修羅系乙女の鬼殺隊活動記録
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「テメェ!!!! 俺の刀を折りやがったなあああぁあァァァァァァッッッッ!!!!!!! コロスぅぅ!! ぶっ殺してやるぅ!!!!!!!」
「あらゝ……折れたのではなく、砕けたのですよ」
「ぶっ殺すッッッッ!!!!」
鋼鐵塚が怒り心頭で有永のいる部屋に飛び込んできた。先の戦いで、刀を駄目にしてしまった為、修理を頼んだのだが、「刀を折ったら殺す」の言葉通り、切れ味の良さそうな包丁を振り回し、殺気を纏って現れた。
「困ったわ。私、鋼鐵塚さんに嫌われてしまったら、他の誰に刀を作ってもらえばいいのかしら……鬼殺隊に入ってからずっと、鋼鐵塚さんの刀を使っていましたのに……」
「作んねぇなんて言ってねぇだろ!!!」
「まぁ! 嬉しいですわ。私、もう鋼鐵塚さんの刀しか扱えないような気がしていたのです」
「お、おう……そうか、そうか……」
「次はねぇからな!」と、だけ告げて、新しい刀をおいて、鋼鐵塚は帰って行った。有永は、完全に鋼鐵塚の扱い方を掌握していた。
「有永! 大丈夫か!?」
入れ替わるように、弟弟子の錆兎が来た。有永の怪我の知らせを聞いて、駆けつけたようだ。錆兎は、義勇と共に、最終選別を受けた。そして、七日間を生き抜き、無事に鬼殺隊へと入隊したのだった。
「あらゝ。錆兎、来てくれたの」
「有永が怪我をしたって聞いたから、」
「私は大丈夫です。少し目がぼやけるのと、肺が痛む程度、かしら?」
「程度……」
「刀も治りましたし、もう仕事に戻りたいくらいなのですが……」
「駄目だ! 休んでろ」
錆兎が叱りつけると、有永は肩を竦めてため息を吐いた。こうやって大人しくしていれば、愁いに満ちた表情を浮かべるだけの美少女であるのに、些かワーカーホリックが過ぎるきらいがある。修行時代から勘付いてはいたが、この姉弟子、なかなかに頑固である。
「義勇は、最近どうしてるの?」
「アイツは、最近、表情が固くなったな。ほんの前まで、すぐに泣いてたのに」
「鬼殺隊に入って、気が引き締まったのかしら」
「元々、口下手なのもあって、他の隊士から浮いてるみたいなんだよな」
「あらゝ。まぁ、仲良しこよしをしたくて鬼殺隊になった者などいないのだし、ちゃんした距離感さえ掴めれば、そこは心配ないでしょうね」
中途半端な馴れ合いは、お互いに良くないわ。と優しげな表情で、ばっさりと切り捨てる有永に、錆兎は相変わらずだなあと思う。
「真菰の修行は順調かしら?」
「ああ。岩を斬る試験に入ったらしい。今は苦戦してるみたいだな」
「ふふ、そうなの」
真菰は、鱗滝さんの新たな弟子である。有永は会ったことがないが、なかなか優秀な子らしいことは、鱗滝からの手紙で伺えた。
錆兎は、面倒みが良い兄貴分のような性分であったから、任務の合間に修行を見てやっているらしい。
「そうだ。錆兎、久し振りに髪を梳いてあげましょうか」
「へ」
「こちらにいらっしゃいな」
有永は、櫛を取り出して、布団の上に正座する。そして、その膝をポンポンと叩き、錆兎を呼んだ。錆兎は硬直した。いや、確かに鱗滝さんの元で修行していたときは、俺も義勇も髪を梳いてもらっていたが流石にもう恥ずかしい。
「い、いや。遠慮し」
「次はいつ会えるかわからないのだから、ね?」
困ったように笑う有永に、錆兎は言葉を詰まらせた。たとえ修羅の如き強さを誇る女であれ、憧れの姉弟子である。大好きな姉弟子の、この表情を錆兎は苦手だった。
渋々、布団の端に座り、有永に背を向けた。無論、顔は耳まで真っ赤である。
するり、と有永の手が錆兎の髪に触れる。癖毛な髪を手櫛で解しているのだ。指先が、首筋に少し触れるだけで、耳に当たるだけで、体温が上昇していくのがわかった。
実を言うと、姉弟子は、初恋でもあった。
気高く、苛烈な彼女に錆兎は想いを寄せていた。だが、有永にとって、錆兎は可愛い弟弟子である。錆兎もそれ以上にはなれないと思い、この想いを伝えようとはしていない。
「髪、伸びましたね」
「……あ、ああ」
手櫛が終わり、有永の普段使っている櫛が髪に入る。するり、するりと梳かれるうちに、段々と眠くなっていった。
「あらゝ。……寝ちゃった」
錆兎は、後頭部に感じる暖かさがあまりにも心地良くて、髪に優しく触れてくる何かがとても気持ち良くて、すり、と擦り寄った。
「錆兎、貴方は善良でありなさい。清廉でありなさい」
姉弟子の声がする。淡々としていながらも、どこか温かい声色で、語り掛けて来る。
「この世は理不尽で溢れています。不義理で溢れています。不条理で溢れています。
「……きっとこれからも、それらは私達から、大切なモノを奪おうとするでしょう。……あの日、私から全てを奪った“アイツ”のように
「私のこの心は、どろどろとした憎悪でできています。
「私のこの感情は、めらめらと燃え滾る、怒りが占めています。
「……だから、錆兎。貴方は、善良なままでありなさい。どうか、私のように憎悪に取り憑かれないで。
「清廉なままでありなさい。どうか、私のように怒りに身を任せないで。
「貴方は、貴方達だけは…………
「……有永?」
「あら、おはよう。錆兎」
目を覚ますと、天井と有永の端正な顔が目に入った。錆兎は、しばしばと目を瞬かせると、唐突に自分の今現在の状態を把握した。
膝枕、されてる。
慌てて飛び起きて、呆然とする。俺、有永に膝枕されてた……? かあっと顔に熱が集まってくるのを感じた。心臓も自己主張しているかのように五月蝿い。
「よく眠れたようですね。良かったわ」
有永は平然と、慈愛に満ちた表情で錆兎を見つめている。錆兎は、その表情に胸が暖かくなるのと同時に、やはり、有永にとって自分はただの弟的な存在なんだと再認識し、切なく感じた。
「……もう、行くな。無茶するなよ」
「あらゝ……ええ。錆兎も」
錆兎は、有永に背を向けて部屋から出た。
想いを告げる気は無い。でも、それでも
「男らしくないぞ、俺……」
外に出ると、日が沈み始めていた。錆兎の烏が舞い降り、次の任務を告げ、錆兎は、現場に向かった。