よう実
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放課後の教室。窓の外には夕焼けが広がり、長く伸びた影が静かに揺れていた。遠くからは運動部の掛け声が微かに聞こえる。暑さも和らぐこの時間帯が、一番活動しやすいのだろう。
綾小路清隆は、ぼんやりと窓の外を眺めながら考えごとをしていた。
それは、自身の友人と言える存在である矢神についてだ。
矢神優──Dクラスの中心人物の一人。
学業・運動能力ともに優秀で、Aクラスの生徒と並んでも遜色ないほどの実力を持つ。彼のような存在が、なぜDクラスにいるのかと疑問に思う者も少なくないだろう。
何より目を引くのは、その柔軟さだ。
どれほど優れた能力を持っていようと、扱い方を誤ればただの宝の持ち腐れとなる。
だが、矢神は違う。
彼は自身の立ち位置を把握し、どう動くべきかを本能的に理解している。時には平田のように仲裁役を担い、時には須藤たちと気さくに遊ぶ。真面目な部分と砕けた部分のバランスが絶妙で、それが彼を自然と中心へと押し上げるのだろう。
(…矢神と戦ったら、オレは負けるだろうか。)
ふと、そんなことを考えた。
勝てるか、と問われれば─答えは「勝てる」だろう。実際にやり合えば、勝率は高い。だが、容易ではない。
矢神には、オレが持つような戦闘技術の経験はない。純粋な身体能力や、経験ではオレに軍配が上がるだろう。
だが、彼の観察眼と判断力は確かだ。オレの動きを見て最適解を導き出し、戦略を組み立てるはずだ。
瞬時に状況を把握し、最適解を導き出す思考力が彼の強みだ。オレの動きを見切り、戦い方をその場で修正することができるだろう。もし長期戦になれば、矢神は時間をかけてオレの癖やリズムを分析し、次第に対応策を見出していくはずだ。
(苦戦は免れない、か……。)
自分の思考に、少し驚いた。
まるで、矢神を本気で"強敵"として認めているかのようだ。
矢神がホワイトルームにいたら──。
そんな考えが一瞬頭を過ぎり、オレは眉をひそめる。
もしあの環境に彼がいたら、間違いなく優秀な生徒になっただろう。
彼なら、あの過酷な環境の中で適応し、最後まで生き残る可能性は高い。オレと競い合い、時に勝ち、時に負け、互いを高め合うライバルになったかもしれない。
だが──。
(矢神には、そんな思いをしてほしくない。)
ホワイトルームにいたら、彼は今のような人間らしさを持っていただろうか。
誰かを見て、その変化を察して、迷いなく手を差し伸べるような人間でいられただろうか。
綾小路に屈託のない笑みを向け、たわいもない話をするような、綾小路が思い描いていた"友人"で居てくれただろうか。
もし、同じようにホワイトルームの生徒であったら。オレと矢神はきっと、友達ではなかっただろう。
そんな未来は──例え想像だとしても、考えたくなかった。
「綾小路?」
ふと矢神の声が聞こえ、思考を切り替える。
「…なんだ。」
「いや、お前が珍しく考え込んでたから。」
矢神は軽く笑いながら、机に腰掛けた。その何気ない仕草すら様になっているのが、彼らしいと言えば彼らしい。
「何か悩み事でもあるのか?」
矢神がこちらをじっと見つめた。まるでオレの考えを見抜こうとするかのように。瞳には、微かに心配の色が映る。ほとんど変わらないであろうオレの表情から、些細な心情の変化を読み取ったのだろう。
(本当に、よく人の表情を見ているな。)
「何でもない。」
そう返すと、矢神は探るようにこちらをじっと見つめる。本当になんでもないと理解したのか、やがて「そうか」と軽く肩をすくめた。深くまで追及しては来ない、その態度が心地よい。
(戦う未来なんて、そもそもありえない。)
矢神とは、これからもただの友人で居たい。そうで、あればいい。
オレはふっと小さく息をついて、再び窓の外に視線を向けた。
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