男主攻め
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震えた声
ぱらり、ぱらりとページをめくり、物語の詰まった文章を読む。ふと、窓に目をやると雨がせわしなく降り注いでいた。外が随分と暗くなっていることを考えるに、俺は相当読みふけってしまっていたらしい。だが俺は今日明日と、二日間の休日を取っている。仕事のことを考えず本に熱中できるのは正直とても嬉しい。取り計らってくれた上司に感謝しなければ。
紙のめくる音と雨音しか聞こえない。まるで世界に俺だけが存在しているように感じるこの時間が、とても好きだった。
ピンポーン。
静かな夜にそぐわない、腑抜けた機械音が鳴った。……こんな夜中に一体誰だろうか?宅配便か、何か頼んでいただろうか、と思案するが、特に何も思い当たらない。読んでいた本に栞を挟み、スマホを手に取る。23:54。流石にこんな時間に宅配は来ないだろう。じゃあ一体誰が……。俺は未知の人物を警戒しながら、急ぎ早に玄関へ向かう。
「はーい、どちらさま、で………」
扉を開けて一瞬、フリーズする。なぜなら、玄関の前に立っていた男は全身びしょ濡れだったからだ。
黒い髪からは水滴がぽたりぽたりと滴り、表情は前髪で隠されて見えない。よく鍛えられていることが分かるガタイの良い体格。
そいつは俺の親しい友人、篠木 ケイジだった。
ケイジは家に来る時、律儀に連絡をくれる。
だから、もし今来るのならなにかしら連絡を入れると思って予想から除外したのだが……
何か、あったのだろうか。傘をさして来なかったこと、今の雰囲気から、異様なことが起きている、と察する。
すると、今まで黙っていたケイジがゆっくりと顔を上げた。
交わった瞳にはまるで生気がなく、目元のクマも酷い。恐る恐る、彼の頬に手を当てる。長い間雨に当たっていたのだろうか、彼の肌はぞっとするほど冷たかった。「……こんな夜中にどうしたんだ」話しかけてみるが、俺に触られたまま彼はなにも答えない。
……かといって、このまま放置すれば確実に風邪を引くだろう。
「あー、風邪引くからまず上がれ?」
彼は口こそ開かなかったが、小さく頷いた。ケイジを中に招き入れ、玄関に置いてある椅子に座らせた。声をかけてそこに待たせる。
急いで洗面所の上にある棚からタオルを取り出す。
パタパタと急ぎ足で戻ってくれば、彼は先程の姿勢から全くみじろぎしていなかった。
タオルを広げて髪を拭く。三人兄弟の長男である俺は、どこか末っ子気質のあるケイジについつい世話を焼きたくなってしまう。
そうするといつも、『オレは子どもじゃない』と拗ねて文句を言われるのだが、今日は素直にされるがままになっている。こんな緊急事態だが、そんなケイジに口角が上がる。……そんな顔をしたのがバレたのか、ケイジがじとりと責めるようにこちらを見ている気がして、誤魔化すように体を拭く手を速めた。
ある程度拭き終わり、風呂に入れと言おうとしたところでぎゅうっと強めに抱きしめられる。
拭いたは良いものの、彼の服はまだ水気が残っている。濡れるんだが、と思いながらも、それを口にはしなかった。
俺には今のケイジが、親に置いて行かれた、迷子の子供のように見えてならなかった。背中に回っている手は微かに震えていて、痛いくらいに強く、力がこめられている。
俺はなにも言わず、静かにケイジの背中に手を回し、優しく背中を擦った。
「…悠斗っ……どこにも、行くな、っ……」
「………俺はどこにも行かねーよ、ケイジ。」
これは明日風邪引くやつだなぁ、と思いながら、俺は残りの休日が潰れることを察して乾き笑いを洩らした。
ぱらり、ぱらりとページをめくり、物語の詰まった文章を読む。ふと、窓に目をやると雨がせわしなく降り注いでいた。外が随分と暗くなっていることを考えるに、俺は相当読みふけってしまっていたらしい。だが俺は今日明日と、二日間の休日を取っている。仕事のことを考えず本に熱中できるのは正直とても嬉しい。取り計らってくれた上司に感謝しなければ。
紙のめくる音と雨音しか聞こえない。まるで世界に俺だけが存在しているように感じるこの時間が、とても好きだった。
ピンポーン。
静かな夜にそぐわない、腑抜けた機械音が鳴った。……こんな夜中に一体誰だろうか?宅配便か、何か頼んでいただろうか、と思案するが、特に何も思い当たらない。読んでいた本に栞を挟み、スマホを手に取る。23:54。流石にこんな時間に宅配は来ないだろう。じゃあ一体誰が……。俺は未知の人物を警戒しながら、急ぎ早に玄関へ向かう。
「はーい、どちらさま、で………」
扉を開けて一瞬、フリーズする。なぜなら、玄関の前に立っていた男は全身びしょ濡れだったからだ。
黒い髪からは水滴がぽたりぽたりと滴り、表情は前髪で隠されて見えない。よく鍛えられていることが分かるガタイの良い体格。
そいつは俺の親しい友人、篠木 ケイジだった。
ケイジは家に来る時、律儀に連絡をくれる。
だから、もし今来るのならなにかしら連絡を入れると思って予想から除外したのだが……
何か、あったのだろうか。傘をさして来なかったこと、今の雰囲気から、異様なことが起きている、と察する。
すると、今まで黙っていたケイジがゆっくりと顔を上げた。
交わった瞳にはまるで生気がなく、目元のクマも酷い。恐る恐る、彼の頬に手を当てる。長い間雨に当たっていたのだろうか、彼の肌はぞっとするほど冷たかった。「……こんな夜中にどうしたんだ」話しかけてみるが、俺に触られたまま彼はなにも答えない。
……かといって、このまま放置すれば確実に風邪を引くだろう。
「あー、風邪引くからまず上がれ?」
彼は口こそ開かなかったが、小さく頷いた。ケイジを中に招き入れ、玄関に置いてある椅子に座らせた。声をかけてそこに待たせる。
急いで洗面所の上にある棚からタオルを取り出す。
パタパタと急ぎ足で戻ってくれば、彼は先程の姿勢から全くみじろぎしていなかった。
タオルを広げて髪を拭く。三人兄弟の長男である俺は、どこか末っ子気質のあるケイジについつい世話を焼きたくなってしまう。
そうするといつも、『オレは子どもじゃない』と拗ねて文句を言われるのだが、今日は素直にされるがままになっている。こんな緊急事態だが、そんなケイジに口角が上がる。……そんな顔をしたのがバレたのか、ケイジがじとりと責めるようにこちらを見ている気がして、誤魔化すように体を拭く手を速めた。
ある程度拭き終わり、風呂に入れと言おうとしたところでぎゅうっと強めに抱きしめられる。
拭いたは良いものの、彼の服はまだ水気が残っている。濡れるんだが、と思いながらも、それを口にはしなかった。
俺には今のケイジが、親に置いて行かれた、迷子の子供のように見えてならなかった。背中に回っている手は微かに震えていて、痛いくらいに強く、力がこめられている。
俺はなにも言わず、静かにケイジの背中に手を回し、優しく背中を擦った。
「…悠斗っ……どこにも、行くな、っ……」
「………俺はどこにも行かねーよ、ケイジ。」
これは明日風邪引くやつだなぁ、と思いながら、俺は残りの休日が潰れることを察して乾き笑いを洩らした。
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