」
「それは出来んばいね」
「……まぁ、ええけど」
千歳なら別に見られてもいいか。説得しても移動してくれそうにないので包帯を外す。
腕には何回切ったか分からない傷痕。それを目の当たりにしても千歳は何も言わなかった。改めてしまい込んでいたカッターをポケットから取り出す。刃を出していると静かな声で千歳が私を諌めた。
「やめなっせ」
千歳は鉄下駄を鳴らしながら、ゆっくりとこちらに近付く。
「15秒……お前さんがカッターを手放す時間たい」
「は、はぁ……? 何それ……」
奇妙な予告をしてからカウントを始める千歳に対し、私は凶器を握りしめたまま立ち尽くしていた。まるで金縛りみたいに体が動かない。
「8、9、10……」
私を照りつけていた太陽をも覆い尽くす大きな影。カウントが終わりを告げる頃。千歳は私の体を包み込むように抱きしめた。15秒経つと、私の手からカッターが離れて足元に落ちる。
「一瞬の痛みじゃ夢子が救われることはなか」
「……っ、う……っ……」
私の意思に関係なく勝手に涙がわいてくる。
自ら傷を付ける行為に意味がないことは分かっていた。だけど、プツプツと浮かび上がる赤色の血が安らぎを与えてくれていたからやめられなかった。まさか誰かの優しい温もりに安心する日がくるなんて。
「もう一人で抱え込まなくてよかよ、夢子」
「……うん」
帰ったらカッターは引き出しの奥にしまっておこう。
もう二度と自分を痛めつけないように。
所々赤黒くなった包帯を無心で解く。
学校の裏庭は意外と人が少ない。私にとっては数少ない憩いのスポットだ。
制服のスカートにこっそりしのばせているカッターを取り出そうとしたら、ふと視線を感じて咄嗟にポケットから手を出した。物騒なものは見られていないはず。
目の前に立っていたのは学ランの下に豹柄のタンクトップを着た見知らぬ男子生徒だった。
「な、なぁ……ねーちゃんの包帯の下も毒手なん?」
「は? 毒手……?」
「それは毒手じゃなかとよ、金ちゃん」
「あっ、千歳!」
ふらりと現れたのは私のクラスメイト、千歳千里。
なるほど、この子はテニス部の後輩か。それよりもこの場所は滅多に人が来ないのに、なんで今日に限って次から次にやってくるのだろう。これじゃ腕を切りたくても切れないじゃない。
私は千歳に視線を投げて合図する。早くその一年を連れていってよ、と。千歳はふっと笑みを零す。
「金ちゃん、白石が金ちゃんのこと探しとったばい」
「そうなん? 急いで白石んとこ行ってくるわ! おおきに、千歳!」
びゅんっと風が通り抜けたように彼は走り去っていった。
「……なんで千歳はここに来たん?」
「別に理由はなかよ。ふらっと歩いてたら二人を見つけただけたい」
「そう、なら悪いんやけど場所変えてくれへん?」
「それは出来んばいね」
「……まぁ、ええけど」
千歳なら別に見られてもいいか。説得しても移動してくれそうにないので包帯を外す。
腕には何回切ったか分からない傷痕。それを目の当たりにしても千歳は何も言わなかった。改めてしまい込んでいたカッターをポケットから取り出す。刃を出していると静かな声で千歳が私を諌めた。
「やめなっせ」
千歳は鉄下駄を鳴らしながら、ゆっくりとこちらに近付く。
「15秒……お前さんがカッターを手放す時間たい」
「は、はぁ……? 何それ……」
奇妙な予告をしてからカウントを始める千歳に対し、私は凶器を握りしめたまま立ち尽くしていた。まるで金縛りみたいに体が動かない。
「8、9、10……」
私を照りつけていた太陽をも覆い尽くす大きな影。カウントが終わりを告げる頃。千歳は私の体を包み込むように抱きしめた。15秒経つと、私の手からカッターが離れて足元に落ちる。
「一瞬の痛みじゃ夢子が救われることはなか」
「……っ、う……っ……」
私の意思に関係なく勝手に涙がわいてくる。
自ら傷を付ける行為に意味がないことは分かっていた。だけど、プツプツと浮かび上がる赤色の血が安らぎを与えてくれていたからやめられなかった。まさか誰かの優しい温もりに安心する日がくるなんて。
「もう一人で抱え込まなくてよかよ、夢子」
「……うん」
帰ったらカッターは引き出しの奥にしまっておこう。
もう二度と自分を痛めつけないように。
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