修羅系乙女の鬼殺隊活動記録
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
鱗滝左近次は、所要があり訪ねた町でその人に出会った。濃厚な鬼の血の匂いがして、現場に駆けつけてみると、たおやかな黒髪の女学生が、鬼をひたすら嬲っていたのである。
「どちらさまですか? 生憎、私は今忙しいのです」
鈴のような声。本当に女らしい。だが、一瞬たりとも鬼から目を離さない。蹴りも姿勢が美しい。只者ではない。
目の前に回り込んで、鬼の首を落とすと、キョトンとした顔でこちらを眺めてきた。そして刀をじっと眺めて
「廃刀令のご時世に、随分なことですね」
と困ったように呟いた。鱗滝も地面に刺さったままのドスと彼女の血塗られたブーツを見る。直ぐにドスは回収されたが、扱いに慣れている様が見て伺えた。
それから少し会話をして、弟子に取ることになった。
ここから狭霧山まで、常人の足では2日掛かるのだが、明日伺うとは。
本当に翌日に現れた。
汗一つかかずに、少しの荷物を持って。
「ごめんなさい。本当はもう少し早く着きたかったのですけれど。祖父を説得するのに時間がかかってしまいました」
十分早かったが、それは口に出さずにそうか、とだけ呟いた。
「では改めまして、失礼ですがお控えなすって。……手前は、生国と発しまするは日紀の生まれ、姓は棋怒川、名は有永………
まさか仁義を切られるとは思っておらず、鱗滝は少しばかり動揺する。つらつらと淀み無く述べられる口上に見事だなと思うと同時に、そうか日紀の生まれで、あの立ち振舞。棋怒川一門の娘か。と彼女の家を察した。そこの当主とは、古い知り合いである。
「……鱗滝左近次だ」
「どうぞ、よしなに」
修行は、なかなか順調にすすんだ。普通なら前の癖が抜けきらず、新しい流派を取得するのはなかなかどうして難しいものなのだが、有永はそれを使い分けてみせた。なるほど、天賦の才か。一年もかからず、水の呼吸を会得し、岩を斬る試練に移った。
「あ、斬れた」
半日で斬った。
「鱗滝さーん、斬れましたー!」
「そうか……」
なかなか大きめの岩であったが、速攻で斬られた。当人は年相応な少女の顔つきで喜んでいる。だがしかし、最終選別は、半月後である。まだ時間があった。
鱗滝は、もう少し有永に修行をつけてやることにした。
暫くして、新しい弟子が増えた。錆兎と義勇である。
二人は有永によく懐いた。有永には、弟がいたようなので、年下の男の扱いも長けていた。
「いいですか。錆兎、義勇。戦いに正道も邪道もありません。勝つ為に使えるものを何でも使いなさいな。例えばこの砂。目に入ったら痛いですよね? 戦いが始まって、緊迫した場面で使いなさい」
「でも有永、それは男らくない」
「あらゝ。錆兎。よぉく考えなさいな。こちらがいくら真面目に戦っても、無駄なのです。死合であって試合ではないのだもの。やられる前に殺りなさいな」
「……」
「でも、不義理はだめよ。仁義は通しなさい。それを出来ないのは畜生以下よ」
錆兎と義勇は、苛烈で美しい姉弟子の言っていることは少ししか理解できなかったが、彼女は彼らの憧れだった。
そして来たる最終選別の日。有永は、旅立っていった。鱗滝は、いつもの通り厄除けの面を渡し、一抹の不安を抱えながら見送った。
「あらゝ、なんてまぁ、大きい……」
「お前、鱗滝の弟子だろう? 可愛い俺の子狐が今年も来たなぁ」
「鱗滝さんをご存知ですの?」
「ああ、あの忌々しい鱗滝に俺は、ここに閉じ込められたんだ!! だから、あいつの弟子は全部喰ってやるんだ」
「どうして、私が鱗滝さんの弟子だとお解りに?」
「その厄除けの面だよ。鱗滝のお面と堀口が同じなんだ。だから、毎回そいつらを……」
「そうでしたか……」
水の呼吸__
「もう、お話するのはお終いにしましょうか。……お覚悟、どうぞ」
「ただいま戻りました」
「有永っ!!!」
錆兎と義勇が走り寄って来て、ひしと抱きついてくる。有永は事も無げに二人を受け止めると、優しく背中を撫でた。
「おかえりなさいっ」
「あらゝ……私がいないあいだ。良い子にしてた?」
「うんっ、」
ぽろぽろと泣く二人をあやしていると、家から鱗滝が飛び出してきて、三人まとめて抱きしめた。
「よくぞ、よくぞ帰ってきた……っ」
「鱗滝さん、ただいま戻りました。あらゝ。うふふ、そんなに強く抱き締められては、照れてしまいますね」
そうして、長い間抱き合い、泣き疲れた弟弟子を寝かし付けて、鱗滝に隊服をきた姿を見せた。
「あら、少し寸足らずかしら……まぁ、動き易いですし、いいかしら」
「良くない」
鱗滝は、寸足らずな隊服を燃やし、次の日には新しいものを持ってこさせた。弟子にあんな低防御力な服を着させてたまるか。
暫くして、刀が到着した。
「ドスにしてくれだなんて、変わった要望だったが、仕上げたぞ。この刀はな」
「あらゝ。こんな所で立ち話はなんて、」
「俺が丹精込めて打った刀のなかで、最高の出来栄えで」
「あの、」
最終的に首根っこを捕まえて無理矢理家の中に、引きずり込んだ。刀鍛冶は不服そうだったが、みたらし団子を渡すと機嫌が良くなった。
「抜いてみてくれ、さぁ抜け。刀身を見せろ。さぞ綺麗な青になるんだろうな。ほら速く」
「では、失礼して……まぁ、」
白銀の刀身が、みるみるうちに赤く染まっていく。鮮やかな紅蓮の色。その美しさに思わず感嘆の息をもらす。
「なんで青じゃないんだッッッ!!!!」
癇癪を起こされた。
「俺は、綺麗な青い刀身が見たかったのに!!! なんで赤なんだ!!! お前水の呼吸の遣い手だろうが!!!」
「こればかりは、運ですねぇ……」
「運ですねぇ、じゃねぇよ巫山戯んな!!!」
「あらゝ……」
「刀を折ったら、お前を殺す」と、呪いを言い残して刀鍛冶、鋼鐵塚は帰っていった。
次の日、有永は鎹烏からの伝令を聞き、旅立っていった。
「有永は大丈夫かな、錆兎……」
「大丈夫に決まっているだろう。義勇、俺達も早く有永に追い付こう」
「うん!」
少年二人は、姉弟子の背中を追い掛けるべく、刀を手に取った。