テニスボールを追いかける彼と
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危険から守るように車道側を歩く彼。
あまり気にしてなかったけど、歩調も私に合わせてくれる。雅美のさり気ない優しさは数え切れない。
私は生まれつき右耳の聴力が低い。普段は補聴器を付けて過ごしている。不自由だけど、今の生活を苦痛に感じないのは雅美の支えがあるから。彼だけじゃない。千石くんや南くん、錦織くん。雅美と同じ男子テニス部に所属している人達も優しかった。よく私のことを可哀想だと思って手を差し伸べる人もいるけれど、彼らの親切心はそういう偽善と違う。だから、嬉しかった。
雅美は最近手話を勉強しているらしい。「私のため?」と聞いたら、照れ笑いをしながら頷いたのでなんだかこっちまで恥ずかしくなった。
サインプレーが得意な雅美は手話の覚えが早く、あっという間に基本の指文字をマスターした。
すると、千石くん達も手話を興味を持ったのか、教えてほしいとお願いしてきたので私はそれに快く応じた。例えば、最近流行っている有名なコーヒーショップの名前とか。放課後帰りによくみんなで行くファストフードのチェーン店とか。馴染みのある日常単語をレクチャーしたら意外にも盛り上がった。
「夢子、最近千石たちと仲良いな」
「うん、手話を教えてほしいって言われたの。もしかして妬いてる?」
「い、いや……そういうわけじゃ……」
雅美は気まずそうに否定するけど、彼らしい控えめな嫉妬が見えた。
「……じゃあ、雅美にだけ、特別なハンドサイン教えてあげる」
親指と人差し指、小指を立てて、中指と薬指を曲げた形を作った。この単純なサインには特別な意味がある。
「なんだと思う?」
「……分からないな」
「これは愛してるっていう気持ちを表してるの」
右手で私のサインを真似る雅美。その横顔がみるみる赤く染まっていった。
「そ、そうか……」
「私と雅美の秘密のサインだね」
小さく笑うと、雅美は満更でもなさそうな顔で「そうだな」と答える。
学校付近で千石くんとばったり会った。この時間帯に登校する生徒は朝練がある運動部ぐらい。
「おはよう、お二人さん」
「ああ、おはよう」
「おはよう、千石くん」
「いやー、夢子ちゃんが隣にいる時は東方も地味が消えるね」
「朝から失礼だなお前は」
「はは、めんごめんご」
軽い調子で謝罪する千石くんに私は苦笑した。
それから今度は三人一緒に学校まで歩く。
校門をくぐると、二人はいつものように朝練があるため途中で別れた。
「じゃあ俺たちはここで」
「うん。二人とも練習頑張ってね」
「ありがと〜、夢子ちゃん」
「私の方こそ送ってくれてありがとう。……雅美!」
雅美の名前を呼び、さっき教えたばかりのサインを見せた。それは二人だけの秘密。
雅美は照れつつ同じサインを返したあと、手話でありがとうと告げる。私たちのやり取りを間近で見ていた千石くんは興味津々に尋ねてきた。
「え、なになに? 何話したの?」
「悪いけどお前には教えられないな」
そう語る雅美は珍しく優越感に浸っていた。
あまり気にしてなかったけど、歩調も私に合わせてくれる。雅美のさり気ない優しさは数え切れない。
私は生まれつき右耳の聴力が低い。普段は補聴器を付けて過ごしている。不自由だけど、今の生活を苦痛に感じないのは雅美の支えがあるから。彼だけじゃない。千石くんや南くん、錦織くん。雅美と同じ男子テニス部に所属している人達も優しかった。よく私のことを可哀想だと思って手を差し伸べる人もいるけれど、彼らの親切心はそういう偽善と違う。だから、嬉しかった。
雅美は最近手話を勉強しているらしい。「私のため?」と聞いたら、照れ笑いをしながら頷いたのでなんだかこっちまで恥ずかしくなった。
サインプレーが得意な雅美は手話の覚えが早く、あっという間に基本の指文字をマスターした。
すると、千石くん達も手話を興味を持ったのか、教えてほしいとお願いしてきたので私はそれに快く応じた。例えば、最近流行っている有名なコーヒーショップの名前とか。放課後帰りによくみんなで行くファストフードのチェーン店とか。馴染みのある日常単語をレクチャーしたら意外にも盛り上がった。
「夢子、最近千石たちと仲良いな」
「うん、手話を教えてほしいって言われたの。もしかして妬いてる?」
「い、いや……そういうわけじゃ……」
雅美は気まずそうに否定するけど、彼らしい控えめな嫉妬が見えた。
「……じゃあ、雅美にだけ、特別なハンドサイン教えてあげる」
親指と人差し指、小指を立てて、中指と薬指を曲げた形を作った。この単純なサインには特別な意味がある。
「なんだと思う?」
「……分からないな」
「これは愛してるっていう気持ちを表してるの」
右手で私のサインを真似る雅美。その横顔がみるみる赤く染まっていった。
「そ、そうか……」
「私と雅美の秘密のサインだね」
小さく笑うと、雅美は満更でもなさそうな顔で「そうだな」と答える。
学校付近で千石くんとばったり会った。この時間帯に登校する生徒は朝練がある運動部ぐらい。
「おはよう、お二人さん」
「ああ、おはよう」
「おはよう、千石くん」
「いやー、夢子ちゃんが隣にいる時は東方も地味が消えるね」
「朝から失礼だなお前は」
「はは、めんごめんご」
軽い調子で謝罪する千石くんに私は苦笑した。
それから今度は三人一緒に学校まで歩く。
校門をくぐると、二人はいつものように朝練があるため途中で別れた。
「じゃあ俺たちはここで」
「うん。二人とも練習頑張ってね」
「ありがと〜、夢子ちゃん」
「私の方こそ送ってくれてありがとう。……雅美!」
雅美の名前を呼び、さっき教えたばかりのサインを見せた。それは二人だけの秘密。
雅美は照れつつ同じサインを返したあと、手話でありがとうと告げる。私たちのやり取りを間近で見ていた千石くんは興味津々に尋ねてきた。
「え、なになに? 何話したの?」
「悪いけどお前には教えられないな」
そう語る雅美は珍しく優越感に浸っていた。