テニスボールを追いかける彼と
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動物カフェを検索してみたら、それは私にとって夢のような世界だった。犬カフェ、猫カフェ、うさぎカフェ……可愛い動物たちの写真に心が癒される。
特にこの犬カフェで大人気の小さな柴犬。くるんとした尻尾に、写真からでも容易に想像できるもふもふとした毛並み。クリクリとした真っ黒な瞳。どこをとっても文句なしに可愛い。家で飼えないのならせめてカフェに行って動物たちと触れ合いたいと思うが、残念ながらそれさえも叶わない。私は動物アレルギーだった。だからこうして画面越しで愛でることしかできない。自分の体質を恨んでも仕方ないのは分かっているけれど、やっぱり切ない。
ぼんやりとスマホの液晶画面を眺めていたら、誰かに肩を叩かれた。
「よっ。夢子、何見てんだ?」
声を掛けてきたのはクラスメイトの宍戸。
女子たちは近寄り難いみたいだけど、私は彼女たちが抱いているような苦手意識は微塵もない。
向こうも私に対してよくこうして話しかけてくれる。宍戸と仲良くなったきっかけは何だったっけ。気が付いたら自然と今の関係が生まれていた。
「宍戸。ほら見て、可愛くない?」
「ん? おおっ、すげぇ可愛いなコイツ!」
「でしょ? ここのカフェの看板犬らしいの」
「へぇ。この看板犬、俺の飼ってる犬と似てるな」
「宍戸の家って犬飼ってるんだ。知らなかった」
「おう。写真あるぜ。見るか?」
「いいの? 見せて見せて!」
「いいぜ。ちょっと待ってろ……ほら、これとか」
宍戸は自分のスマホを取り出すと、少ししてから私に画面を向けた。なんとも気持ち良さそうな顔でソファで眠っている写真。看板犬に負けないくらいの可愛さで骨抜きになってしまった。
「わあ〜……かっわいい……」
「だろ!? 構ってやらないと拗ねて噛みつくんだけどそこもまたコイツの可愛いところなんだよな」
相当愛犬を可愛がっているのだろう。放っておいたらうちの子自慢が始まりそうだ。
「私の家は動物飼えないから羨ましいなぁ」
「夢子……あ、あのよ。だったら、その、俺んち遊びに来るか?」
思わず行きたいと言いそうになる気持ちをぐっと堪える。私は眉を下げて、苦笑いを浮かべた。
「……ごめん」
「や……その、俺の方こそ急に誘って悪りぃな」
「ち、違う違う! そうじゃなくて!」
勘違いさせたくないと、慌てて首を横に振る。
「私さ、動物アレルギーだから近づけないの。だからいつも写真集とか見て我慢してるんだ」
「なんだ……そういうことかよ。俺はてっきり……」
「てっきり?」
「い、いや、何でもねーよ! でも、アレルギーってお前も大変なんだな」
宍戸の顔が少しだけ赤く見えた。それ以上突っ込まれたくなかったのか無理やり話題を戻そうとする。……気になるけど深追いはしないでおこう。
「まぁ、可愛い子たちに触れないのはつらいけど、もう慣れちゃった」
大きくなったら治るのかなと期待したのは、一度や二度なんかじゃない。もし、犬や猫を触れるようになったら、その時は今まで出来なかった分たくさん撫でたり抱っこしてあげるんだ。昔はそんな夢をしょっちゅう見ていた。でも、それは夢のまた夢。
「そうだ。なぁ、夢子。いい考えがあるぜ」
「え? いい考えって?」
宍戸は、にっと口角を上げた。
その日の夜、携帯が着信を知らせた。
応答ボタンを押す指は微かに震えている。
お互いのアカウントは以前交換したけど、宍戸と電話をするのは初めてだ。
電話を繋げると、いきなり犬の顔がアップで映し出された。
「あっこら、チーズ!」
自分の名前を呼ばれたチーズは、怒られていると思っていないのか、ワン!と明るい返事をした。
犬特有の息遣いが聴こえる。
「可愛いね。チーズっていうんだ、その子」
「おう。ちょっとヤンチャなんだよな」
「あはは、そうみたいだね」
宍戸はやれやれといった具合に話しながら、画面を独占しているチーズを自分の上から退かした。
ほぼ茶色に覆われていた視界が開け、ようやく宍戸の顔が映る。
学校でも会っているのに、いつもの制服を着ていないというだけでなぜかドキリとしてしまった。
「なぁ……またこうして通話していいか? その、夢子の顔も見れるからさ」
「……うん、いいよ」
