修羅系乙女の鬼殺隊活動記録
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次の日の晩。獪岳は、有永とは別の任務に就いていた。
隊士は、獪岳を入れて五人。その中で獪岳が一番階級が低かった。
道中、にやにやと意地の悪い顔をした一人が不意に口を開いた。
「なぁ。お前が壱ノ型が使えないっていう、出来損ないだろ?」
獪岳が睨みつけると、更に笑みを深くする。それに同調したように、他の隊士達も口を開いた。
「ああ。あの元鳴柱の一番弟子の」
「修行中の弟弟子は、壱ノ型しか使えないんだって? ふふ」
「可哀想になぁ、くくく」
「今は義柱に教えを請うてるんだって?」
「あの柱も物好きだよなぁ。なんでこんな出来損ないに」
黙れ黙れ黙れ黙れ!!!!! キツく睨みつけていても、それを面白がって更に悪化していく。
「どんな手を使って頼み込んだんだ? 同情でもかったのか?」
「柱といえど所詮は女だものなぁ、『可哀想に、』なんて思って貰えればイケるんだろ?」
「いいなぁ! 俺も義柱様に手取り足取り教えて貰いてぇなぁ!! はは、一緒に風呂でも入ってんのか? なあ」
下卑た笑みだ。本当にこいつらは鬼殺隊なのか? 自分も出来た人間では無いことは、なんとなく承知しているが、こんなに堕ちてはいない。
「黙れ」
「あ? 何言ってんだコイツ。俺達よりも階級が下のクセに。どうせ、お前みたいな出来損ないを弟子にした元鳴柱も、義柱も大したことないんだろ?」
「黙れと言ってるんだ」
シィィィィィ、と独特な呼吸音が口から漏れ出る。ビリビリと肌を刺すような緊張感があたりに充満する。
「テメェら全員黙れ」
「あ? やる気か? わかってるとは思うが、隊士同士の切り合いはご法度だぞ」
「知ってるさ。お前らみたいに低能じゃないからな」
「あ゛?」
「お前らみたいな馬鹿と鬼狩りをしたところで、お前らが足手まといなるのは目に見えてる。なら、俺一人で充分だ」
ぐ、と地面を踏み締め、勢い良く駆け出す。修行の成果のお陰で、以前よりも格段に速くなっているのが感じられた。ぐんぐんと加速していき、馬鹿な隊士共を置き去りにして行く。
後ろで追いかけて来ようとする気配がしたが、獪岳の方が何十倍も速い。追い付けるはずがない。怒号のような叫び声も次第に聞こえなくなり、完全に撒いたとほくそ笑んだ。
目的地に到着すると、雷鳴のような轟音に驚いた鬼が襲い掛かってきた。異形の鬼だ。獪岳の身体の何倍もの大きさで、熊のような手をしている。よだれが滴る口にはぎらぎらと牙が輝いている。
「そっちから殺されに来てくれるとはな。探す手間が省けた」
雷の呼吸 弐ノ型 稲魂
一瞬で繰り出された五連撃に鬼の身体が、バラバラになる。獪岳は、確実に自分が強くなっていることを知り、笑みが溢れた。
有永のようなたおやかな笑みでは無く、凄惨な笑みだ。
鬼はその気迫に圧され、バラバラと崩れ落ちる身体を捨てて、首に手足を生やし逃げ出した。
「ぶっ殺してやるよ!!!」
他の隊士が到着したのはすべてが終わったあとだった。
薙ぎ倒された木々の中央に、ぼろぼろと崩れ落ちる鬼の首と返り血に塗れた獪岳の姿を発見した。
勝手に行動したことへの文句を言ってやろうと近付くと、こちらに気が付いた獪岳と目があった。
笑っている。
ぞくりと底冷えするような寒さが背中を伝っていく。
「来たか。遅ぇんだよ雑魚共」
「お、おまえ一人で……?」
「は、はは。なんだ、弱い鬼だったのか?」
「いや、待てよ、確かこの山の鬼って推定で百人は食ってたような……」
ざり、と不気味な笑みを浮かべた獪岳が、隊士達に向かって歩いてくる。手には刀を持ったままだ。
「お、おい」
「さっきのことは、謝るよ!!」
「ひ、」
一歩々々と近付いてくる獪岳に底しれぬ恐怖を感じて、後退る。
