テニスボールを追いかける彼と
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「赤也ァ!!!」
コートに響き渡るのは真田の怒声。
立海テニス部ではいつもの光景。「ああ、またやってるな」とみな遠巻きに眺めながら練習を続けていた。
そんな中、自分が怒られているわけでもないのにマネージャーの肩が跳ねた。心臓がバクバク音を立てる。押さえ付けられたように胸が苦しい。
機嫌が悪いと気性が荒くなる昔の父親を思い出す。フラッシュバックだ。身体から力が抜け、その場にへたり込む。水中にいるみたいに呼吸が上手く出来ない。
「お、おい。大丈夫か?」
「なんだ、どうした!?」
ボールを打つ音が自然と止み、周りが騒然とする。
マネージャーを囲む男子部員に割って入ったのは仁王だった。涙で霞む視界に見慣れた銀髪が揺れる。
「夢子、大丈夫じゃけぇ。俺に合わせてゆっくり息吐きんしゃい。ゆっくり、ゆっくり……」
「はーっ……はーっ……」
「そう、上手じゃ。……ただの過呼吸じゃき。真田の声に驚いたんじゃろ」
大きな手でマネージャーの背をゆっくりと擦る。マネージャーが落ち着きを取り戻すまで、そう時間はかからなかった。
「ごめんね……仁王くん……」
「謝らんでええ。少し休むか? 真田には俺から……と思ったらお出ましのようじゃの」
真田は少しバツが悪そうな顔をしながらやって来た。
「……先程部員から事情を聞いた。俺の叱責する声でお前が過呼吸を起こしたと。すまなかった」
「……ううん、気にしないで。こっちこそみんなに迷惑かけちゃってごめんなさい」
「お前が気に病むことはない」
「のう、真田。ちぃとマネージャーを休ませてやってくれんか」
「ああ、構わん。仁王、付き添ってやれ」
マネージャーの体がふわりと浮上した。それは仁王お得意のイリュージョンでも何でもなく、相手に抱き上げられたのだと気付く。しかも、俗に言うお姫様抱っこというやつで。直前まで青白かったマネージャーの顔に赤が差し込む。仁王はその変化を心の中で面白がっていた。
お姫様抱っこで連れて来られたのは、普段絶対に立ち入ることのない男子更衣室。
パイプ椅子に座らされ、ようやくマネージャーは息を吐いた。今度は違う音で心臓が高鳴ってる。
「あの、仁王くん、私もう平気だから……」
「ダメじゃ。ちゃんと責任持って見てるぜよ」
「……そう言って練習サボるつもりじゃない?」
「さぁ、どうかのう」
くつくつと喉を鳴らしながら、向かい側の椅子に仁王が腰掛ける。
「……あんまり心配かけなさんな、夢子」
「えっ……?」
「ただの独り言じゃ」
頬を夕陽のように染め、仁王は頬杖をついて横を向く。
恋と名付けるにはまだ早い感情が二人の間に芽生えた。
「なーんてことも昔はあったのぉ」
「恥ずかしいから忘れて……!」
コートに響き渡るのは真田の怒声。
立海テニス部ではいつもの光景。「ああ、またやってるな」とみな遠巻きに眺めながら練習を続けていた。
そんな中、自分が怒られているわけでもないのにマネージャーの肩が跳ねた。心臓がバクバク音を立てる。押さえ付けられたように胸が苦しい。
機嫌が悪いと気性が荒くなる昔の父親を思い出す。フラッシュバックだ。身体から力が抜け、その場にへたり込む。水中にいるみたいに呼吸が上手く出来ない。
「お、おい。大丈夫か?」
「なんだ、どうした!?」
ボールを打つ音が自然と止み、周りが騒然とする。
マネージャーを囲む男子部員に割って入ったのは仁王だった。涙で霞む視界に見慣れた銀髪が揺れる。
「夢子、大丈夫じゃけぇ。俺に合わせてゆっくり息吐きんしゃい。ゆっくり、ゆっくり……」
「はーっ……はーっ……」
「そう、上手じゃ。……ただの過呼吸じゃき。真田の声に驚いたんじゃろ」
大きな手でマネージャーの背をゆっくりと擦る。マネージャーが落ち着きを取り戻すまで、そう時間はかからなかった。
「ごめんね……仁王くん……」
「謝らんでええ。少し休むか? 真田には俺から……と思ったらお出ましのようじゃの」
真田は少しバツが悪そうな顔をしながらやって来た。
「……先程部員から事情を聞いた。俺の叱責する声でお前が過呼吸を起こしたと。すまなかった」
「……ううん、気にしないで。こっちこそみんなに迷惑かけちゃってごめんなさい」
「お前が気に病むことはない」
「のう、真田。ちぃとマネージャーを休ませてやってくれんか」
「ああ、構わん。仁王、付き添ってやれ」
マネージャーの体がふわりと浮上した。それは仁王お得意のイリュージョンでも何でもなく、相手に抱き上げられたのだと気付く。しかも、俗に言うお姫様抱っこというやつで。直前まで青白かったマネージャーの顔に赤が差し込む。仁王はその変化を心の中で面白がっていた。
お姫様抱っこで連れて来られたのは、普段絶対に立ち入ることのない男子更衣室。
パイプ椅子に座らされ、ようやくマネージャーは息を吐いた。今度は違う音で心臓が高鳴ってる。
「あの、仁王くん、私もう平気だから……」
「ダメじゃ。ちゃんと責任持って見てるぜよ」
「……そう言って練習サボるつもりじゃない?」
「さぁ、どうかのう」
くつくつと喉を鳴らしながら、向かい側の椅子に仁王が腰掛ける。
「……あんまり心配かけなさんな、夢子」
「えっ……?」
「ただの独り言じゃ」
頬を夕陽のように染め、仁王は頬杖をついて横を向く。
恋と名付けるにはまだ早い感情が二人の間に芽生えた。
「なーんてことも昔はあったのぉ」
「恥ずかしいから忘れて……!」