よう実
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手のひらの中で揺れる、黒革の首輪。チョーカーなんて飾りのものではない。犬や猫につけるような本物の首輪だ。
その感触を指先で確かめながら、私は小さく息を吐いた。
勘違いしないでほしい。私はけっしてSMなんて好まないし、嗜虐趣味があるわけでもない。
ただ―そう。冗談のつもりだったのだ。
きっかけは些細なこと。いつものように、龍園くんと言葉の応酬を繰り広げる中でふと、私はなんともなしに言ってしまったのだ。
「あなたのような野良犬には、首輪でもつけておくべきね」と。
すると彼は、はたと動きを止めた。私はなんだか、嫌な予感がして息を吐きだした。それは、確信に近かった。
何か、入れてはいけないスイッチを入れてしまったかのような―そんな感覚。
売り言葉に買い言葉。彼はふてぶてしい表情に愉悦を滲ませ、こう言ったのだ。
「いいぜ。つけてみろよ」
それは明確な許可だった。王様に首輪を着けるという、ちぐはぐな行為を許したのだ、私に。
そこまでだったらただの軽口で終わったはずなのに、私は興味が湧いてしまった。
―本当に、首輪を着けようとしたらどうなるのだろうか、と。
いつもの彼なら、ふざけたこと言ってんじゃねえ、と一蹴するぐらいだろう。
ではもし、だ。私が本物の首輪を持ってきて、これをつけてほしいとお願いをしたらどんな反応をするのだろうか。絶句する?それとも笑うのか。どんな風に反応するのかという興味が、頭をよぎった。
ただの好奇心だった。だから――そう。まさか了承されるなんて、私はこれっぽっちも思ってみなかったのだ。
「ほら、早くつけてくれよ。まさか今更怖気ついた、なんて言わねえよな?」
躊躇いを見せた私に、彼は首元を惜しみなく曝け出した。ニヒルな笑みを浮かべ、こちらを焚きつけてくる。
喉がごくりと鳴った。緊張ではない。この錯綜した状況に、私も充てられているのだ。
「……少し動かないで」
私はそう告げて、その手を彼の首元へと伸ばした。思いのほか素直に身を屈めた彼の首筋に、黒く艶やかな首輪を巻きつける。
喉元に指を這わせ、革の感触を確かめながら首輪を嵌める。カチリと音がして、金具が噛み合った。
彼の首にフィットするように調整されたそれは、まるで最初から彼のためだけに作られたかのようだった。
「ハハ、お前の所有物……ってか?悪くねぇな」
言葉の裏にあるのは、侮蔑でも、冷笑でもない。むしろ喜色混じりのそれ。
指先で首輪を弄び、ご機嫌そうにけたけたと笑ってみせた。
「似合ってるわ」
「だろうな。なんせお前が俺のことを考えて選んでくれたものだからなァ」
先ほどからずいぶんと、煽るようなことを言ってくれる。いや、実際に煽っているのだろう。
この男は人の嫌がることを考えるのが人一倍、得意なのだから。
「どうせならリードも付けてくれよ。な?」
「……わかったわ」
私はリードを手に取って、静かにカチリと装着する。彼が片膝をついたまま、首を差し出す様子に、内心で笑みを浮かべる。
彼は支配されることを拒まない。ただ、それが自分の「選択」である限りにおいて。
リードをくんっと引く。
「んぐっ……!」
彼の喉が詰まるような音が漏れる。細い金属の輪が彼の皮膚に食い込み、その苦しげな声が私の耳に心地よく響く。
足を組みなおし、フローリングの床にぺたりと従順に跪いてみせた。
「んだよ躾かよ、ご主人サマ?」
そう言って彼は笑う。きゅうと目を細め、挑発的に。
軽薄とも取れるその声の中に、かすかに熱を帯びた響きが混ざっていた。
「なら、ちゃんと躾てくれねえと……なァ?」
心底、愉しそうな声だ。彼にとっては遊びに等しいのかもしれない。
それでも、心臓が不規則に跳ねるのを感じていた。彼の言葉が、仕草が、視線が、私の中の何かを揺さぶってやまない。
首輪を付けさせたのは、確かに私だ。けれど、その支配の象徴を喜んで受け入れる彼を見ていると、一体どちらが支配しているのか、分からなくなる。
私はもう一度リードを引いた。ほんの少し強く。
龍園翔が、かすかに喘ぐ。
「望むなら、いくらでも教えてあげる」
