修羅系乙女の鬼殺隊活動記録
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棋怒川有永と胡蝶カナエが、上弦の弐の鬼と戦ってから、数日後。有永は、藤の花の家紋の家で目を覚ました。
全集中の呼吸と適切な処置のお陰で命に別状はなかった。
しかし、胡蝶カナエの方は、重症であった。有永よりも先に戦っていた彼女は、鬼の氷による肺へのダメージが、有永よりも多かった。
今生きているのは、有永の足止めにより一旦戦場を離脱できたことが大きい。
救援隊を引き連れて現場に戻らずに、そのまま安静にして治療を受けていれば、肺に後遺症が残らずに済んだのだが。
結果、カナエは全集中の呼吸は疎か、普通の呼吸すら満足にできなくなってしまった。
少しでも動いて、呼吸を乱せば血反吐を吐き倒れてしまう。カナエの行動範囲は、一畳と少しだけの布団の上になった。もちろん、鬼殺隊も続けられない。
「姉さん……」
「……しのぶ」
カナエの妹、しのぶは、そんな病床の姉のそばに座っていた。
「姉さん、どんな鬼にやられたの、どいつにやられたの。私、必ず姉さんの仇を取るから……」
「……」
カナエは、考えていた。しのぶが、あの鬼に立ち向かってしまえば、きっと無事では済まない。私は、もう、しのぶを守ってやれない。
「しのぶ……鬼殺隊を、辞めなさい……」
「私があの鬼を殺します」
「あらゝ。貴女は……」
未だ安静を強いられている棋怒川有永の元に、胡蝶しのぶは訪れた。
棋怒川有永は、両眼に包帯を巻かれていた。命に別状は無く、鬼殺隊も続けられるようではあるが、回帰はまだ遠いのだろう。
「その目は……」
「ちょっと凍らされてしまって……私、呼吸のお陰で体温が高かったものですから、失明はしてませんよ。それで、 どうしたのですか?」
しのぶは、有永とはあまり話したことがない。また、彼女が苦手ですらあった。自分には無い、天賦の才の持ち主。我流の呼吸を生み出した天才。無い物ねだりであるとは分かっていたが、それでも……
「姉と貴女が戦った、上弦の弐の鬼のことを教えてください」
「知って、どうするのかしら」
「姉の仇を打ちます」
「……そう」
有永は、頬に手を当て眉を下げる。
「教えても良いのだけれど、どうやって勝つつもりなのか、教えてくださる?」
「それは……」
「確かに、情報があれば、対策は立てられるでしょう。でも、貴女にそれを実行する手立てがあるようには、私、とても思えないのです」
「……」
「気を悪くされたのでしたら、謝ります。ですが、私はこの世の理不尽によって、貴女のような善良な人が踏み躙られるのは我慢ならないの」
そう言って、有永は包帯に遮られた視線を窓の外に向けた。まるで、話は、終わりだとでも言うように。
「……確かに、私は鬼の首も斬れないほど惰弱です。……でも、それでも」
こぶしを膝の上で握りこむ。力が入り過ぎて、血管が浮かんでいる。ぎりぎりと、歯を食いしばり、目の前の有永を力一杯睨み付けた。
「私は、あの鬼を殺してやりたい!!」
確かに、この人ならばそのうちあの鬼の首を捕れるかもしれない。この天才になら私よりも容易いのかもしれない。でも、それでも……大好きな姉をあんな目に合わせた、鬼を自分の手で殺したかった。
「あらゝ……なら、条件を、一つ」
「じょう、けん?」
「ええ、鬼を確実に殺す手立てを、用意してください」
有永は、ゆっくり振り向きながら、目元の包帯を取る。顕になった目は、優しげながらも、苛烈な輝きを称えていた。思わず、目を奪われる。
「しのぶさんは、鬼の首を落とせないのでしょう? ならその代わりの殺し方を、どうか考えてくださいな」
「そんなの、」
「出来っこない。なんて言わないでくださいな。そうね……例えば、毒」
「どく……」
「しのぶさんは、薬学が得意なのでしょう? もし、鬼を殺すことが出来る毒が完成したなら、きっと、あの鬼を倒す手立ても出来るかもしれないわ」
「……」
しのぶは目を瞑って、床に臥せった姉の姿を思い出した。陰った表情、青白い肌、咳き込むたびに肺から溢れる血液。
「やります」
そう言って、しのぶは有永の部屋を飛び出していった。迷いなど無い。一人残った有永は、「あらゝ」とだけ呟いて、また窓に目を向けた。
この世に蔓延る悪逆を、今この瞬間、どうすることも出来ない歯痒さを、微笑みに隠して。