修羅系乙女の鬼殺隊活動記録
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数日後、有永は、無事完治し、復帰した。
新しい刀は、前よりも有永の手に馴染み、切れ味もあがっていた為、鋼鐵塚に改めて感謝の手紙をしたためた。(返事は来なかったが、後に同じく刀鍛冶の鉄穴森から、鋼鐵塚がめちゃくちゃ喜んでいたことを教えて貰った。)
そして、ある時、お館様に呼び出された。
要件は、大凡想像がついた。柱への任命である。階級は甲、討伐数は50をゆうに超えている。有永自身もそろそろかとは思っていた。
「よく来てくれたね」
お館様は、優しく微笑んだ。落ち着く声だ。有永は、生まれて初めて、その身を渦巻いていた怒りが少しだけ鳴りを潜めたのを感じた。
「君の活躍は、よく知っているよ。もう、察してはいるみたいだけれど、今日の呼んだのは他でもなく、君を柱に任命したいからだ」
「……」
有永は考えていた。自分は本当に、鬼殺隊の最高位たる柱に相応しい人間なのか。人の上に立てる人間なのか。
ただ単純に強さだけであれば、申し分ない。
有永は、元々悩むような性分ではない。いつもであれば、二つ返事で引き受け、柱になっていただろう。いつもの、この世の理不尽への憎悪に静かに身を焼かれている彼女なら。
だが、今の有永は、お館様の声を聞いた瞬間から、あの身を焦がす程の憎悪が薄れていた。
今の有永は、前世のただ善良であっただけの普通の女の子に近い心情であった。
今ここに修羅はいない。
「引き受けて、くれるかい?」
「……私は、柱に相応しい人間なのでしょうか」
気が付くと、口からそんな言葉が溢れていた。らしくない弱音だ。
「どうして、そう思うんだい?」
お館様は、変わらず優しい微笑みで、有永に問いかけた。
「わからないのです。元花柱、胡蝶カナエは、誰にでも分け隔てなく優しい。善良な人です。誰かを救いたいと、心から切に願っている、そんな人です。
ですが、私は」
普段の有永は、修羅の如き女である。この世の理不尽を、不義理を、不条理を何よりも許せない。鬼を斬るのは、“アイツ”のように、この世の理不尽の固まりのような存在だからだ。そんなものを許してはおけない。生かしてはおけない。
言ってしまえば、有永が鬼を斬るのは自己満足だ。結果として人を救えたとは言え、有永は、自分の為だけに鬼を斬っている。
「こんな私が、柱など務まるのでしょうか」
今ここに、普段の彼女を知っている人間がいたならば、こんな弱気な有永は、らしくないと驚いただろう。
それだけ、お館様は有永の心を溶かしていた。
「務まるよ。君がそう苦心するのであれば、君はいつか人を守る為に刀を振るえるようになるだろう。今はまだ、君自身の為に刀を振るっているのだとしても、それは巡り巡って、人を助く刀となる」
有永は、俯かせていた顔をあげ、お館様を見た。その言葉に嘘などないことを、気休めなどではないのだと、理解できた。
「私を、信じてくれないかい? 君は優しい人だ。今までも、これからも」
「……はい」
有永は、どこか憑き物が落ちたような気持ちになった。もう、迷いなど消えていた。ならば、返事など一つだけである。
「……柱を勤めさせていただきます」
「ありがとう。なら、【怒柱】……いや、君は“義”に生きる子だから【義柱】に任命しよう」
今ここに、義柱 棋怒川有永が生まれた。彼女は、苛烈な輝きを持つ瞳で力強く頷いた。空は彼女の心情を写すかのように天高く澄み渡っていた。