囁くようにしてそう言うと、彼は舌なめずりをして、笑った。
その感触を指先で確かめながら、私は小さく息を吐いた。
勘違いしないでほしい。私はけっしてSMなんて好まないし、嗜虐趣味があるわけでもない。
ただ―そう。冗談のつもりだったのだ。
きっかけは些細なこと。いつものように、龍園くんと言葉の応酬を繰り広げる中でふと、私はなんともなしに言ってしまったのだ。
「あなたのような野良犬には、首輪でもつけておくべきね」と。
すると彼は、はたと動きを止めた。私はなんだか、嫌な予感がして息を吐きだした。それは、確信に近かった。
何か、入れてはいけないスイッチを入れてしまったかのような―そんな感覚。
売り言葉に買い言葉。彼はふてぶてしい表情に愉悦を滲ませ、こう言ったのだ。
「いいぜ。つけてみろよ」
それは明確な許可だった。王様に首輪を着けるという、ちぐはぐな行為を許したのだ、私に。
そこまでだったらただの軽口で終わったはずなのに、私は興味が湧いてしまった。
―本当に、首輪を着けようとしたらどうなるのだろうか、と。
いつもの彼なら、ふざけたこと言ってんじゃねえ、と一蹴するぐらいだろう。
ではもし、だ。私が本物の首輪を持ってきて、これをつけてほしいとお願いをしたらどんな反応をするのだろうか。絶句する?それとも笑うのか。どんな風に反応するのかという興味が、頭をよぎった。
ただの好奇心だった。だから――そう。まさか了承されるなんて、私はこれっぽっちも思ってみなかったのだ。
「ほら、早くつけてくれよ。まさか今更怖気ついた、なんて言わねえよな?」
躊躇いを見せた私に、彼は首元を惜しみなく曝け出した。ニヒルな笑みを浮かべ、こちらを焚きつけてくる。
喉がごくりと鳴った。緊張ではない。この錯綜した状況に、私も充てられているのだ。
「……少し動かないで」
私はそう告げて、その手を彼の首元へと伸ばした。思いのほか素直に身を屈めた彼の首筋に、黒く艶やかな首輪を巻きつける。
喉元に指を這わせ、革の感触を確かめながら首輪を嵌める。カチリと音がして、金具が噛み合った。
彼の首にフィットするように調整されたそれは、まるで最初から彼のためだけに作られたかのようだった。
「ハハ、お前の所有物……ってか?悪くねぇな」
言葉の裏にあるのは、侮蔑でも、冷笑でもない。むしろ喜色混じりのそれ。
指先で首輪を弄び、ご機嫌そうにけたけたと笑ってみせた。
「似合ってるわ」
「だろうな。なんせお前が俺のことを考えて選んでくれたものだからなァ」
先ほどからずいぶんと、煽るようなことを言ってくれる。いや、実際に煽っているのだろう。
この男は人の嫌がることを考えるのが人一倍、得意なのだから。
「どうせならリードも付けてくれよ。な?」
「……わかったわ」
私はリードを手に取って、静かにカチリと装着する。彼が片膝をついたまま、首を差し出す様子に、内心で笑みを浮かべる。
彼は支配されることを拒まない。ただ、それが自分の「選択」である限りにおいて。
リードをくんっと引く。
「んぐっ……!」
彼の喉が詰まるような音が漏れる。細い金属の輪が彼の皮膚に食い込み、その苦しげな声が私の耳に心地よく響く。
足を組みなおし、フローリングの床にぺたりと従順に跪いてみせた。
「んだよ躾かよ、ご主人サマ?」
そう言って彼は笑う。きゅうと目を細め、挑発的に。
軽薄とも取れるその声の中に、かすかに熱を帯びた響きが混ざっていた。
「なら、ちゃんと躾てくれねえと……なァ?」
心底、愉しそうな声だ。彼にとっては遊びに等しいのかもしれない。
それでも、心臓が不規則に跳ねるのを感じていた。彼の言葉が、仕草が、視線が、私の中の何かを揺さぶってやまない。
首輪を付けさせたのは、確かに私だ。けれど、その支配の象徴を喜んで受け入れる彼を見ていると、一体どちらが支配しているのか、分からなくなる。
私はもう一度リードを引いた。ほんの少し強く。
龍園翔が、かすかに喘ぐ。
「望むなら、いくらでも教えてあげる」
囁くようにしてそう言うと、彼は舌なめずりをして、笑った。
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