女主夢
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決して当たり前じゃないこと
本編軸/篠木ケイジ/微シリアス
ああ、これは悪夢だ。
ザアザアと打ち付ける雨。煩く喚くサイレン。目の前の、憧れの人の惨い姿に、オレはそう感じた。
悪夢。
そう理解しているはずなのに、頭はこれが現実なのだと訴えてくる。
オレがやったのだ。オレが、殺した。この人を。
息が荒くなって、視界が霞む。
___あ、マズイ。
直感的にそう感じた。このままでは、戻れなくなる。
…そう焦った瞬間、ふわり、と何か暖かいものに包まれた。死体のように冷たかったオレの体が、じんわりと熱を持っていく。
それに触れていると、心が落ち着いていく気がして、それで、ひどく泣きたくなった。
「大丈夫、大丈夫ですよ。私がここにいますから」
…微睡みのような意識の中、もぞりと、"なにか"が動く気配がした。
「……あ、おはようございます」
「…………」
重たい瞼を持ちあげれば、目の前に恋人__優の姿が。
……どうしてここに彼女がいるのだろうか。
同棲しているものの、一人の時間も大事だろうということで、オレたちはそれぞれ自室で寝ている。だがしかし、今オレのベッドで何故か一緒に寝ている。
はて。
「なあに、夜這い?」
「私を掴んで離してくれなかったのはケイジさんの方ですけどねっ!」
むすっと頬を膨らませる様子が可愛らしい。そんなことを思いつつ、目線を下に落とせば、なるほど。たしかにオレの手ががっちりと__彼女の腰を掴んでいた。
……どうりで。
「……………ごめん」
触れていた手を上にあげて、害はないですよと示すために降参のポーズをとる。
彼女はオレを一瞥し、ため息を吐いた。
「…別に怒ってるわけじゃないですよ、ただ夜這いだと勘違いされたことが腹立たしかっただけです」
それを怒っていると言うのでは…?と思ったが、口答えすると録なことが無いと身に染みているオレは、しぶしぶ開きかけた口を閉じた。触らぬ神に祟りなし、だ。
「……それに、」
「…それに?」
「…魘されているケイジさんを放置するのは出来なかったので」
……やっぱり、悪夢を見ていた時に聞こえた声は彼女のものだったらしい。こちらを覗く瞳に気遣う色が見えて、むず痒い気分になる。
「……なに笑ってるの」
「…こんな彼女が居ておまわりさんは幸せものだなぁって思って、さ」
「…そっか」
ぽつんと彼女が言葉を零し、2人の間に沈黙が広がった。
………せっかくだし朝食でも作ろうか、となんとなく思い立ちオレは重たい腰を上げて立ち上がる。(朝食といっても、トーストにスクランブルエッグという簡素なものである。というのも、優ちゃんが刃物を握らせてくれないためだ。)
立ち上がったことで間に距離ができて、温もりが離れていくことを肌で感じる。それがほんの少しだけ名残惜しく思えて、やはり寝たフリでもして堪能しておけば良かったかと悔やんだ。
なんとも言えない気持ちを抱えたまま部屋を出ようとしたその時、くんっと弱々しくシャツの裾を引っ張られ、ぴたりとオレの足が止まる。
何事かと振り返れば、先程より不機嫌な顔をした彼女。
いや、何故。
「えー、と、どうしたの、優ちゃん」
今度は一体何をやらかしたんだオレ……と、先程までの行動を振り返るも、彼女が不機嫌になるような要素は何も思い当たらない。
降参、というように彼女と目線をかち合わせれば、「…今日は」と返ってきた。今日?何かの記念日だっただろうか。オレは続きを促す。
「…今日は、休日でしょう」
「そう、だね…?」
休日。どうやら記念日か何かでは無いらしい。
その事実に少しホッとした。
それと同時に、休日だからどうしたのだろう、と疑問が頭をもたげる。
彼女は何かを躊躇うように口を開こうとしない。オレはその先が気になったので、催促するようにじっと目を見つめてみることにした。
何時間にも感じられるような長い沈黙の末、先に音を上げたのは優ちゃんだった。
「……わ、分かりました、言います!言いますから、そんな顔しないでください…!」
よし、勝った。
心の中でオレはガッツポーズをする。
…いつの間にか勝負になってしまったが、それは置いておいて。優ちゃんはもうどうにでもなれ、と覚悟を決めたような顔をした。
「…だからっ、今日はもう少し一緒に寝ません、か?」
凛々しい顔とは大分正反対(予想外?)な提案にオレは目を丸くする。彼女がさんざん躊躇っていた意味を理解し、思わず笑みがこぼれる。
「…かわいいね」
「~~っ、だから言いたくなかったんですよ…!」
彼女があれやこれやと言い訳しているのが聞こえたが、本当になんとも可愛らしい提案だな、と改めて思う。
まさかいつもツンツンとした対応の彼女からこんなオネダリが聞けるとは。悪夢に感謝をしたいくらいだ。
「………もうっ、早く来てください!」
怒りが照れを上回ったのか、優ちゃんが布団をめくって早くしろとぺしぺしシーツを叩いている。有無を言わせぬ言動に、仰せのままに、と返しもう一度ベッドに入り込む。
「午後はどこか行く?」
「うーん、家でのんびりでもいいんじゃないかなー」
「それはケイジさんがダラダラしたいだけじゃない…?」
「失礼だね…」