だが、獪岳は何も言わずにそのまま通り過ぎて行った。
「テメェらみたいな雑魚共を相手してる暇なんぞねぇよ」
「……こ、この野郎ぁぁあ!!」
一人の隊士が、激昂して刀を抜き、後ろから斬りかかってきた。それを一瞥する事なく、するりと避け、バランスを崩したその隊士の頭を蹴り飛ばす。
あっという間に気を失い、地面に沈んだソレを鼻で笑う。
「先輩、隊士同士の切り合いはご法度じゃなかったのかよ。これは、上に報告しねぇとなあ……」
カア、と頭上の烏が鳴いた。よく見ると有永の烏のようだ。
「獪岳、戻ッテ来ナサイ。報告ハ、モウ済ミマシタ。有永ガ、麓デ待ッテルワ。モウ直グ、夜ガ明ケル。ソノ馬鹿モ連レテ、来ナサイトノコト」
「だとよ。おい、お前らが散々馬鹿にした義柱様がお呼びだとよ」
麓に着くと、有永がにこやかに手を振っていた。手ぬぐいで獪岳の頬についた汚れを拭ってやると、獪岳の後ろからついてきた隊士達にも微笑みかけた。
「獪岳さん、頑張りましたね。後ろの皆さんも。今日は私の屋敷でおやすみなさいな。お話は聞いています。なんでも、私に手取り足取り教えて欲しいとか」
「棋怒川さん……」
「なんです? 獪岳さん」
「こいつらは、」
「ええ。全て知っています。貴方の烏が私に報告に来ました。人を妬み、嫉み、心無い言葉を浴びせるのは良くないことですわ。なので、そんな方々を直々に叩き直すことにしました」
優しげに微笑んではいるが、その瞳は静かに獪岳の後ろで震える四人を見据えている。
「私は怒っているの。私を馬鹿にするのは、まあ、良いとして。この子の師や、この子自身を馬鹿にされて。コケにされて。……獪岳さん、よく我慢しましたね。今の貴方なら、この方達を簡単に斬り捨てられたと言うのに。いつでも斬り殺せたと言うのに。よく我慢しました。本当に貴方は見処があるわ」
「……」
獪岳は、先程までの怒りがスッと引いていくのを感じた。
この人は、俺を理解してくれている。褒めてくれている。そう思うと、心の中にあるぽっかりと空いた穴が少し埋まった気がした。ほわほわと暖かいものが胸を満たす。
「獪岳さん、一つお願いがあるのだけど、いいですか?」
「……はい、」
「このお試し期間を終えたいのです」
「それは、破門ということですか」
突然の申し出に先程までのほわほわとした気持ちはひっこみ、冷や汗をかく。なんだ、どういう意味だ。
「そんな顔しないでくださいな。私が悪いことしてるみたいじゃないですか。……正式に、私の継子になりませんか」
「へ、」
「貴方に私を見極めろと言いましたが、そろそろ答えは出ているかと思いまして。私としては、貴方のような方が、私の継子になってくださるなら、とても嬉しいのですが……」
「……」
「私は教え方が下手です。自分本位な所があるのは、重々承知しております。ですが、貴方はそれでもついてきてくれました。錆兎も言っていました。貴方はきっと、もっと強くなれる。……私に、そのお手伝いをさせていただけませんか?」
そんなの、そんなことを言われて、義柱のような天才にそのように言われて、誰が断れようか。
「よろしく、おねがいします。棋怒川先生」
「あらゝ、うふふ。……よろしくね。獪岳」
翌日、早朝から有永は、獪岳と共に任務に赴いていた四人と手合わせをしていた。
いつも通りの容赦のない鍛錬である。
まずは、獪岳と打ち合って見せて、鍛錬のやり方を説明し、その後にその四人と打ち合った。
四人は、半日も持たずに逃げ出した。
偉そうに振る舞っていたが、実力や忍耐力は、獪岳よりも遥かに下だったらしい。
「あいつら……」
「あらゝ。去るものは追わず、よ。獪岳。ほら、続きをしましょう」
「はい、棋怒川先生」
「棋怒川先生だと長いでしょう。有永で良いですよ」
「有永、先生」
「うふふ、はい」
後に、有永と仲の良くなった獪岳に、弟弟子達と杏寿郎が少しヤキモチを焼いたのは別の話。