放置されて拗ねたチーズがかぷりと宍戸に噛み付く。その瞬間に上げた飼い主の悲鳴に、私は思わず笑った。
特にこの犬カフェで大人気の小さな柴犬。くるんとした尻尾に、写真からでも容易に想像できるもふもふとした毛並み。クリクリとした真っ黒な瞳。どこをとっても文句なしに可愛い。家で飼えないのならせめてカフェに行って動物たちと触れ合いたいと思うが、残念ながらそれさえも叶わない。私は動物アレルギーだった。だからこうして画面越しで愛でることしかできない。自分の体質を恨んでも仕方ないのは分かっているけれど、やっぱり切ない。
ぼんやりとスマホの液晶画面を眺めていたら、誰かに肩を叩かれた。
「よっ。夢子、何見てんだ?」
声を掛けてきたのはクラスメイトの宍戸。
女子たちは近寄り難いみたいだけど、私は彼女たちが抱いているような苦手意識は微塵もない。
向こうも私に対してよくこうして話しかけてくれる。宍戸と仲良くなったきっかけは何だったっけ。気が付いたら自然と今の関係が生まれていた。
「宍戸。ほら見て、可愛くない?」
「ん? おおっ、すげぇ可愛いなコイツ!」
「でしょ? ここのカフェの看板犬らしいの」
「へぇ。この看板犬、俺の飼ってる犬と似てるな」
「宍戸の家って犬飼ってるんだ。知らなかった」
「おう。写真あるぜ。見るか?」
「いいの? 見せて見せて!」
「いいぜ。ちょっと待ってろ……ほら、これとか」
宍戸は自分のスマホを取り出すと、少ししてから私に画面を向けた。なんとも気持ち良さそうな顔でソファで眠っている写真。看板犬に負けないくらいの可愛さで骨抜きになってしまった。
「わあ〜……かっわいい……」
「だろ!? 構ってやらないと拗ねて噛みつくんだけどそこもまたコイツの可愛いところなんだよな」
相当愛犬を可愛がっているのだろう。放っておいたらうちの子自慢が始まりそうだ。
「私の家は動物飼えないから羨ましいなぁ」
「夢子……あ、あのよ。だったら、その、俺んち遊びに来るか?」
思わず行きたいと言いそうになる気持ちをぐっと堪える。私は眉を下げて、苦笑いを浮かべた。
「……ごめん」
「や……その、俺の方こそ急に誘って悪りぃな」
「ち、違う違う! そうじゃなくて!」
勘違いさせたくないと、慌てて首を横に振る。
「私さ、動物アレルギーだから近づけないの。だからいつも写真集とか見て我慢してるんだ」
「なんだ……そういうことかよ。俺はてっきり……」
「てっきり?」
「い、いや、何でもねーよ! でも、アレルギーってお前も大変なんだな」
宍戸の顔が少しだけ赤く見えた。それ以上突っ込まれたくなかったのか無理やり話題を戻そうとする。……気になるけど深追いはしないでおこう。
「まぁ、可愛い子たちに触れないのはつらいけど、もう慣れちゃった」
大きくなったら治るのかなと期待したのは、一度や二度なんかじゃない。もし、犬や猫を触れるようになったら、その時は今まで出来なかった分たくさん撫でたり抱っこしてあげるんだ。昔はそんな夢をしょっちゅう見ていた。でも、それは夢のまた夢。
「そうだ。なぁ、夢子。いい考えがあるぜ」
「え? いい考えって?」
宍戸は、にっと口角を上げた。
その日の夜、携帯が着信を知らせた。
応答ボタンを押す指は微かに震えている。
お互いのアカウントは以前交換したけど、宍戸と電話をするのは初めてだ。
電話を繋げると、いきなり犬の顔がアップで映し出された。
「あっこら、チーズ!」
自分の名前を呼ばれたチーズは、怒られていると思っていないのか、ワン!と明るい返事をした。
犬特有の息遣いが聴こえる。
「可愛いね。チーズっていうんだ、その子」
「おう。ちょっとヤンチャなんだよな」
「あはは、そうみたいだね」
宍戸はやれやれといった具合に話しながら、画面を独占しているチーズを自分の上から退かした。
ほぼ茶色に覆われていた視界が開け、ようやく宍戸の顔が映る。
学校でも会っているのに、いつもの制服を着ていないというだけでなぜかドキリとしてしまった。
「なぁ……またこうして通話していいか? その、夢子の顔も見れるからさ」
「……うん、いいよ」
放置されて拗ねたチーズがかぷりと宍戸に噛み付く。その瞬間に上げた飼い主の悲鳴に、私は思わず笑った。
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