この先も、君と生きていられますように。そう願わずにはいられない、午前の出来事だった。
本編軸/篠木ケイジ/微シリアス
ああ、これは悪夢だ。
ザアザアと打ち付ける雨。煩く喚くサイレン。目の前の、憧れの人の惨い姿に、オレはそう感じた。
悪夢。
そう理解しているはずなのに、頭はこれが現実なのだと訴えてくる。
オレがやったのだ。オレが、殺した。この人を。
息が荒くなって、視界が霞む。
___あ、マズイ。
直感的にそう感じた。このままでは、戻れなくなる。
…そう焦った瞬間、ふわり、と何か暖かいものに包まれた。死体のように冷たかったオレの体が、じんわりと熱を持っていく。
それに触れていると、心が落ち着いていく気がして、それで、ひどく泣きたくなった。
「大丈夫、大丈夫ですよ。私がここにいますから」
…微睡みのような意識の中、もぞりと、"なにか"が動く気配がした。
「……あ、おはようございます」
「…………」
重たい瞼を持ちあげれば、目の前に恋人__優の姿が。
……どうしてここに彼女がいるのだろうか。
同棲しているものの、一人の時間も大事だろうということで、オレたちはそれぞれ自室で寝ている。だがしかし、今オレのベッドで何故か一緒に寝ている。
はて。
「なあに、夜這い?」
「私を掴んで離してくれなかったのはケイジさんの方ですけどねっ!」
むすっと頬を膨らませる様子が可愛らしい。そんなことを思いつつ、目線を下に落とせば、なるほど。たしかにオレの手ががっちりと__彼女の腰を掴んでいた。
……どうりで。
「……………ごめん」
触れていた手を上にあげて、害はないですよと示すために降参のポーズをとる。
彼女はオレを一瞥し、ため息を吐いた。
「…別に怒ってるわけじゃないですよ、ただ夜這いだと勘違いされたことが腹立たしかっただけです」
それを怒っていると言うのでは…?と思ったが、口答えすると録なことが無いと身に染みているオレは、しぶしぶ開きかけた口を閉じた。触らぬ神に祟りなし、だ。
「……それに、」
「…それに?」
「…魘されているケイジさんを放置するのは出来なかったので」
……やっぱり、悪夢を見ていた時に聞こえた声は彼女のものだったらしい。こちらを覗く瞳に気遣う色が見えて、むず痒い気分になる。
「……なに笑ってるの」
「…こんな彼女が居ておまわりさんは幸せものだなぁって思って、さ」
「…そっか」
ぽつんと彼女が言葉を零し、2人の間に沈黙が広がった。
………せっかくだし朝食でも作ろうか、となんとなく思い立ちオレは重たい腰を上げて立ち上がる。(朝食といっても、トーストにスクランブルエッグという簡素なものである。というのも、優ちゃんが刃物を握らせてくれないためだ。)
立ち上がったことで間に距離ができて、温もりが離れていくことを肌で感じる。それがほんの少しだけ名残惜しく思えて、やはり寝たフリでもして堪能しておけば良かったかと悔やんだ。
なんとも言えない気持ちを抱えたまま部屋を出ようとしたその時、くんっと弱々しくシャツの裾を引っ張られ、ぴたりとオレの足が止まる。
何事かと振り返れば、先程より不機嫌な顔をした彼女。
いや、何故。
「えー、と、どうしたの、優ちゃん」
今度は一体何をやらかしたんだオレ……と、先程までの行動を振り返るも、彼女が不機嫌になるような要素は何も思い当たらない。
降参、というように彼女と目線をかち合わせれば、「…今日は」と返ってきた。今日?何かの記念日だっただろうか。オレは続きを促す。
「…今日は、休日でしょう」
「そう、だね…?」
休日。どうやら記念日か何かでは無いらしい。
その事実に少しホッとした。
それと同時に、休日だからどうしたのだろう、と疑問が頭をもたげる。
彼女は何かを躊躇うように口を開こうとしない。オレはその先が気になったので、催促するようにじっと目を見つめてみることにした。
何時間にも感じられるような長い沈黙の末、先に音を上げたのは優ちゃんだった。
「……わ、分かりました、言います!言いますから、そんな顔しないでください…!」
よし、勝った。
心の中でオレはガッツポーズをする。
…いつの間にか勝負になってしまったが、それは置いておいて。優ちゃんはもうどうにでもなれ、と覚悟を決めたような顔をした。
「…だからっ、今日はもう少し一緒に寝ません、か?」
凛々しい顔とは大分正反対(予想外?)な提案にオレは目を丸くする。彼女がさんざん躊躇っていた意味を理解し、思わず笑みがこぼれる。
「…かわいいね」
「~~っ、だから言いたくなかったんですよ…!」
彼女があれやこれやと言い訳しているのが聞こえたが、本当になんとも可愛らしい提案だな、と改めて思う。
まさかいつもツンツンとした対応の彼女からこんなオネダリが聞けるとは。悪夢に感謝をしたいくらいだ。
「………もうっ、早く来てください!」
怒りが照れを上回ったのか、優ちゃんが布団をめくって早くしろとぺしぺしシーツを叩いている。有無を言わせぬ言動に、仰せのままに、と返しもう一度ベッドに入り込む。
「午後はどこか行く?」
「うーん、家でのんびりでもいいんじゃないかなー」
「それはケイジさんがダラダラしたいだけじゃない…?」
「失礼だね…」
この先も、君と生きていられますように。そう願わずにはいられない、午前の出来事だった。