修羅系乙女の鬼殺隊活動記録
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棋怒川有永は、転生者である。前の世で通り魔に襲われ、内臓を寸寸に掻き斬られた後、失血性のショックで息を引き取った。
次に気がついたときは、ヤのつく職業の家に生まれ落ち、なかなかにバイオレンスな家庭環境の中で育った。
三人の兄と二人の弟。有永は、兄弟の中で、唯一の女子であったため、大変可愛がられて育ったが、如何せん力こそパワーな男所帯の家庭である。当人もそれなりに喧嘩っ早い人間に育った。
頭に血が登ると、次の瞬間には相手が血塗れで倒れているというのは、ざらだった。
女だてらになかなかどうして腕っ節が強く、喧嘩の才能もあったようで、負け無しだった。
兄達は面白がって、有永に戦い方を教えた。みるみるうちに強くなっていく妹を見ているのが、楽しくて堪らなかった。
それを見ていた過保護な爺様は、素手ではいずれ限界が来るだろうと、こっそりドスの遣い方も教えこんだ。これもすぐに覚え、14歳になる頃には修羅のような強さを手に入れていた。
さて、ここまで有永の強さを強調すると、まるで彼女がゴリラのようなイメージが付いてしまうかもしれないが、実際はたおやかな乙女である。見た目だけは。
流れるような黒髪を赤いリボンで緩く結び、切れ長で涼し気な目元はたっぷりとしたまつげで縁取られている。
外見だけはなかなかな美少女である。
……振り袖のなかにドスを仕込んでる美少女がいてたまるかという感じではあるが。
好きな男性について訪ねると、「私より強い人ですね」となんとなしに答える。お前より強い男が早々いてたまるかと弟達は、辟易した。
爺様や父様が、連れてきた許婚候補を尽く負かし、泣かし、母を困らせた。
「だって、みんな私よりも弱いんですもの。そんな人にこの身を捧げるなんて、とてもとても……」
それが有永の言い分であった。
女学生として、青春を謳歌し始めると、先輩、同輩、後輩に関わらず、モテにモテまくった。容姿もあるが、一番は、校内に乗り込んできた悪漢を殴打一撃でのしてしまった事件が原因だ。
ひらりと流れるように懐に入り込んで、鳩尾に一発。
そして、手を軽く振りながら、「あらゝ。その程度で私のシマを荒らそうとしたのですか? 恥を知りなさいな」と言い放った。
その時、女学生達に衝撃が走った。無意識的に、いいとこのお嬢様達は、退屈な日々に刺激を求めていた。そして、そこに、容姿端麗でありながら、苛烈な彼女がが現れたのだ。そりゃモテる。
棋怒川有永伝説は、瞬く間に女学校中に広がり、羨望の眼差しを集め始めた。
そんな楽しい学園生活を送っていた有永に転機が訪れる。
月明かりさやかな夜。有永は、それと相見えた。
それは、爛々と光る下卑た目で、一人夜風に当たっていた有永を見つめていた。そして鋭く伸びた爪で襲い掛かったのだ。
後ろから覆い被さってきた影に、有永は、回し蹴りを喰らわせた。ほぼ無意識である。ちなみに、有永が履いているブーツの靴底には鉄板が仕込まれており、一撃がクソほど重い仕様である。殺意が高い。
それは、普通なら腰骨を折り、すでに重症のはずであったが、すぐに立ち上がってきた。
「あらゝ。こんな夜更けにどなたでしょうか? 御免遊ばせ。足が滑ってしまいましたわ」
「ひはは、気の強い女だ。良いねぇ……泣き顔が見てぇなぁ。嬲り殺してやるぜぇ」
「あら、これはもう正当防衛しかありませんね」
兄から教わった構えをとる。
襲い掛かってきたそれを、軽くいなし、首元に手刀を叩き込む。しかし、全く効いておらず、有永は首を傾げた。
「折るつもりで叩き込んだのですが。存外硬いのですね」
「……俺は鬼だからなぁ、さっきは驚いたが、お前みたいな小娘の手刀なんか効くかよ」
「あらゝ……」
ならば、と振り袖の中からドスを取り出す。
「人では無いのなら、抜いても構いませんよね?」
逆手に持ったドスに、鬼は顔を引き攣らせる。流石に引いた。何だこいつ、ただの女学生じゃあねぇのか。
「お覚悟、どうぞ」
ドスで鬼の肩を地面に縫い付け、鉄板の入ったブーツで頭を蹴り抜く。何度も、何度も、何度も。鬼から殺気を感じた時点で、立ち向かうことは有永の中で、決定事項だった。
そうしないと、前世のようになってしまう。
最初は、怪我が治っていっていたが、段々とそれも遅くなっていってる。
このまま壊し切るまで、いたぶるつもりであった。
情け容赦など、棋怒川有永の辞典には載っていない。
「それにしても、本当に人では無いのですね。驚きました。直ぐに怪我も治りますし……ふぅん」
「たす、たすけ……、」
「貴方はそうやって、命乞いをする人を何人殺しましたか?」
「へ、」
「貴方からは、噎せ返るような血の匂いが致しました。“アイツ”と同じ臭いが。何人殺したか、言ってくださいな」
「ろく、ろくにん…….だが、しかたなかっ、ぐえっ、助けてぇ……」
「あらゝ。これは正当防衛ですので、そんな悲痛そうな声を出さないでください。私が悪いことしているみたいじゃないですか」
バキリ、と鈍い音を立てて鬼の顎を粉砕する。もう会話をする必要が無いと思ったからだ。再生速度が落ちているため、なかなかもとには戻らなかった。
「キリが、無いですね……困りました。気も失わないとなると……うーん」
そのとき、背後から誰かが近付いてきた。
「どちらさまですか? 生憎、私は今忙しいのです」
鬼から目を離さないまま、言う。後ろの気配は大分戸惑っているようだ。
しかし、有永の目の前に回り込んできた。
「あ、」
その人は、手に持っていた刀で鬼の首を刈り取った。ぼろぼろと炭になって崩れていく鬼を呆然と眺め、はっとして、その人物の顔を見た。
天狗のお面を被った男性。手に握られた刀は精錬され、とても美しい
「廃刀令のご時世に、随分なことですね」
「……」
無言。どうやら、血にまみれた有永のブーツと、地面に突き刺さったままのドスを見ているらしい。有永は、ドスを回収して手ぬぐいで拭いてから鞘にしまった。それにより、目の前の人物もようやく顔を上げた。
「……鬼は、日輪刀で首を斬るか、太陽光に当てなければ死なない」
「はあ。じゃあ、夜明けまでああして甚振っていれば、なんとかなったのですね」
「……」
「一つお尋ねしたいのですけれど、あの化物は普遍的に存在しているのですか?」
「そうだ。それを狩るのが鬼殺隊の仕事だ」
「鬼殺隊……なら、私、鬼殺隊に入ろうかしら。こんな人を襲う化物がのうのうと生きてるだなんて、耐え難いですもの」
「……なら、儂が鍛えてやろう。狭霧山に来い」
「ええ、明日にでも伺いますわ」